ロマンティックあげるよ
爽やかな微風吹きぬける午後3時。
王子イワンは窓辺のイスに呆けたように、ぐったりと身を沈めていた。
「あやー。口から白いもんが出てきとるわ」
「あれが噂のエクトプラズムかしら」
ヒソヒソと影で言葉を交わし合うお付きのリンジーとジャック。
無理もない。
このプチトリアンにいついた、例の娘のラブ攻撃が凄まじすぎるのだ。
所構わずタックルをかます、蛸まっさおの勢いで口に吸いついてくる、こちらが顔を赤らめるような愛の言葉を連続射撃、自室の扉を開ければベッドの上で全裸待機。
「しかしあれやな、あん子もちと変わっとるな」
かなりの風呂好きらしく、1日に3時間もバスに浸かるという。湯が冷めて水になっても上がらずに平気な顔して居座るのだそうだ。また、台所にあったとりどりの魚を見て、いきなり泣き出したとかなんとか。
着る物には無頓着どころか下着姿で小宮内を闊歩して、若き男子たちの鼻から大量出血を余儀なくさせたこともある。
むしろ、リンジーとジャックは不思議に思う。
「イッワーン!」
バイーンと扉が開いて、例の娘アーリアがけたたましく部屋に入ってきた。
敵愾心も露わにイワンが身構える。
「何しに来た、勝手に入ってくるな!!」
「そんなケチなこと言わないでダーリン、すごいもの見つけちゃったの!」
キラッキラした瞳でイワンを見上げていたアーリアは、何を思ったかいきなりドレスの上半身を脱ぎ
「ほら、見て見て。おへその上にピロンって長い毛があるでしょう? あたし今までこんな所にこんなものがあるなんて思ってもいなかったわ。眺めていたら愛おしくなっちゃって、『ギャランドゥ★』って名前を付けたの。ねえイワン、あなたも一緒に可愛がって……」
「出てけーーーーー!!!」
ものすごい剣幕で襟首引っ掴まれ、そのままペーイと廊下に放り出された。
「あんな……あんなウルトラ天然バカ娘、見たことがない……」
青ざめた顔で額に手を当て、ブツブツ呟いているイワンを眺めて、お付き2人は改めて不思議に思う。
主をここまで振り回している娘に、自分たちは嫌悪よりも好意を抱いている。
その頃、部屋を追い出されたアーリアは、廊下の壁に凭れるようにして座り込んでいた。
涙を堪えて足をさすっている。
「いったぁ……」
西の魔女の言うとおり、歩く度に両足にナイフで刺されたような激痛が走る。痛みのあまり悲鳴を上げそうになる。平気な顔して歩いたり、走ったりするのは骨が折れた。
それだけではない。右から左まで、様々な習慣が違いすぎる。
基本的に胸を貝殻で隠すだけだった人魚とは違い、人間は窮屈な服を着なければいけない。友であった魚を食す。台所で重ね積まれていた鯛や平目をみると、涙が溢れた。
さすがに食べる気にはならず、葉っぱばかり食べている。
(でも、ここで弱音を吐いたら、海に戻るしかない)
遠く離れてただ切なく想うしかないのならば、全てを堪えて傍にいたい。例えどんなに相手にされなくても。
小さなため息をついて、アーリアは立ち上がった。
「これっくらい、どうってことない」
恋の為なら、茨の道だって笑って歩いてみせる。
石畳の廊下に小さな靴音が響く。並みならぬ意思を込めているがの如く、カツリカツリと。




