45話 ご苦労さま
頭上から降り注ぐ、生暖かい肉の雨。
つい数秒前まで巨大なホムンクルスとやらが襲いかかってきたので、優雅にサイコロステーキのように切り刻んであげたのだ。
うん、なかなかの光景だね。
月明かりに照らされた血の赤と、わたしの純白の肌のコントラスト。
うんうん、アリスちゃんのかわいさは、血の濁流の中でもこうして際立っちゃうんだよなー。
わたしは、足元の肉片を靴の裏でグリグリと踏みつけながら、内心でドヤ顔をしていた。
今回の襲撃の理由は、至ってシンプル。
ずばり、『器』の強化だ。
わたしの可愛い眷属たちが増えてきたのはいいけれど、肝心の『器』のレパトリーが少ないんだよね。
今のところ、主なラインナップは死体や骨、鎧なんかを使ったアンデッドだ。もちろん、今のあの子たちも気に入っているけれど、愛する部下のためにも、器はより強く、高性能にしてあげたいじゃない?
そこで、パンドラの残党に聞いてみたわけだ。
どこかに、錬金術の禁忌とされている『人工生命体』の研究をしている、都合のいい人はいませんかーってね。
そこで浮上したのが、この怪しい実験場だ。
どうやらお父様や騎士団に見つからないように、裏社会の流通網を使ってこっそりと薬品や実験体を搬入していたらしい。
おかげで、バッチリ顧客リストに載っちゃってたってわけ。
もし、『ホムンクルス』を製造できる錬金術師を眷属にできれば…… カスタマイズ自由な『生きた肉体』が手に入るってことだ。
これさえあれば、最強の軍団を作り放題じゃない? 夢が広がりんぐだね!
いやー、わたしってば本当についてるなー。
まさか、自分の領地内に、こんな便利な実験をしているマッドな錬金術師がいるなんて。
さすがはアリスちゃん。日頃の行いが良いおかげだね。
わたしは、スカートの埃を払うふりをしながら、チラリと視線を上げた。
天井の大穴から差し込む月光が、わたしをスポットライトのように照らし出している。
わざわざ屋根をぶち破って降りてきた理由?
そんなの決まってるじゃない。
演出だよ、演出。
普通にドアから「こんにちはー」って入ってくるより、天井からガラスの破片と共に舞い降りた方が、このアリスちゃんの完璧フェイスがより際立つでしょ。わたしぐらいの美少女になると、演出までこだわっちゃうんだよねー。
それに、今回はあえて『仮面』をつけていない。
いつもならドクロの仮面で正体を隠すところだけど、今日の目的は『スカウト』だ。
目の前にいるこの錬金術師を、わたしの配下に加えること。
だったら、隠す必要なんてない。
むしろ、わたしの最強の武器である、この『国宝級の美貌』を使わない手はない。
わたしは、完璧な角度で小首をかしげ、目の前でへたり込んでいる少女を見下ろした。
ふーん。
この子が、ここの責任者かぁ。
ブカブカの白衣に、手入れの行き届いた綺麗な髪。
狂った科学者だって聞いてたから、もっと変な爺さんかと思ってたけど、随分とかわいい顔をしてんじゃん。
大きな瞳に、あどけない顔立ち。
うんうん、わたしの百分の一ぐらいのかわいさはあるかな。
あぁ、でも、落ち込む必要はないよ?
わたしの百分の一でも、総人口において0.000001%に入るくらいのかわいさだから。
わたし?
もちろん、わたしはナンバーワンに決まってるじゃん。
彼女は、まるで神様でも見たかのような顔で、ポカンと口を開けてこちらを見上げている。
腰が抜けて立てないのかな?
それとも、わたしのあまりのかわいさに圧倒されちゃったかな?
まあ、こうなることは想定済みだけど。
わたしは、とびっきりのスマイルを浮かべて、彼女に話しかけた。
「ねえ」
鈴を転がすような、甘く、可憐な声色。
それでいて、逆らうことを許さない絶対的な王の威厳を乗せて。
「あなたが、ネネムー・シュタインちゃん?」
わたしの問いかけに、ネネムーはビクンと肩を震わせた。
彼女の瞳孔は極限まで開ききり、頬は興奮で紅潮し、小刻みに震えていた。
「は、はひ……ッ! そうです……! ボクが、ネネムーですぅ……ッ!」
裏返った声で肯定する。
どうやら緊張しちゃっているようだ。まあ、無理もないよね。わたしかわいいから。
わたしが満足げに頷いていると、背後の瓦礫の山から、ガシャガシャという騒がしい音が近づいてきた。
「へへっ、お嬢様! お待たせしやした!」
現れたのは、骨だけの身体を揺らすヴァグだ。
その後ろには、リビングアーマーのヨルグやモラ、ゾンビと化した元パンドラの構成員たちが続いている。
彼らは、芋虫のように後ろ手に縛られた十数人の男たちを、ぞろぞろと引きずっていた。
「生き残ってたネズミ共、全員ひっ捕らえましたぜ! こいつら、どさくさに紛れて裏口から逃げようとしてやがったんで」
ドサッ、と無造作に放り出されたのは、白衣やローブを纏った魔術師たちだ。
さっきまでネネムーの部下として働いていた研究員たちだろう。彼らは全員、顔面を蒼白にし、ガチガチと歯を鳴らして震えていた。
「ひぃぃッ……! た、助けてくれ……!」
「俺たちはただ、雇われていただけなんだ……!」
恐怖に歪んだ顔で、口々に命乞いを始める。
人数はおよそ十数人ってところだ。さっきのでかいホムンクルスを倒しても、経験値入らなかったな……、そんなことを思いいつ、わたしは貴族たちのほうへと歩み寄る。
「ありがとう、みんな。ご苦労さま」
優しく労いの言葉をかけると、スカートを揺らして捕虜たちの前へと歩み出た。
「あ、あの……! 命だけは……! どうか……ッ」
一番手前にいた男が、涙と鼻水を垂らしてわたしを見上げる。わたしは、慈愛に満ちた聖母のような微笑みを彼に向け――。
――ズシュッ。
無造作に、影の刃でその首を刎ね飛ばした。
――――――――――
※あとがき
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
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実は……ランキングが超絶落ちてしまいました……!(血涙)
まあ、数日更新さぼったせいだよね……。本当にカクヨムって厳しい。
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次回、ピュピュア、ついに出禁解除か……?
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