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番外編6 某県 廃旅館にて 1

LOOP:×××

Round/Haunted!



―――なんで俺はこんな場所にいるんだ。


ボロボロの渡り廊下を歩きながら何度目かの自問を繰り返す。

本当に、なんで、こんな場所にいる。


今日はラグビー部の遠征試合に助っ人として呼ばれて、県を一つ跨いだ山間部にあるグラウンドまでやって来た。

報酬が良かったんだ、食堂のスペシャル食券一週間分。

この食券一枚でどんなメニューも選び放題、しかも無期限、最高だろ?

まさしく餌につられた俺は、ちょっとした旅行気分でラグビー部の奴らと一緒に電車とバスを乗り継ぎ楽しくワイワイ遠出を満喫した。

理央と週末を過ごせなかったのは残念だが、たまにはこういうのも悪くない。

男同士の気兼ねなさってやつだな。


で、対戦相手の農業高校と激戦の末に勝利し、試合後は互いの健闘を称え合った。

ここまではまあいい。

応援に来ていた女の子達からの黄色い声援もたっぷり浴びたし、惜しむらくは俺の雄姿を理央に見てもらえなかったことだが、充実した時間を過ごすことができた。


―――問題はその後だ。


対戦校の奴らが妙な話を持ってきやがった。

曰く、この近くに有名なホラースポットがあると。

その話題に食い付いたアホ共が興味津々で盛り上がるなか、俺は他の奴らと一緒にさっさと帰宅するつもりでいたんだが、何故か捕まり、そして―――今に至る。


ホラスポ突撃、廃墟探索、どっちも心底興味がない。

怖いし危ないし汚いし、何一つとして面白みがないんだが、こんなのを楽しむ奴らは頭がおかしいと思う。

場所は、十数年前に廃業した元旅館。

二階建て二十部屋、正面入り口のロビーから左右に廊下が伸びて、その廊下沿いに五部屋ずつ並んでいる。

ロビーの奥には連絡通路があり、その先は宴会場と大浴場がある離れだそうだ。

廃業の原因は、宿泊客を装って訪れた殺人犯が、他の宿泊客たちを一人ずつ殺して回ったからだとか。

惨劇後の復旧が上手くいかず、客足も途絶え、結果経営難に陥って破産したらしい。

だからこの場所には当時殺された客たちの無念と、とばっちりを食った経営者の怨念、そして殺人犯の霊までもが留まり、新たな犠牲者を求め続けているって話だ。


「じゃ、俺達は一階からな!」

「オウ!」


そう言って一階の探索を始めようとしているのは、うちのラグビー部の伊地知(いぢち)丹羽(にわ)


「こっちは二階からだ、幽霊見つけたら教えてやるよ」

「じゃあね~」


二階の探索に向かうのは対戦校の志村(しむら)五味(ごみ)


「そんじゃ、俺達は離れを見に行こうぜ、大磯(おおいそ)

「うえーい」


そして俺はうちのラグビー部の三岳(みたけ)と組み、離れを探索しに行く羽目になった。


「なんだよ、もっとやる気だせよ」


テンションの低い俺に三岳は不満げだが、察しろ。

何が悲しくて汗臭いラガーマンと昼間っからホラスポ探索させられてるんだよ、可哀想だろ。

今の時刻は夕方五時。

日暮れまで一時間くらいあるから外は全然明るい。

この連絡通路も窓があるから陽が射しこんでいるが、窓は全部窓枠だけになっている。

辺りは枯葉や色々なゴミが散らばって、いかにも廃墟って雰囲気だ。

さっきまでいたロビーもそんな感じだった。

荷物はまとめて置いてきたが、一応貴重品だけは持ってきている。

何があるか分からないし、危ないからな。


「大磯、もしかしてお前、怖いのか?」

「そうだよ、怖いよ、だからさっさと済ませて帰ろうぜ」

「そうはいくかッ!」


ぐえっ、いきなりチョークスリーパーをかましてくるな!

三岳を肘打ちして腕から逃れる。

野郎に抱きつかれても嬉しくねえッての!


「どうせめんどくさいだけだろ、一緒にいるのが俺じゃなくて女子だったらよかったのになあ?」

「お互い様だろ」

「まあな、俺も女の子にキャーとか言って抱きつかれたかった」


そもそも女の子をこんな場所に連れて来ようとするな、普通に危ないだろうが。

怖がらせてイチャイチャするだけならお化け屋敷で十分なんだよ。


でも理央は、お化けとか怖がらなそうだよなあ。

魔女だし、俺の彼女格好いい。


「しっかし雰囲気あるよなあ」


向かう先に見えている離れのドアはぶっ壊れている。

三岳と中へ踏み込むと、ここもゴミだらけだ。

建物自体もあちこち壊れて、色々なものが散乱しているし、薄気味悪いことこの上ない。

―――加えて、さっきから何となく視線を感じるんだが。


「うえーっ、これ見ろよ大磯!」

「死骸か?」

「ネズミかなあ、気持ち悪ッ」

「あっちが宴会場で、こっちは露天風呂らしいぞ」


通路が左右に分かれて、それぞれに案内板の表記がある。


「お前、どっちに行く?」


ニヤニヤしながら訊いてくる三岳に「どっちでもいいよ」と投げやりに返す。

心底どうでもいい、早く帰りたい。


「じゃあ俺は宴会場! なあ大磯、さっき志村達から聞いたんだけどさ」

「なんだよ」


三岳は勿体ぶってヒヒヒと笑う。

気持ち悪いなこの野郎。


「例のここが廃業になった原因の大量殺人、犯人は大浴場で殺した奴を切り刻んだらしいぞ」

「ふーん」

「なんだよ怖いんだろ、もっとビビれよ、つまんねえなあ」


どうでもいい。

じゃあな、と言って歩き出すと、三岳は舌打ちして宴会場へ向かう。

ああ、ダルイ、ダル過ぎる。

裸の女の子がいない大浴場、裸の理央がいない大浴場、こんな場所に理央がいてたまるかって話だが、なーんにも面白くない。

むしろ萎える、激萎えだ、ただの風呂を見て喜ぶ奴は特殊性癖の風呂マニアだ。


廊下を進んでいくと、大浴場と書かれた看板の掛かった出入口を見つけた。

二つあるのは男女で別れているからだろう。

両方見る必要はない、片方だけで十分だ。

適当に選んだ方へ入っていく。


中は、脱衣所だ。

奥の割れたすりガラスが嵌ったスライド式のドアの向こうが風呂。

規模はたいしてデカくない、でも家の風呂よりは確実にデカいから、まあ大浴場か。

脱衣所も当然だがボロボロだ。

脱いだ服を入れておく場所だろう壁際の棚にはゴミがびっしり、足元もゴミや瓦礫、ガラス片なんかが落ちていて危ない。

一応風呂の方も覗きに行くか。

ドアのガラスはほぼ割れているし、ドア自体も開いているから、中はここからでも見えているが、まあ一応な。

後で訊かれてゴチャゴチャ言われたくない、あー面倒くせえ。


ふと、気配を感じて振り返った。


何もいない。

だがまた―――視線を感じる。

誰だ? どこにいる?

それとも勘違いだろうか、この雰囲気に充てられて神経が過敏になっているとか、そっちの可能性の方が高そうだ。


はあ、やれやれ。

気を取り直して風呂を見に行き、ガラス戸の手前からちょっとだけ中を確認して、大浴場を出る。

誰もいなかった。

浴槽の中まで見えたが、水すら溜まっていなかった。

まあ当然か、いるとすれば不法滞在者か不審者の類、お化けの可能性も捨てきれないが、俺は霊感ならぬ0感だからな。

もし見つけたなら、それは確実に生きている人間だ。


離れの出入り口辺りまで戻ってきたが、三岳はいない。

宴会場の探索にそこまで夢中になっているんだろうか、バカなのかあいつは。


仕方なく、今度は宴会場へ向かう。

こっちはこっちでゴチャゴチャしている、どのみち廃墟だからどこも似たようなものだろうが。

まっすぐ伸びる廊下の途中に出入口があって、覗いてみるとここが宴会場のようだ。

畳だな、広い。

三岳はいない、隠れるような場所も無し、だとすればあっちか?

宴会場へ向かう廊下は更に先へ伸びていて、奥で角になり折れている。

その角に差し掛かった辺りで―――また視線を感じた。


不意に、ニャーンと、どこからともなく猫の鳴き声が聞こえる。


猫か、猫でもいれば気が紛れるんだけどなあ。

この状況だと若干不気味でもあるが、猫ならまあ怖くはない。

角を曲がり、進んだ先はどうやら調理場のようだ。


三岳がいた。


「おい!」


呼び掛けると、背中を向けて立っていた三岳の姿がビクッと震える。

なんだ?


「お、大磯?」


振り返った三岳は、急に必死の形相で傍に寄ってくる。


「何かあったか?」

「い、いや」

「誰かいたのか?」

「こっ、怖いこと言うんじゃねーよ!」


いないのか?

だとすれば、お化け?

随分怯えているようだが、こいつ霊感あったのか。


「大浴場は何もなかったぞ、汚いだけだった」

「そ、そうか」

「お前は?」

「こっちも何もない、さ、さっさと旅館の方に戻ろうぜ」

「おお」


三岳はせかせか歩き出す。

その後を俺もついていく。

怖がってるなあ、マジでお化け見たのかな、どんなお化けだったんだろう。


「なあ、大磯」

「ん?」


歩きながら三岳は「ここ」と呟いたきり黙ってしまった。

やっぱり見たのか、お化け。

俺もさっきから謎の視線を感じているし、マジでいるのか、ここはガチのホラースポットだったのか。

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