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番外編6 某県 廃旅館にて 2

連絡通路を引き返し、旅館のロビーまで戻ってきた。

誰もいない。

他の奴らはまだ探索中なのか、そっちもお化けが出たりしていないだろうか。

不審者程度なら殴ってどうにかなると思うが、お化けは流石に殴れないからな。

こんな事なら母さんのナックルダスターをまた借りてくればよかった、あれならきっとお化けも殴れる。


三岳と辺りを窺っていると、不意に「大磯! 三岳ぇッ!」と声がした。

伊地知だ。

一階左側の廊下から必死に走ってくる。


「たっ、たたっ、助かったッ、助かったッ!」

「ど、どうしたんだよ伊地知」

「見た、見たんだよッ、見ちまったんだよォッ! マジで!」


見た? 何を?

縋ってくる伊地知が鬱陶しくて振り払う。

三岳は顔面蒼白で固まっている。

何なんだお前ら。


「見た、見たんだッ、見たんだ俺! お、俺ッ、み、見た! 見たッ!」

「何をだよ、って言うかお前一人なのか?」

「え?」


ハッとなって振り返った伊地知は、慌てた様子で辺りをキョロキョロと伺い、途端にガタガタ震えだす。

腰が抜けたようになっているから仕方なく支えてやった、重い。

廃墟で汗臭いムキムキのラガーマンと抱き合う苦痛、ちくしょう、こんな場所二度と来ないぞ。


「おい三岳、手伝え! そこのソファに座らせるぞ」

「お、おう!」


ボロボロでダニだらけだろう汚いソファだが、ゴミと色々な破片まみれの床よりよっぽどマシだ。

二人掛かりで伊地知を中綿の飛び出したソファに座らせる。

伊地知はまだガタガタと震え続けている。


「伊地知、丹羽はどうした、あいつはどこ行った?」

「しし知らない、分からない」

「はぐれたのか?」

「分からない、俺は悪くない、俺は悪くないんだッ、ああッ、悪くない、悪くない」


何かあったんだな。

だがこの様子じゃ埒が明かない、気付くと三岳まで真っ青になって震えている。

何なんだよこいつら、めんどくせえなあ。

はぁーッ。


「俺、探してくる」


えっと三岳が縋るような目を向けてくる。

だが構わず、伊地知は任せると言い残して、伊地知が走ってきた左側の廊下へ向かうことにした。

お前らどっちもラグビーなんてやってるラガーマンだろうが、その筋肉は見せかけか、ビビってないで自力でどうにかしろ。


この建物の造りは恐らく二階も同じだ。

だから今頃は対戦校の奴らも二階のどこかを探索しているに違いない。

さっきの伊地知の騒ぎを聞いても姿を見せないってことは、声が届かないほど奥の方にいるか、客室内を探索中か。

―――まあ、何もなければの話だが。


一階ロビー正面奥から離れへ向かう連絡通路の左右に二階への階段があり、一階の客室に続く廊下はその階段の更に脇から伸びている。

廊下の片側に客室が並んでいる造りだ。

その廊下の奥には長方形に切り取られたドアのない出入口があって、上に非常階段の表記がある。

ここからだと見えないが階段があるんだろう、つまりロビーからの階段と、あの階段の二か所で上下に移動できるってわけだ。


さて、丹羽はどこだ。

名前を呼びながら探すのは得策じゃない、不審者の類がいたらこっちの居場所を知らせることになる。

あいつらの様子だとお化け被害の方が濃厚だが、相手が人だって可能性もゼロじゃないからな。

その警戒もしておくべきだろう。

やっぱり一番怖いのは生きている人間だ、でも生きていればどうとでも対処できる。


ドアが開いている部屋は中を覗き、開いてない部屋は開くかどうか試して、開くようなら軽く中を覗いて回る。

一部屋ずつ入念に調べていくのは効率が悪い。

そういうのは一通り確認し終えてからだ。

左側の通路沿いの客室を見て回ったが、丹羽はいなかった。

一旦ロビーへ戻ると、俺に気付いた三岳が「丹羽は?」と尋ねてくる。


「いなかった、右側も見てくる」

「お、おお、そうか」

「伊地知は大丈夫か?」


尋ねると三岳は「いや」と言葉を濁す。

伊地知はソファの上で膝を抱えて相変わらずガタガタと震え続けている。

こんなに怯えるなんて、一体何を見たんだ。

まあいい、さて、右側通路の客室を見に行こう。

―――そういえば相変わらず辺りは静かだが、二階に行った対戦校の奴ら、無事だろうか。


右側の造りはやはり左とほぼ同じだ。

廊下の外側沿いに客室が並んでいる。

一番手前の部屋のドアは開かず、二部屋目は開いたからサッと中を確認する。誰もいない。

三部屋目の開きっぱなしのドアから中を確認したところで―――何か、なんだ?

気配がする、丹羽か?

そっと踏み込んで辺りを探る。


「丹羽、いるか?」


小声で呼び掛けてみた。

返事はない、だが。


「ッツ!」


背後で誰かの声がした。

咄嗟に身を低くしつつ振り返るが、誰もいない。

なんだ?

気配だけ感じる。

それに、また視線だ、どこから見ている?


辺りを確認しつつ、部屋の奥を覗き込む。

―――ッツ! 目の前に黒い影のような何かがッ!


「ッお!」


仰け反り即座に身を低くして振り返ると後ろにもいる!

は、挟まれた、なんだコレ!?

咄嗟に横に飛び退き背後を警戒ッ、伊地知が見たって騒いでいたのはもしやコレかッ!

影、だが、謎に厚みがある。

例えるなら黒い霧を人型に固めたような、怖ッ!

またもやリアルSFX再来じゃないか、最近こんなのばっかりだな!

幻の類ではなさそうだ、瞬きしても消えないし、それどころか徐々に近づいてくる!


くそ!

理央がここにいてくれたら!


寄ってくる影どもを避けて部屋から飛び出す!

マジでビビった! だが俺は既にこういう状況は経験済みだ、多少の超常現象じゃ驚かないぞ!

少なくともあの時の砂の母さんほどは怖くなかった、うん。


「なッ!」


逃れてホッと息吐く間もなく廊下にも影ッ、いや? 違う、影じゃない。

うっすらと輪郭が分かる、男だ。

―――冗談だろ、まだ夕方だぞ、せめて暗くなってから出てこいよ。


男がいるのはロビー方面の廊下、やむなくUターンして奥の非常階段へ向かうッ!

取り敢えず二階へ避難だ!

探索中だろう対戦校の奴らと合流できるかもしれない、お化けと真っ向勝負なんて絶対に避けるべき。

だって俺、理央みたいに魔法は使えないからなッ!


ああ、理央、理央。

会いたい、お前がいてくれたらきっとあんなの一捻りだったはず。

なんたって強くて格好いい魔女だからな。

やっぱり母さんのナックルダスターを護身用に借りてくればよかった、対抗手段が何もない状況はジレンマが半端ない。

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