空に浮かぶ足場と落下する床
※前話:渋谷の地下で“灰色の箱”を発掘した四人は、拠点でその正体を調べ始める。
ゲーム機を発見した日から一週間ほど経った。
四人は毎日少しずつ調査を進め、
右に進めばステージが続くこと、落ちても“ステージの最初に戻るだけ”で危険はないことを理解していた。
今日も太陽光からの電力は十分で、絶好のゲーム日和だ。
灰色の箱の前に、爽太、慎介、好機、孝二の四人が集まる。
電源を入れると、見慣れてきた「Mintendo」のロゴが表示される。
ゲーム機やカセットにも同じ文字が刻まれていることから、
これを作った“店”の名前が「Mintendo」なのではないか──そんな仮説も生まれていた。
画面が切り替わる。 昨日とは違うステージが映し出される。
空に浮かぶ細い足場。 左右に動く床。 その下は、底の見えない谷。
慎介が画面を見ながら言う。
「……なんか、昨日よりだいぶ足場が少なくないか?」
爽太はもうコントローラーを握っていた。
「でもさ、昨日の調査で危険はないって分かったろ? 落ちても“最初に戻るだけ”。だったら、行けるところまで右に行ってみようぜ」
慎介はその様子を見て、ふと口を開く。
「……お前、昔からこうだよな」
爽太が画面から目を離さずに聞き返す。
「ん?」
「渋谷の廃ビルで迷子になったときもさ。普通なら泣くか怖がるかするだろ。 お前、あの時も“もっと奥まで行ってみようぜ”って言ってた」
爽太は笑った。
「そうか? 探検できて面白かったけどな。 知らないものって怖さもあるけど……それ以上にワクワクするだろ? もっといろんなものを見たいって思うじゃん?」
好機が画面の端を指でなぞる。
「足場、動いてるな。しかも一定の間隔で。 文明の人たちは“動く床”を作る技術があったのかもしれない」
孝二はノートを膝に乗せて考え込む。
「悪いことも良いことも起きない……これは何のための装置なんでしょうね。 まだ情報が少なくて、判断できません」
慎介は爽太の手元をちらりと見た。
「……行くのはいいけど、無茶はするなよ。 何度も落ちると、また1-1からになるんだろ?」
爽太は笑って十字キーの右を押す。
「分かってるって。気を付けて進むから」
小さな人影が画面の左端から走り出す。
目の前には細い足場。
その先には少し離れた別の足場。
爽太は勢いよくジャンプした。
「とりゃっ!」
……が、届かなかった。
キャラは足場の手前で空中に足を踏み出し、そのまま谷へ落ちていく。
画面が暗くなり、すぐに同じステージの左端に戻される。
「うわ、飛びすぎた!」
慎介は肩をすくめた。
「気を付けるって言った側からこれかよ。ジャンプの距離、まだちゃんと分かってないんだろ。 ボタンの押し方で高さが変わるって、昨日好機が言ってたじゃねえか」
好機がうなずく。
「押しっぱなしと軽く押すので高さが違う。 さっきのは押しすぎたな」
二回目。 爽太は少し短めにボタンを押す。
今度は足場に乗れた。
「よし!」
そのまま勢いに任せて次の足場へ── と思った瞬間、
画面右側から亀のような敵がぬっと顔を出した。
爽太は敵の存在に気づかず、そのまま前へ進みすぎてぶつかった。
「うわっ、敵いたのかよ!」
キャラがやられ、またステージの最初に戻される。
慎介が少しだけ苦笑した。
「前、ちゃんと見ろよ。足場に乗れたからって安心しすぎだ」
好機は敵の動きをじっと観察している。
「今の敵、一定の間隔で顔を出してる。 タイミングを合わせれば避けられるはずだ」
三回目。 爽太は敵のタイミングを見計らってジャンプ。
今度は敵の頭の上に乗り、甲羅を蹴り飛ばした。
「おお、倒せた!」
慎介は少しだけ安心したように息を吐いた。
その先には左右に動く床があった。
爽太は床が近づいたタイミングでジャンプしようとしたが、
一瞬遅れて床の端にかすっただけで落ちてしまう。
「くそ、タイミングむずい!」
孝二がノートに何かを書き込みながら言う。
「動く床……動く床を使う感覚を掴むための訓練に使っていたんでしょうか? 先代文明の生活環境において必要な感覚を学ぶ装置だったのかもしれません」
好機は動く床の軌道を目で追う。
「一定の速度で動いてる。 もし実際にこういう構造物があったなら、見てみたいな」
何度か失敗を繰り返しながらも、
爽太は少しずつタイミングを掴んでいく。
やがて、爽太は動く床に乗り、渡り切った。
その先にはまた細い足場が続いている。
その下は相変わらず深い谷だ。
爽太は一瞬だけ深呼吸し、勢いよくジャンプした。
今度は足場の真ん中にきれいに着地する。
「よし!」
成功したと思ったその瞬間── 足場が真下に落下し、
キャラも共に落ちていった。
爽太は驚きの声を上げる。
「なんでー!」
孝二は首をかしげながら言う。
「乗ると足場が落下しましたね。危険すぎて現実にはありえない構造ですし…… これは現実とは違う、この“絵”特有の世界観なんでしょうか」
爽太は操作に慣れてきたのか、
ミスせずに先ほどの落下足場の手前まで戻ってきた。
「次は止まらず、連続してジャンプして向こうまで飛び越えるぞ」
爽太は足場に飛び乗り、そのまま右へ進み、
最後の大きな谷を越えるジャンプを決める。
キャラがゴールの旗に触れ、軽快な音が鳴った。
画面が切り替わる。
爽太は振り返って三人に笑いかけた。
「やっぱ、未知を知るって面白いよな」
好機はゲーム機そのものをじっと見つめている。
「ジャンプの高さ、床の動き、敵の出現タイミング…… 全部、ちゃんと制御されてる。 どうやって制御してるのか、いつか解き明かしたいな」
孝二はノートに今日の観察結果を書き込む。
「落下する足場があって、どうも現実世界の再現ではなさそうですね。 物語の表現方法の一種なのかもしれません」
渋谷の地下で見つかった灰色の箱には、まだまだ謎が多い。
しかし四人は、それぞれの視点で、
今日も少しだけこの文明に近づいた気がしていた。
次話、炎が揺らめく危険なステージへ。慎介の胸に“過去の影”がちらつく。 (明日20:00頃更新予定)




