番外編7 七夕の夜空に捧ぐ花束を 2
「だけどさ、天の帝ってお節介だし勝手だよな」
「そうだね」
「くっつけておいて引き離すなんて意地が悪過ぎる、俺ならストを起こして断固抗議だ」
「ほう?」
「天の川だって泳いで渡ってやる」
「星でできた川だ、とても広いだろうし、深くて、凍り付くほど冷たいだろうよ」
「それでも渡る」
「途中で力尽きて死ぬかもしれない」
「お前に会えないなら死んでいるも同然だ、だから絶対会いに行く」
「そうか」
嬉しそうにクスクス笑う理央の、肩の揺れが俺にも伝わってくる。
あの迷宮でのことを思い出すな。
「ならば、僕も愛しい君に手を差し伸べよう」
「だったら完璧だな」
「ああ、僕も君に会えないなんて、死んでいるようなものさ」
理央。
お前は俺に全てを預けてくれたんだよな。
だから今度は俺の番だ。
この体も、心も、何もかも全部お前だけのものだよ、理央。
「理央」
「健太郎」
見詰め合ってキスをする。
幸せはいつだって俺達二人の間にある。
「ふふ」
「なんだよ」
「君こそなんだ、嬉しそうにして」
クスクスと笑い合いつつ、くっついてまた景色を眺める。
「そも、七夕とは、女性が裁縫や織物などの上達を星に願う中国の祭事が発端とも言われている、あとは日本の豊作を祈る神事だね、神のために汚れのない衣を織って捧げるのさ」
「へえ」
「その衣を織る乙女を棚機津女と呼んだそうだよ」
「お前の方が詳しいじゃないか」
まあね、なんてさらっと言う理央に脱帽だ。
博識で格好いい、また惚れ直す。
「だったら本来の七夕はひな祭りみたいに女の子のためのお祝いだったわけか」
「傾向としてはそのようだね」
「男でも裁縫や織物の上達を祈っていいとか、童貞なら機織りも許されたとか?」
「かつては男女の役割がはっきりと別れていた、故に裁縫や織物の上達を祈るのは女であり、神の衣を織るのも乙女なのさ」
なるほど。
性別の括りっていうより、概念の話に近いのか。
でも裁縫や織物の上達を祈る理央は可愛いだろうし、神の衣を織る理央は神聖で神々しいだろう。
どっちも絵になるが、どっちかといえばそれは俺の役目な気がする。
「でも俺が織姫だよな、やっぱり」
「何故?」
「俺が機を織るし、理央のために衣を作りたいから」
「僕は神ではないよ」
「知ってる」
魔女だろ、と耳元で囁くと、理央はクスクス笑う。
「では、僕が彦星なのかな?」
「それも俺がやるに決まってるだろ」
「君一人で七夕が成立してしまうじゃないか、ならば僕は天帝の役でもやろうか」
「神様だな」
「おや、そうだね、思いがけない展開だ」
二人で笑う。
楽しい。
「でも、僕が天帝なら、君を二つに割いたりはしないよ」
「怖いこと言うなよ」
理央は片手に持っているグラスを軽く揺らして、中身を飲み干す。
「織姫の君も、彦星の君も、どちらも僕のものさ、だからどちらも傍に置いて、たっぷり愛してあげよう」
「お、おお」
なんかエッチな新解釈だな。
天帝に溺愛される織姫と彦星、うーん、悪くないかもしれない。
いずれ婿入りするわけだし、理央に囲われるって考えるとドキドキしゅる。
「しかし、君が二人もいては大変だろうな」
「え?」
「僕の身が持たない」
うぐッ、そ、それってつまり。
―――理央は体を摺り寄せ、上目遣いで見つめてくる。
「ねえ、健太郎」
「な、何?」
「あと、192日だよ」
「うっ!」
「あと192日で僕の誕生日だ、以前交わした約束を―――」
ひょえっ、あ、脚!
脚で俺の脚をスリスリしてるッ、ひええッ!
え、エッチだッ! ドキドキするッ! ぴぃ~ッ!
「忘れては、いないだろうね?」
「ひゃい」
「結構」
うぅーッ!!
最近こうやって折につけ煽ってくるんだ、勘弁してくれぇ。
俺は健康で健全な男子高校生だから当然エッチなことに興味があるし、正直に言えば物凄くシたい。
だが、だがっ! 大切だからこそけじめをつけたいこともある!
性欲に任せて抱き合うなんてケダモノ同然だ、あまつさえ責任も取れないのにそんな真似をするなんて最低のゲスだ。
避妊しても絶対じゃない。母さんに散々言い聞かされた。
それに理央は天ヶ瀬家の大切な跡取り、万に一つも傷なんてつけられないからな。
母さんにだって確実に殺される、だからッ、だからせめて籍を入れられる十八になるまでは、我慢!
―――気付くと理央が笑っている。
こいつぅ、おのれぇ。
「な、なあ、理央」
「ん?」
「お前はさ、その、まだ経験とか、ないんだよな?」
「何がだい?」
「だからその、つまり俺と同じ、って言うか、処」
ふがッ!
理央は近くのテーブルに空のグラスを置き、いきなり鼻を摘まんでくる!
いててッ、これ地味に痛いんだッ、うぅッ!
「敢えて尋ねることか?」
「しゅ、しゅみまふぇん」
「デリカシーの欠片もないな、猛省したまえ」
「ごめんなふぁい~ッ!」
「そもそも何故そんなことを訊いた」
「らって積極的だからぁ」
「この大バカ者め、前提として僕は君に好意を持っている、加えて、若く健康な者であれば性別を問わず性欲があって当然だろう」
「しょうでしたぁッ、反省しまふぅ~ッ」
摘ままれた鼻から指をピッと引き抜かれる、痛い!
うう、ジンジンする。
でも女の子にする質問じゃなかった、今のは完全に俺が悪い。
「それに」
「ん?」
「これには訳がある」
理央は俺から視線を逸らすと、ちょっと拗ねたように唇を尖らせる。
「僕にとってとても重要な事情だ」
「なに?」
「君が今夜、僕に手を出すのなら、その折に教えてやってもいい」
「我慢します」
チッと舌打ちされた。
よしよし、ごめんな?
すっかり拗ねた理央を抱き寄せて頭を撫でる。




