表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/87

番外編5 いつだって君は/理央視点 1

LOOP:×××

Round/That‘s How You Know



「お前さ、マジで天ヶ瀬と付き合ってんの?」


そんな声が聞こえて立ち止まる。

放課後、所用を済ませて教室へ戻ってきたのは、健太郎を待たせていたからだ。

一緒に帰る約束をしていた。

彼と交際を始めて以来、登下校は僕の車でほぼ共にしている。

だから今日も当たり前に彼に荷物を預け、当たり前に彼を迎えに行こうとしていた。


「おう」


教室のドアは開け放たれたままだ。

だから中の声が聞こえた、そのドアの影に身を潜め耳を傾ける。

盗み聞きなどはしたないが、僕に関する話題だ、構うものか。

幸いにして周囲に人影はない。

―――それでも一応簡易の人払いをしておこう、この姿を余人に見られるわけにはいかない。


「それってさあ、どうなの?」

「なにが?」

「だってお前ら、どっちも男じゃねえか」


ふむ、確かに。

諸事情あり、僕は性別を偽っている。

そのことを知っている唯一の例外は、僕の恋人であり、婚約者でもある彼、大磯 健太郎。

以前は彼も僕の本当の性別を知らなかった。


「なに笑ってんだよ」


誰かの指摘を受けて「いや、悪い」と健太郎が返す。


「別にいいだろ、男同士で付き合っちゃいけないなんて法律はねーぞ」

「そりゃそうだけど、相手はあの天ヶ瀬財閥の御曹司様だぞ、それが男と付き合うなんて、なあ?」

「遊ばれてるんじゃねえの、だって婚約者とかいるだろ、多分」

「いるかもな」

「だろ!」


そう、いる。

彼だ。

僕達は様々な困難を共に乗り越え、将来を誓い合うに至った。

彼の両親、勿論僕の両親も、このことを認めている。


「確かに天ヶ瀬は美形だけどさ」


別の誰かが言う。


「やっぱり男は無理だって」

「だよなあ、天ヶ瀬にもついてるし、流石に萎えるよな」


違う誰かが「気持ち悪くねえの?」と訊く。

―――気持ち、悪い。


「女子にしておけよ、大磯、悪いこと言わないからさ」

「いくら顔が好みだって、なあ?」

「あ、でもこいつ、そういや藤峰さんと幼馴染だ」

「なるほど、それで!」

「ハハッ、男でも抵抗ないってか?」


品のない笑い声が広がる。

そこへ「違う」と地を這うような健太郎の声が響く。


「俺にかこつけて、つまんねえこと言ってんじゃねえよ」


途端に教室内がしんと静まり返った。

暫しの間をおいて「すまん」「悪かった」と、どこか怯えたような謝罪が聞こえてくる。


「と、とにかく! お前と天ヶ瀬が付き合うなんてありえねーだろって話!」

「そうそう、お前さ、流石に男はねえよ」

「うるせーっ! お前ら理央が美人だからって妬いてんだろ、文句あるならかかってこい!」

「ねえよ、アホかッ」

「俺らは男に興味ねえの!」


元の気安い雰囲気に戻ったようだ。

やれやれ。

それにしても、健太郎があんなことを言われていたとは。

―――僕の都合に彼を巻き込んでいる。


僕ならば、あの程度の戯れ事、気にもならない。

低俗な者共が何を言ったところで僕の価値は揺らぎようもなく、またそれは周知の事実であり、彼らが自ら品格を貶めるだけだ。

それにあの口を黙らせる手段など幾らでもある。

だが、健太郎は?

品のない悪意から、僕が彼を守らなければ。


それが、あの時。

自身のエゴを優先して、君の人生に介入してしまった僕が担うべき責任なのだから。


軽く息を吐き、そ知らぬふりを心得る。

開いたままのドアを数回ノックした。

途端に教室内から動揺の気配が伝わってくるが、構わずドアの影から顔を覗かせる。


「ご歓談中かな?」

「理央!」


嬉しそうに微笑みかけてくる健太郎。

ああ、愛しい。

君はいつでも太陽のように眩しい。

周囲の有象無象などまるで目に留まらない、僕の視界に在るのは君の姿だけだ。


「やあ、すまない、待たせてしまったね」

「大丈夫、それより用事は済んだのか?」

「ああ」

「じゃ、帰ろうぜ!」


健太郎は二人分の荷物を持ち、傍らの男子生徒たちに「じゃあな」と軽く挨拶を済ませ、浮かれた足取りで僕のところへ来る。

ふふ、まるで大型犬のシェパードやラブラドールみたいだ。


「なあ理央、俺さあ、ちょっと小腹が減ったから、帰りにどこか寄って食べないか?」

「いいね、そういえば前に駅前に新しいカフェができたとか言ってたね」

「そう! そこに誘おうと思ったんだ、さっすが理央、エスパーかよ!」


他愛のない会話をしつつ、先ほどの話を聞いていたと伝えるべきか迷う。

君に対する不当な偏見。

そのせいで要らぬ気苦労を抱え込んではいないか。

僕に心配をかけまいと、独り傷を負い耐えているのではないかと、そんな考えがよぎる。


「ねえ、健太郎」

「ん?」


―――いや、それは違うな。


「ううん、何でもない」

「? おう」


信じることもまた愛だ。

彼が僕に語らないことにはきっと意味がある、そこを僕が追及しては彼の気遣いを無碍にする。

それに、訊くまでもない。

君ならば「そんなことはない」と豪胆に笑っておしまいだ。


「なあ理央、パンケーキとお汁粉だったらどっちが好き?」

「そうだね」


ほら、今だって、引き摺るそぶりもないじゃないか。

彼は僕如きには計り知れないほど大きな人だ、こんな風に気を揉んでは、むしろ要らぬ心配を掛けてしまう。


―――と、いう出来事があったのが数日前。


あれ以来、やはり少々気になって、僕なりに注意深く観察した結果、健太郎を取り巻く環境はおおむね三種類あることが分かった。


まずは好意的な層。

健太郎の殆どの友人及び、僕のファンクラブの子たちなどが該当する。

本心はどうあれ僕達の交際に理解を示し、それなりに受け入れている。

つまりは無害な者達だ。


そして無関心な層。

大多数がこれだ、まあ当然だろう。

人は身内とゴシップ以外で他人に興味など持たないからな。

彼らも無害と評して問題ないだろう。

意図的に絡んでこないという点においては、友好的な者達より更に都合がいい。


最後は否定的な層。

マイノリティに対し罰を与えたがる者達だ、高度な社会性の副産物だな。

彼らは、自らの意に反する対象に関して時に苛烈に反応し、攻撃を加え、排除を試みる。

非常に危険な存在だ。

あの健太郎やこの僕に真っ向から立ち向かってくることこそないが、影で根も葉もないことを吹聴して回り、信用を貶めようと画策する。

彼ら彼女らに関しては更なる警戒が必要だろう。

この僕の愛する健太郎を傷つけるなど、何人たりとも許されることではないからな。


お父様が理事をなさっているこの光輝学園は、社会に飛び立つ前の雛たちが世の道理を学ぶための、いわば揺りかごのような場所だ。

対人関係構築の基礎を身に着け、自らの向き不向きを知り、この先の長い人生を歩むための指標を得る。

だが、そういった趣旨を理解できる同年代など、極めて少ない。

それくらいは理解している。

健太郎もよく言うが、僕らはまだ子供で、世の道理も暗黙の了解も、他者への気遣いや線引きする意味も、何も分からないからだ。

それでもうちはまだ他所よりいじめなどの対策対処に関して真摯に取り組んでいるが、完全に無くすことはできない。

だからこそ自衛が必要であり、僕が健太郎を守らねば。


彼はとても優しい人だ。

自らのみならず他人の傷までも引き受けようとする、そんな君の盾に僕はなりたい。

君の悲しむ姿を見るのは、僕もとても辛いから。


それに、君が謂れのない誹謗中傷を受けている、そのいくつかの理由は僕のせいなのだから。


僕は勝手だ、知っている。

君を惜しんで捕まえた、もう手放せない、そのつもりもない。

こんな醜いエゴを受け入れてくれた君に、どれだけのものを返せるだろう。

僕は、君のために、一体何ができるだろう。


健太郎は。

僕との関係を、どのように捉えているんだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ