表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/16

不穏

校舎の空気は妙に重く、それは人のいない独特の静けさではなくて

まるで、何かが息をひそめているような、静けさだった


真也は教師から受け取った資料に目を落としながら、机に並ぶ名前を確認していく

この地域の失踪者は合計で五名。

その内、学生が三名。その内の二名がこの学校の生徒だった。


二人とも失踪前に変わった様子は見られなかった


「警察の方でも、まだ原因は・・・」


教師の声は震えていた。

何日も眠っていないのか、目の下には深い隈が浮かんでいた


「調べてますよ」


真也は短く返事した


「いじめや家出の事も調べたんです、でも何も掴めなくて」


なんの痕跡もない、あるいは一般人には気が付けない。

こういうパターンは地球人よりも、宇宙人の方が確率が高い


ここに来る前にツバキに言われた言葉だった

教師から手渡された資料にも決定的な共通点は見当たらない


「後はお任せください」


真也はそれだけ言うと教師に背を向けた

そして、もう一度資料に目を通した

職員室を出てから十分なほど。

誰もいない図書館の一角を借りて、机の上に資料を広げる。

夕陽が窓から差し込み、紙の端を赤く染めていた。


失踪者五名

そのうち学生三名。


二人がこの学校の生徒

一人は近隣の高校の生徒

年齢は十六歳から十八歳。

性別もバラバラ、

交友関係にも接点はなく、家出の形跡もない。

共通点がこれと言ってない。


「分かるかよ…」


通常の失踪とは違い宇宙人との関連が強いと思われる

だから、自分たちが呼ばれた。

そんな事は分かり切った話だ、だが、解決出来るかはまた別件。

真也は資料を閉じた。

頭が痛くなる。

ここ二か月、いや、四か月。

訓練ばかりしていて、やっとの任務でこの有様だ。

自分の価値を証明し続けれなければ、千恵の命は。

とっくに覚悟は決まったものだと錯覚していたのだろうか。


「ほんとにさ」


手に入れた力だって便利なものじゃない

高速癒合、名前通り人より早く傷が治るだけ。

ツバキは「能力に頼るな」と何度も言っていた。

それはつまり、この能力は多用出来るような能力ではないということ、

千恵のような超能力じゃないってことだ。


「いや、」


真也は首を横に振った。

違う。

そんな考え方はよくない、それに今は任務の最中だ。

考えるべきは失踪した人のこと、自分のこととは切り離せ。


席を立ち、図書室の外へ出た。

廊下の驚くほどしずかで、

彼は心の中のあれこれをすべて忘れられる気になった。

窓の外では風が木々を揺らしている。

なのに校舎の中だけは、

まるで時間が止まったみたいに微かな空気の動きも感じ取れた。

息抜きに少し廊下を歩く。

一歩、一歩

真也の足音がどこまでも遠くに響く。


その時だった。

隣の校舎と繋がる渡り廊下、廊下の角の所に何か人影が見えた


「あ」


思わず声が出る

職員室に向かう途中ですれ違った少年だ。

白いシャツにカーディガンを羽織っている。

細い身体で、極普通の高校生だ。


なのに妙に印象に残る。

少年は角を曲がった。

真也は小走りになり、後を追いかけた。


「待って!」


大声を出して呼び止めるが、返事は返ってこない。

角を曲がると、そこには誰もいなかった。


「は?」


左右を確認したが、辺りに隠れれそうな場所はなく、

非常階段などもない。

それなのに少年はどこかへ姿をくらました。

真也は眉をひそめた。

気のせいだったのだろうか、確かに見た気がしたするのだが。

その時ポケットの無線が震えた。


『真也ー』


千恵の声だった


『聞こえる?』


「聞こえるよ」


『何かあった?』


「特に有力な情報はなかった」


目の前で起きた話をしようと思ったが、直前で言いとどめる

千恵を危険に晒したくはない。


『こっちも空振り』


千恵は話を続けた


『行方不明ではあったけど、ただの家出だったみたい』


「そう」


『それじゃ、頑張って!』


通信が切れる

真也は溜息を吐いた。

やっぱり気のせいか

そう思った時、

少年が消えた方向とは逆の方向から視線を感じた。

なんとも言えない感覚に反射的に振り向く。

視線の先には三階へ続く階段があった。

その踊り場。

そこに少年はいた。

こちらをジッと見て動かない、ただその目からは敵意を感じられなかった


「ねぇ君!」


真也は階段を駆けあがった

今度こそは見間違いじゃない。

しかし、少年は真也に背を向け歩き始める。

走りもせず、ゆっくり歩く。

だが距離は一向に縮まらない。

真也は思わず舌打ちをしてしまう。

三階へ着いた頃、少年はすでに夕陽を背負いながら廊下の先を歩いていた。


「おい!」


真也が声を張り上げると少年はピタリと動きを止める。

今度は警戒しながらゆっくりと距離を詰めていく、

一歩、また一歩と。

やっと少年の顔が見える距離まで近づくことが出来た、

彼はこの学校の制服を着ていたが、リストに載ってる人物とは違った。


「あんた、僕と同い年だよね」


少年が先に口を開いた。


「何を根拠にそんなこと」


「根拠は僕の勘だよ」


真也は眉をひそめた。

冗談で言ってるようには見えない。

彼は本気で言っている


「まぁ。別にだからどうしたって訳じゃないけど」


少年の目はどこか霞んでいるように感じ、

真也の胸の奥をざわつかせた。


「誰にせよ。ここに長居するのは危ない。家に帰るんだ」


真也が忠告すると

少年は困った笑いを浮かべた


「君は僕の何を知ってる?」


「何をって…」


真也が言葉を詰まらせたとき、旧校舎の方から大きな物音がした。

二人は同時にそちらを見る。

即座に判断を迫られた。物音を確認しに行くか、少年の身柄をおさえるか。

迷った末に真也は少年に向き直った


「悪い、今度話を聞かせて貰えるか」


「君は優しいね」


真也は振り返る事もせず再び走った。


「またね」


少年の声はどこまでも澄んでいた


――――――

同刻。

校舎から数百メートル離れたビル街、

一際高いビルの屋上、一人の少女がフェンスにもたれていた。

長い髪が風に揺れている。

夕陽を受けて淡く光るその姿は、どこか人間離れした美しさがあった。

少女は遠くそびえる校舎を見ていた。

正確には

校舎の中にいる少年を。


「また勝手に動き回ってる」


困ったような声で小さく呟く、ただそこに怒りの感情はなかった

隣にいた青年が笑った


「心配か?」


「違う」


食い気味に返答する

その様子に青年はさらに笑う


「じゃあ何だ」


「保護対象だから」


「ふーん」


青年は一瞬にして興が冷めわざとらしく少女を挑発した

少女は眉をひそめ、相手を睨みつけた

保護対象。

その通り、それ以外の何者でもない。

今、校舎を自由に動き回る少年は紛れもない地球人、

なのに、彼は確かに影響を受けている。

本来ならあり得ない存在、説明のしようがない。


それ故に彼は狙われる。

興味本位に研究の検体として、あるいは、同族の餌として

だから今もこうして守る。


「行くぞ」


青年が少女へ声を掛ける


「ここらに長居するのはマズい」


少女はジッとその場から動かず、

ただ一人少年の方だけを見つめていた。

彼が笑顔を見せると心から安心する。

姿が見えないと、もしもの想像をして心配になってしまう。

胸の奥に自分も知らない感情が顔をだす。


「…少し」


少女は呟く


「もう少し、あいつが戻るまで待つ」


青年は呆れたように肩をすくめた


「好きにしろ。ただ、お前の身を第一に考えろ」


少女は返事の代わりに、空を手のひらで二度はたいた。

青年が屋上を後にする時、

少女の優しい瞳が夕陽を映し出しているのが目に入った


「これを、過保護って言うんだっけか」


――――――


旧校舎に駆けこむと、薄暗い廊下には誰の姿もなかった

地平線へ沈んで行く陽の光が、床の影を長く引き伸ばす。

「誰か、そこにいるのか」


確かに物が倒れる音がしたはず、

真也は注意深く周囲を見回した。

すると、一番奥の教室の前で何かが散らばっているのが目に入った

近づいてみる。

掃除用具入れの扉が半開きになっていた。

中からは、ほうきやバケツ。モップが飛び出していて、

廊下になだれていた。


「…なんだよ」


思わず肩の力が抜けた

どうやら扉の立て付けが悪くなってたらしい。

そのせいで、風に煽られて簡単に扉が開き中身が落ちてきたのだ。


「脅かさないでくれよ…」


真也は小さく溜息を吐き、散らばった道具の片付けにあたった

しゃがみ込み、手を広げモップやほうきを拾い上げる。

その時、その隙間から金属が落ちる音が廊下に響き渡った

顔を傾け足元を覗くとそこには一つのキーホルダーが転がっていた、

蝶の形をしている、銀の小さいキーホルダーだった。


掃除道具をロッカーの中へしまい、そのキーホルダーを拾い上げる。

ぐるっと回してみると裏にはないか書いてあってよく見てみると、

そこには『藤崎 湊』と名前が彫ってあった


真也は慌てて資料を開く、失踪者一覧を一枚一枚。

そしてあるページで手を止めた。

そのページにはある人物の写真と名前が書いてあった。


藤崎 湊


真也の喉が鳴る。なぜこんな所に失踪者の持ち物が。


一方その頃。

住宅街の外れにある小さな公園で、千恵もまた資料と睨めっこしていた。

陽はほとんど沈み、

公園の街灯の明かりがポツポツと点き始めていて。

聞こえるのは風の音ばかりでそれ以外は何も聞こえることがなかった。


「うーん。…」


資料をめくり、載っている情報に目を通す

名前、住所。犯罪歴の有無まで。

そのどこにも違和感はなく、どれも普通だった。

だからこそ分からないことがあって、

何かが抜け落ちている気がする。


「真也の方は何か見つけたかな」


そう呟いたとき、千恵は視界の隅で何かが動いた

公園の向こう、フェンスの先。

誰かが立っている。

背は低く、子供のようにも見えた。

その影は千恵と目が合うとすぐに路地の方へ逃げ出した。


「待って!」


千恵は公園を飛び出した。

まだ、能力を使うまでもない、相手は子供だ。

そう思った。

しかし、角を曲がった所で、人影は消えていた。


「え?」


周囲を見回す。空き缶が転がる音が聞こえた。

振り向くと数十メートル先、さっきの影がいた。


「速っ!!!!」


千恵は再び地面を蹴る、今度は能力を最大限に活用した。

身体は羽のように軽くなり、一歩で三メートルほどの距離を駆け抜けた。

もの凄い勢いで景色が流れて行く。

だが、影はどこまでも逃げる。

逃げる。

逃げる。

そして、行き止まりの路地へと飛び込んだ。


「捕まえた!」


千恵も追いつき、ギュッと影の手を掴む。


「ひゃあっ!?」


振り返ったのは十歳くらいの女の子だった。

肩まで伸びた黒髪に、鮮やかな蒼色の綺麗な瞳。

予想外の反応に千恵も思わず力を緩める。


「えっと…」


女の子は怯えたように肩を震わせた


「ご、ごめんなさい!」


「いや、う~ん。その…」


今度は千恵が困惑する番だった。

彼女はもっとこう異形の恐ろしい相手を想像していた

だが目の前にいるのは、どう見ても無害な子供だ。


「何で逃げたの?」


そう聞くと、少女は目を泳がせた。


「見つかったト、思ったから」


「見つかった?」


少女はコクリと頷いた。

その仕草は年相応だ。

けれど、何故だろう、どこか違和感があった。

まるで一つ一つの動きが誰かを真似しているかのような。


「君ひとり?」


「うん」


迷子か。そう思った時。

少女のお腹が鳴った。ぐうぅぅぅと盛大な音。


「お腹すいてるの?」


少女は恥ずかしそうに頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ