水底に揺れる不穏
※前話:炎のステージで慎介の“過去の影”が揺らぎ、巨大な亀との戦いを突破したが、機械には不穏なノイズが走り始めた。
先日のステージで画面が乱れたことが気になりつつも、
四人はいつものように灰色の箱の前に集まった。
爽太が電源を入れる。
「Mintendo」のロゴが表示されるまで、
ほんの少しだけ時間がかかった。
慎介が眉をひそめる。
「……昨日より読み込みが遅いな」
孝二は静かに言った。
「やっぱりどこか壊れているのかもしれません」
好機は淡々と答える。
「壊れていたら修理して使えるようにしたらいいんだ」
画面が切り替わる。
そこは、昨日までとはまったく違う世界だった。
青い背景。
ゆらゆらと揺れる水の層。
泡が立ち上り、魚のような敵がゆっくりと漂っている。
爽太が声を上げる。
「お、今日は水の中か。なんか涼しげだな!」
好機は操作の変化に気づいたようだ。
「動きが重い……水の抵抗を再現してるのか?」
孝二はキャラの動きを観察しながら言う。
「地上とは異なる動きですね」
爽太は十字キーを押し、キャラを泳がせた。
しかし── 水中の操作は、地上とはまったく違った。
常に浮かんでいられ、速度の変化が遅い。
爽太はすぐに適応できず、キャラはふらふらと泳ぎ続ける。
「うわ、止まれねぇ!」
慌ててボタンを押すが、キャラはゆっくりと流されていく。
そこへ、白いイカのような敵が不規則に動きながら近づいてきた。
孝二 「この敵、動きが読めませんね……」
爽太 「くそっ、避けられない!」
キャラは白いイカに触れてしまい、最初に戻される。
慎介は静かに言った。
「水中は動きがすぐに変えられないようだ。普段より周りをよく見て慎重に進め」
爽太は頷き、再び進む。
孝二は独り言のようにつぶやく。
「今までの敵もそうですが、実際に近い生物はいるものの、やはり見たことはないですね。 仮想的な世界で物語と考えるのがいいのでしょうか?」
次は赤や緑の丸みのある魚の群れが迫ってくる。
爽太は勢いよく突っ込んでしまい、またやられた。
「魚多すぎ!」
慎介は肩をすくめる。
「焦るな」
そして── 水中ステージ特有の“危険”が現れた。
画面下にぽっかりと開いた穴。
その周囲の水が、穴に向かって流れている。
爽太が近づいた瞬間── キャラが吸い込まれ始めた。
「え、なんか引っ張られてる!? うわっ、吸い込まれる!」
慎介 「……穴の近くは流れが強いみたいだな。」
孝二 「水流による吸引……実際の海もこんな危険な場所があるのでしょうか?」
爽太は必死にボタンを押すが、
キャラは穴に吸い込まれ、画面が暗転した。
「うわー! むずい!」
慎介は画面を見つめながら言う。
「水中は地上より危険だな」
好機は淡々と観察していた。
「この小さな箱で、水中と地上の動きを別に制御しているとは……なんて高度なんだ」
爽太 「そんなことより、どうやって避けるんだよ!」
孝二 「なるべく、上に泳ぐように進むしかないんじゃないでしょうか?」
何度かの失敗を繰り返しながら、爽太は少しずつ水中の操作に慣れていった。
敵を避け、吸引穴をかわし、慎重に進む。
やがて、ステージの終盤に差し掛かった。
狭い通路。
上下に動く白いイカ。
赤い魚の群れ。 そして、複数の吸引穴。
爽太 「うわ、ここむずっ!」
慎介 「落ち着け。敵の動きを見ろ」
爽太は何度か吸引穴に引き込まれながらも、ついにゴールに到達した。
「よし! クリア!」
ステージクリアの音が鳴り、画面が切り替わる。
──その瞬間。
画面が大きく乱れた。
ノイズ。 色の反転。 黒い線が走り──
そして、画面は完全に真っ黒になった。
音も消えた。 ボタンも効かない。
慎介 「……これはさすがにおかしい」
孝二 「内部のどこかが故障している可能性がありますね」
爽太 「発掘品だし、壊れてても不思議じゃないけど……」
好機は淡々と言った。「
……他の太陽エネルギーで動く物はちゃんと動いているし、太陽エネルギーが途絶えているというわけではなさそうだな」
その時、孝二は初日の調査終了時の出来事を思い出した。
孝二 「……そういえば、発見初日に好機が分解してましたよね?」
爽太 「……あ」
慎介 「そのせいなのか?」
好機は驚いたように目を見開く。 自分が原因だとは思っていなかった。
「いや、俺は元に戻した。壊してはいない」
孝二 「でも、調査初日は特に異常はありませんでしたよね?」
爽太 「……確かに」
慎介 「まだ決めつけるには早いんじゃないか?」
好機 「……俺を疑うのか?」
孝二 「原因が何か考えているだけですよ。原因がわかれば修理もしやすいでしょう?」
空気が一気に重くなる。
孝二 「今日はもう遅いので、明日、機械の状態を調べてみませんか?」
好機 「……好きにしろ。俺は知らん」
爽太 「おい、ケンカすんなよ……」
慎介 「……」
渋谷の地下の静けさが、
四人の間の不穏な空気をさらに強めていった。




