第4章 「俺は悪くない」
「お義母さん」
私は立ち上がった。
「今日はありがとうございました」
「いいのよ」
「お茶、美味しかったです」
「今度はもっとゆっくり飲みましょう」
頼子さんが笑った。
「健太抜きで」
私も、少しだけ笑った。
そして玄関へ向かった。
靴を履く。
ドアノブへ手を掛ける。
そのとき。
「……待てよ」
背後から聞こえた。
健太だった。
低い。震える声。
「ふざけんなよ……」
ドスドスと足音が近づいてくる。
「二人して俺を馬鹿にしやがって!」
私は玄関を出た。
そのまま道路へ向かおうとしたところで。
「待てって!」
腕を掴まれた。
「痛い」
振り返る。
健太の顔は真っ赤だった。
「離して」
「お前、なんで黙ってたんだよ!」
「何を?」
「母さんがあんなこと思ってたなら、先に俺に言えよ!」
私は耳を疑った。
「私が?」
「そうだよ!」
「どうして?」
「お前がちゃんと嫁としてやってれば、こんなことにならなかっただろ!」
一瞬。
頭の中が真っ白になった。
そのあと。
不思議なくらい、冷静になった。
「ああ」
私は呟いた。
「やっぱりダメなんだ」
「は?」
「あなた」
私は健太を見た。
「今の話を聞いて、それでも私が悪いって思うんだ」
「だってそうだろ!」
「お義母さんは、あなたに怒っていたのよ」
「違う!」
「何が?」
「俺は親を大事にしてる!」
健太は叫んだ。
「俺は立派な息子だ! お前が俺の顔を立てないから、話がおかしくなったんだ!」
「……」
「全部お前が悪いんだよ!」
そのとき。
私の中で。
最後に残っていた何かが、切れた。
怒りではなかった。
悲しみでもなかった。
むしろ。
静かな納得だった。
――この人は、変わらない。
何を言っても。
誰に言われても。
きっと最後には。
「俺は悪くない」
そこへ戻ってくる。
だったら。
もう十分だ。




