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48話 白

 カクン、とネネムーの首から力が抜けた。


 わたしは、ぐったりとした彼女の体を、優しく床に横たえた。

 まるで眠っているかのような安らかな死に顔だ。


 周囲には、わたしと眷属たちが壊滅させた実験施設の残骸と、血の海が広がっている。

 鼻を突く鉄錆と薬品の臭い。

 普通なら眉をひそめる惨状だけど、レベルアップの余韻に浸るわたしには、戦場の香水みたいに心地よく感じる。


「さてと、やるなら早いうちがいいよね」


 わたしは余韻もそこそこに、空中に指を滑らせて死霊の傀儡(ネクロ・マリオネット)の管理ウィンドウを開いた。

 リストの一番上に、今しがた「収穫」したばかりの『ネネムー・シュタイン』の名前が点滅している。

 このスキルの仕組みは、至ってシンプル。

 殺した相手の魂に、「わたしの下僕として第二の人生を送りませんか?」っていう、とっても親切な案内状を送るだけ。


 普通の神経をしていれば、「ふざけんな!」って拒否されそうな案件だけどね。

 彼女のあの恍惚とした死に顔を見る限り――断られる心配なんて微塵もしてないよ。

 だって、この世界一かわいいアリスちゃんに誘われて、断る人類なんて存在しないでしょ?

 

 わたしが「申請」のボタンをポチッと押した、その直後。

 

 ――ピコンッ!

 

 鼓膜を揺らす、軽快な電子音。

 ウィンドウの文字が、コンマ一秒の遅延もなく「承認済み」に書き換わった。


「……あはっ、即決。早すぎでしょ」

 

 想定通り、いや、想定以上にチョロすぎて笑っちゃうかも。

 案内状の文面すら読んでないんじゃないかな? まるで、ワンクリック詐欺に引っかかるお爺ちゃんみたいな速さだよ。


「クククッ……。姐さん、俺たち以上の『ホンモノ』が仲間になりそうだなぁ」

 

 背後で見ていた骸骨のヴァグも、顎をカチカチ鳴らして笑っている。

 

「よし、契約成立。それじゃあ、ネネムーちゃんをお迎えする『器』を用意してあげなきゃね」


 わたしは、足元に転がる彼女の死体を見下ろした。


 うーん……。

 このまま、元の体に戻すのもアリなんだけど……。

 それだと、種族的には「ゾンビ」になっちゃう。せっかく天才錬金術師を仲間にしたのに、それだとあんまりおもしろくない……。


「かといって、なぁ……」


 わたしは、実験室に立ち並ぶ培養槽を見上げた。

 そこには、ネネムーが作り出したホムンクルスたちが浮いている。

 

 せっかくなら、ハイスペックな「ホムンクルス」を器にしてあげたい。その方が、彼女も喜ぶだろうし、わたしの仲間の戦力アップにもなる。


 でも、問題が一つ。

 

 どれがいいヤツなのか、さっぱりわからない。

 天才だと自負しているわたしでも、流石に錬金術の知識はゼロだ。

 パッと見、どれもドロドロした肉塊にしか見えない。


「うーん、困ったなぁ。誰か詳しい人いないかなー」


 こんなことなら、ネネムーちゃんの部下を皆殺しにしなければよかった。

 

「へへっ! アリス様ァ! 一匹、隠れてやがりましたぜェ!」

 

 戻ってきたのは、全身鎧のリビングアーマー、モラだ。

 彼はその太い腕で、一人の男の首根っこを掴んで引きずっていた。

 

「ひぃッ……! た、助けて……!」

 

 それは、さっき逃げ遅れた研究員の一人だった。

 白衣はボロボロで、恐怖で顔を引きつらせている。


「瓦礫の隙間でガタガタ震えてやがったんで、引っ張り出してきやした! どうします? こいつもミンチにしますか?」

 

 モラが楽しそうに戦斧を持ち上げる。

 

「待って待って。その人、ちょうどいいや」

 

 わたしはパァッと笑顔を浮かべ、男の元へと歩み寄った。

 

「ねえ、お兄さん。ちょっと教えてほしいことがあるの」

 

「ひっ……!? な、なんでも! なんでも喋りますぅッ!」

 

 男は失禁しながら、必死に頷いた。

 うんうん、素直でよろしい。


「この中でさ、ネネムーちゃんが一番気に入ってた、最強の自信作ってどれ?」

 

「え……?」 

 

「だから、最高傑作だよ。彼女が一番愛情を注いでいたホムンクルスとかってないの?」


 男は、震える指で部屋の中央を指差した。

 そこには、ひときわ巨大で、たくさんの魔法陣に囲まれた培養槽があった。


「あ……あれ、です。コードネーム『(ホワイト)』……」

 

 わたしは、その水槽に近づいた。

 中には、不純物が一切ない、ミルクのように白くなめらかな「肉体」が浮いていた。

 髪も、肌も、閉じられた瞳の睫毛に至るまで、すべてが雪よりも潔癖な「白」で構成されている。そのあまりにも混じり気のない純白さは、生物としての不純物を極限まで排除したような、底知れない不気味さを漂わせている。


「へぇ……。綺麗だね」


 素人のわたしが見てもわかる。これは、すごい素材だ。


「で、ですが、あれでも、まだ完成には程遠いようでして……」

 

 男が、焦ったように叫んだ。

 

「それってどういうこと?」

 

「は、はい……。器としての性能は完璧です。マスター様は常々おっしゃっていました。『完全なる生命』を作りたい、と。それには、『全てを受け入れ、混ざり合う』ようなのがいい。どんな物質も、それが毒でも……拒絶することなく取り込み、自分の力に変える。形を持たず、老いることもなく、無限に変化し続ける……まさに、生物の到達点」


 男は、絶望的な顔で首を振った。

 

「ですが、肝心の『知性』が、宿らなかったんです」


「知性?」


「はい……。どれだけ精巧に脳を作っても、どれだけ魔力を流し込んでも、あれはピクリとも動かない、ただの人形なんです。自我が芽生えない……魂の器として、決定的な欠陥があるんです!」


 男の言葉を聞いて、わたしは思わず「あーあ」と納得してしまった 


 なるほどね。

 そりゃそうだよ。 


 だって、この世界は『ゲーム』なんだから。 

『知性』っていうのは、ようするに、中身にプレイヤーが入っているってことでしょ。うん、そんなのシステム上、一から作れるはずがないじゃん。

 最初から、不可能な挑戦をしていたネネムーちゃんかわいそう。


「……ふふっ」


 わたしは、思わず笑みをこぼした。


「それってつまり……『中身』さえあれば、最強ってことでしょ?」


 今のわたしには、行き場のない極上の「魂」がある。

 そして目の前には、魂が入っていない極上の「器」がある。 


 これ以上ない、運命的なマッチングじゃない?


「決まりだね」


 わたしは指をパチンと鳴らすと、巨大な水槽にヒビを入れた 


「ありがとう、お兄さん。おかげでいい感じの器を用意できそうだよ!」


 わたしは感謝を込めて、男にニッコリと微笑みかける。

 わたしのあどけない笑顔を見て、自分は助かったんだと勘違いしたのか、男はへらりと安堵に頬を緩ませた。


 ズシュッ。 


 影の刃が、男の首を刎ね飛ばした。


「さあ、ネネムーちゃん。新しい体だよ」


 わたしは、水槽から流れ出した白濁した溶液と、その中心にある『原初の白』に向かって、ネネムー・シュタインの魂を解き放った。








※あとがき!


下にて、☆3つお願いします!

次回、ねねむーちゃん、復活なるか! カクヨムコンも無事終わり!あとは祈るだけ!


やっぱりフォロワーが多ければ多いほど、受賞する可能性がありそうなので、ぜひ、下より☆を称えるを3回! お願いします!





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