番外編5 いつだって君は/理央視点 2
「―――天ヶ瀬君!」
思いがけず呼ばれて振り返った。
今は、放課後だ。
先ほどまで図書室にいた。
本日、部活動のある健太郎を待つため、暇潰しに読書を楽しんでいた。
しかし先ほど彼から連絡があり、待ち合わせた昇降口へ向かっている所だ。
僕を呼んだのは女子生徒だ。
肩までの長さの茶髪。
確か隣のクラスだったか、顔は把握しているが、名前までは知らない。
「なんだい?」
尋ねると、女子生徒は「あ、その」と動揺する。
「せっ、先生が! 天ヶ瀬君を呼んできて欲しいって、だから一緒に来てくれないかな?」
「それはわざわざ済まないな、場所を教えてくれたら僕だけで窺うよ、どなただろうか」
「あ、の、小迫先生! でも連れ来て欲しいって言われてるから、私も一緒に行くよ!」
小迫教諭は僕のクラスの担任だ。
―――ふむ。
「そうか、分かった」
「じゃ、じゃあ、ついて来て」
踵を返し歩き出す女子生徒の後に続く。
なにか妙だな。
彼女の態度はおかしいし、小迫教諭なら本日は早々に退勤なさっているはずだ。
昼に健太郎から聞いた。
交際している女性の誕生日だとかで、今日だけは何をおいても定時で帰ると熱弁を振るっていたらしい。
「この教室だよ」
生徒指導室か。
やれやれ、まったく。
この教室は使用時以外は常時施錠されているはず、去年美術準備室の鍵をピッキングで開けた健太郎のような不心得者が他にもいたというわけか。
やはり一度、お父様に学園内の鍵がかかる部屋の管理について、ご意見差し上げるべきかもしれない。
茶髪の女子生徒はドアを開いて中へ入る。
僕も後に続く。
西日が射しこむ室内には、案の定というか、やはり小迫教諭の姿は見当たらない。
代わりにいたのは男子生徒二名、女子生徒二名。
そこへ僕をここまで連れてきた茶髪の女子生徒も加わり、総勢五名となった。
男子生徒は、特に特徴のない者と、伸ばした髪を後ろで軽く結わえた長髪の者。
女子は長い黒髪、もう一人は短髪、そして茶髪のセミロング。
全員、他クラスの生徒だな。
「これは、どういうことかな?」
「私達、貴方に話があるの」
そう言って黒髪の女子生徒が一歩前へ進み出る。
「話?」
「ええ」
穏やかでない雰囲気だ。
健太郎を待たせているし、あまり時間をかけたくないな。
「天ヶ瀬君、貴方、婚約者っているの?」
思いがけず少々面食らう。
何故そんなことを尋ねる?
「質問の意図が見えないのだが」
「貴方って天ヶ瀬財閥の跡継ぎなんでしょう? だったら婚約者くらいいるわよね?」
「ああ、そういう話か」
随分とあけすけに尋ねてくる。
半ば呆れつつ「いるよ」と返す。
途端に僕と対峙している全員が若干の動揺を露にした。
「だッ、だったらどうして!」
「もしかして、フリ?」
「だから俺言っただろ、どうせジョーダンだって!」
「でも!」
彼らは何を騒いでいる?
先ほどから要領を得ない、僕の時間を奪っているのだから、さっさと目的を明示して欲しい。
「じゃ、じゃあ、大磯君と付き合っているのって、悪ふざけってこと?」
茶髪の女子生徒の言葉と共に、全員が好奇と嫌悪を露にした目を僕に向けてくる。
―――ああ、なるほど。
「ねえ、ハッキリ言ってよ!」
「どうなんだよ」
「お前って結構性格悪いんだな」
姦しい。
彼らは余程暇なのか。
「君達にそれを語ってどうする、関わりがないだろう」
途端に茶髪と短髪の女子生徒の目に怒りが宿る。
黒髪の女子生徒は嫌悪感を露にし、その様子を長髪の男子生徒が秘かに窺っている。
特徴のない男子生徒は下卑た薄笑いを浮かべ、粘り気のある視線を向けてくる。
「気持ち悪い」
黒髪の少女は両腕で自身を抱くような仕草をした。
「男同士で付き合うなんて、頭がおかしいわよ」
「そ、そうだよッ!」
茶髪の女子生徒も声を上げる。
「大体、大磯君ってそんな人じゃないし!」
「だよなあ」
今度は特徴のない男子生徒だ。
どうも彼ら二人は女子生徒たちに便乗している雰囲気だな。
「大磯って女好きで有名だろ? なのに男と付き合うなんて、マジありえねーって話だよな」
「そうそう!」
長髪の男子生徒が相槌を打つ。
その点に関してのみ、残念だが僕も同感だと言わざるを得ない。
だが―――それでも彼は同性と認識していた僕に愛を告げてくれたが。
「まあ、お前って結構女っぽいし? だから血迷ったんじゃねーの」
「あり得る、なあ天ヶ瀬、お前も調子に乗ってあいつをからかってんだろ?」
「実際そうでしょ、つまり利用してんのよ」
短髪の女子生徒がこちらをじろりと睨む。
「利用?」
茶髪の女子生徒が「どういうこと?」と短髪の女子生徒に尋ねた。
「つまり、女避けよ」
「女避けって」
「大磯と付き合っていることにしておけば、鬱陶しい取り巻きやその辺の女から絡まれなくなるじゃない」
特徴のない男子生徒が「ああ、なるほど!」とわざとらしい合図血を打ち、長髪の方も「お前ひでぇなぁ」などと煽る。
「そ、そんな」
茶髪の女子生徒は青ざめ、短髪の女子生徒はまたこちらへ視線を戻す。
「アンタ、モテるもんねぇ? いつも周りに女侍らせて、でも本当はそういうの鬱陶しかったんでしょ? だから大磯を利用したんだ」
「ひ、酷い、酷すぎる! 大磯君のことバカにして!」
「アンタって本当にサイテーな奴、天ヶ瀬財閥の御曹司が聞いて呆れるわ」
涙目で僕を非難する茶髪と、蔑むように見ている短髪。
はあ、呆れた。
なんて面倒な輩だ、これほど思い込みと独断が激しければ、さぞ生き辛かろう。
暇潰しの相手なら他所を当たって欲しかった。
さて、どうしたものか。




