番外編6 某県 廃旅館にて 3
非常階段を一気に駆け上り二階へ辿り着く。
こっちの出入り口にもドアの類はなくて、そのまま廊下に出た。
―――誰もいないな。
対戦校の奴らは左の通路か?
様子を窺いながら歩いていると、突然「うわあああああああああッ!」と叫び声がッ!
「ひいいっ、ひいいいぃッ!」
な、なんだ?
左の通路へ急ぎ、角を曲がったところで誰かが目の前に!?
「たッ、助けッ!」
「ッふ!」
「ぎゃッ!」
―――しまった、咄嗟に投げ技を決めてしまった。
床に叩きつけた姿は潰れたカエルみたいな声を上げる。
こいつ、志村だ。
すまん気付けなかった!
「ひいッ、ひいいいい~ッ!?」
「わ、悪い、大丈夫か?」
「ひいいいい~ッ!」
流石に申し訳なくて起き上がるのに手を貸そうとしたが、志村は這いつくばるようにして一階へ降りる階段の方へ向かっていく。
ちょっと待て、落ち着け、そんな状態でふらつくのは危ない、階段を踏み外すかもしれない!
「志村、おい、志村!」
「ひいいッ、ひいいいいッ!」
すっかり怯えている。
こっちも緊張していたとはいえ悪いことをした。
それにしてもあの悲鳴は何だったんだ?
あれは俺のせいじゃないよな、志村もあの影みたいなものや幽霊っぽい何かに出くわしたんだろうか。
考えている間に志村は階段を降りて行ってしまう。
ロビーには三岳たちがいる、ひとまず放置しておいて構わないか。
そしてふと気付いた―――辺りがやけに暗い。
そもそもが屋内だ、外が明るくても、窓のないこの場所まで陽は射さない。
ポケットから携帯端末を取り出して時刻を確認すると、夕方過ぎ。
間もなく陽が暮れるが、しかし暗過ぎる。
更に気になるのは志村が一人だったことだ。
一緒にいるはずの五味はどこだ?
まだ左側の廊下にいるんだろうか、しかし志村は悲鳴を上げていた、とすると何かあった可能性が高い。
うぅッ、嫌だが見に行こう。
渋々角から廊下を覗き込むと、想定どおり一階と同じ造りで奥に非常階段の出入り口が見える。
そして―――
五つ並んだドアのうち、四つ目のドアだけが開いている。
あーッ! 如何にもだッ、いやぁーッ!
ホラー映画定番の展開じゃないか! あそこだな? あそこにいるんだな?
怖いぃッ!
だが見に行かないと。
どうか俺に勇気を与えてくれ、愛する俺の魔女、理央。
こんな事なら拉致された時全力で抵抗すればよかった、本当に来るんじゃなかった、あいつら絶対に許さん。
―――また、視線を感じる。
そして猫の鳴き声、まさかこれもお化けの類だったりするのか?
仕方なくドアに近付き、仕方なく部屋を覗き込む。
誰も、いない。
だが流石にこれは、中へ入って確認するべきだよな?
セオリー通りなら五味がいる可能性が高い。
もしブラフだったとしても、その確認を取ってから別の部屋を探そう。
収納を開き、トイレを覗き、そして風呂場―――いた!
空の浴槽の中でうずくまっている!
「おい、五味ッ、五味!」
意識がないな。
気を失っているのか、脈は、ある。よかった!
それにしても、なんでこんな場所に。
とにかく三岳たちがいる一階のロビーまで運ぼう、このままにはしておけない。
ちくしょう、五味、重いなあ!
三岳に伊地知、志村もそうだが、全員俺とたいして身長の変わらないムキムキ野郎ばかりなのに、なんだって俺一人がこんな役回りなんだ。
しかも汗臭い、うぅ、同じ背負うなら可愛い女の子が良かった。
もしくは理央が良かった、理央ならお姫様抱っこで大切に運ぶぞ。
五味を背負って客室を出たところで、唐突に寒気を覚える。
なんだ?
―――背後に誰かいる。
そう認識すると同時に床を蹴立てる!
確認の必要はない、二階にいるのは志村と五味だけのはず、だったらあれは、不審者もしくはお化けの類!
とにかく距離を取らなければ、この状況では戦えない、なによりお化けならどうにも出来ない!
ああ、マジで理央がいてくれたらなあッ!
今は心細さを打ち消す唯一無二の心の支え、あいつは本当に俺の女神、いや、魔女様だ!
笑い声がした。
男のような、女のような、老人のような、子供のようなッ!
ひいいいいい~~~~~ッ!
なんか大勢いるッ、背後から声が追ってくるんですけどぉッ!
ええい聞くな!
必死に走って、走って! どうにか辿り着いた階段を死に物狂いで駆け降りる!
「おっ、大磯!」
三岳が駆け寄ってくる!
―――志村は?
いない、三岳の他には相変わらずソファの上で縮こまっている伊地知だけだ。
「どうした? っていうかそいつ五味か? 何があった、お前も見たのか?」
「お、落ち着け、落ち着いてくれ」
「あっ、ああ―――あっ、に、丹羽は?」
「いやその前に志村は? こっちに降りてったはずだぞ?」
「志村? なんだよ志村って、見てねーよ!」
落ち着け俺、三岳共々混乱してるぞ!
こんな場所で恐慌状態に陥ったらそれこそ思うツボだ、誰のかは知らないが、きっとお化けどものだろう。
ちくしょう!
そう考えるとなんか腹立ってくるな!
―――しかし、ここもやけに暗い。
一階はぶっ壊れている正面玄関や一部崩落している天井から外の光がある程入ってきているはずだが、それにしても暗過ぎる。
三岳は気付いていないようだ。
黙っておくか。
「な、なあ、大磯、どうしよう、俺達どうなっちまうの?」
「知らねーよ」
うんざりしながら伊地知の傍に意識のない五味を置きに行く。
「ここってガチでヤバかったんだ、俺達呪われるのか? あの化け物に呪い殺されちまう!」
「うるせえなあ、ガタガタ喚くな、鬱陶しい」
「なあもう逃げようぜ、こんな場所居たくねえよ!」
は?
五味を汚いソファに降ろして、まじまじと三岳を見る。
「だったらお前だけ逃げろ、警察呼べ、誰か大人に連絡しろ」
「へ?」
「こんな状況お手上げだ、でも丹羽も志村もいなくなっちまった、ろくに探さず逃げられるか」
「だっ、だけど!」
「だから三岳はここ出て警察呼べ、俺一人じゃ無理だ」
「大磯ぉッ!」
正直、俺も三岳の言うとおり、今すぐ四人で逃げて警察か誰か大人を呼ぶべきだと思う。
でもそれじゃ寝覚めが悪い。
丹羽も志村も友達だ、丹羽とは普段そんなに絡まないし、志村だって今日会ったばかりの野郎だが、それでも一応友達だ。
俺は友達を見捨てない。
やれるだけやって、納得したい。
ガチで怖いし割と無理だと思っているが、それでも自分の気持ちを誤魔化して後悔したくない。
「俺はあいつらを探す」
「やっ、やめとけよ、なあ!」
「心配するな、伊地知と五味はここに置いたままでいいから、お前は警察を呼べ」
「うぅッ」
「役割分担だ、分かるな?」
「で、でも」
「三岳は卑怯じゃない、お前の役割を果たすんだ、警察を呼ぶのはお前、俺は丹羽と志村を探す」
「それでお前はいいのかよ!」
「いいから言ってんだ、ゴチャゴチャ言ってないで早くしろ!」
「ひッ」
おっと、怖がらせたか。
でも俺は男に遣う気なんか持ち合わせてないからな、諦めろ。
大体三岳は俺とたいして体格変わらないってのに、なんで泣きついてくるんだよ。鬱陶しい。




