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番外編4 スウィート・ノイジー・ホワイトデー! 4

大磯(おおいそ) 愛太郎(めたろう)

職業:冒険家なんて名乗っているふざけた野郎だ。

世界中を巡って遺跡やら秘宝やらを見つけたり手に入れたりしているらしい。

それらは軒並み発見した国へ寄贈しているそうだが、奴は生まれてこの方ろくに働いたこともないっていうのに、金に苦労したことがない。

何故かというと、薫が言ったとおり、常に誰かしら財布代わりのパトロンがいるからだ。

しかも複数。

そして親父自身があまり物に執着しない性質で、つまるところ金にも執着がない。

まあ人に対しては唯一俺の母さんに執着しているらしいが、本当かどうか。


とにかく生き物にモテる男で、特に女性からのアピールが激しく、それはなにも人間に限った事じゃないってのが実の親ながら理解不能だ。

修羅場も俺が覚えているだけでも数限りなく、その都度母さんにボコられてはデレつく姿は恐怖以外の何ものでもなかった。

奴は頭がおかしい。

そんな身内の存在を理央に知られたくなかったし、興味を持って欲しくないと心底思う。

血縁上やむを得ず親父と呼んではいるが、あくまで便宜的なことだ。

俺は奴を親として尊敬したことは一度もない。


「先日も、ネパールにて前人未到の秘境を発見したとニュースで取り上げられていたね」

「知ってる! 凄いよねぇ」


理央も薫も又聞きの情報だけで判断しない方がいい。

俺はあのアホがどこで何をしていようが全く興味はない。


「登山中の滑落事故で偶然発見したって、相変わらず強運だよね、ケンちゃん」

「それだけで生きているような奴だからな」


親父の話はしたくない。

薫が理央の方を向いて軽く肩をすくめる。


「ケンちゃん、昔はお父さんのこと大好きだったのに、あんまり帰ってこないから拗ねちゃったんだよね」

「そうなのか」

「違う!」


そんなしょうもない理由じゃない。

俺は世間を知って、親父が実はどういう奴か理解が深まっただけだ。


「僕も両親との思い出は殆どない、お互い多忙な親を持つと寂しい思いをするな」

「だから、そうじゃないって」

「ああ、確かに、僕には一緒に育った妹がいるし」

「えっ、理央ちゃんにも妹がいるの?」


薫が食い付き、話題は自然に理央の妹の真央ちゃんへと移っていく。

正直、ホッとした。

あんな奴の話なんて気分が悪くなるだけだからな。

それに俺は拗ねてなんかいない。

身内の厄介者として心底迷惑に思っているだけだ。


チーンとオーブンから音が鳴って、どうやらクッキーも焼けたようだ。

俺のマカロン生地の熱もほぼ取れて、これならガナッシュを挟んでも問題ない。

さあ、仕上げだ!

冷蔵庫からピスタチオとストロベリーのガナッシュを取り出す。


「ガナッシュ挟むのは三人でやろうぜ」

「うん!」

「承知した」


先を切った絞り袋に口金をセットして、ガナッシュを入れる。

薫はともかく、理央は初めてのことに興味津々で俺の手元を観察している。


「手際がいいね」

「やり方見てろよ、簡単だから」

「ああ」


マカロン生地を一つ手に取って、平らな面にクリームを絞る。

その上にもう一つマカロン生地を乗せてガナッシュを挟めば完成だ。


「はい、出来上がり」

「素晴らしい」


薫が「理央ちゃんもやってみて」とガナッシュの入った絞り袋を手渡す。


「こんな感じでね、袋を絞るようにしながらクリームを出すんだよ」

「ふむ、こうか?」

「上手! 上手!」

「お、上手いな理央!」


理央が仕上げをしたマカロン。

これは俺が食べるぞ、何か目印をつけておこう。


「それじゃ、この調子で残りもやっちまおう」

「はーい」


三人でそれぞれガナッシュを絞ってマカロンを完成させていく。

薫が手掛けたマカロンは、店で売っているレベルで完璧だ。

理央のマカロンは所々ガナッシュがはみ出しているが、そこが味わい深くて可愛い。

そして俺のマカロンは―――


「ケンちゃん、ガナッシュ絞り過ぎじゃない?」

「たっぷり入ってた方が嬉しいだろ」

「限度ってものがあるよ」


何を言っている、その為に多めに作っておいたんだ。

パンチの利いた分厚いマカロン、食べ応え抜群じゃないか!


「ねえ、それ、私と理央ちゃんに食べさせてくれるんでしょう?」

「うッ!」


しまった!

そうだった、俺が食うんじゃない、これは理央と薫の分だ。

でも二人は俺の半分より一口が小さい。

迂闊だった、この量のガナッシュは、うん、流石に多過ぎるな。

少し減らそう、食いづらいだろうし、気が利かなくて申し訳ない。


何だかんだマカロンは仕上がり、理央が薫に手伝ってもらったステンドグラスクッキーの粗熱も取れた。

最後は盛り付け!

大きな平皿にレースのペーパーナプキンを敷いて、その上にマカロンを並べていく。

クッキーは少し深めの皿に、こっちもペーパーナプキンを敷いて、中央のキャンディーの窓を割らないように気を付けつつ鉄板から移す。


紅茶も三人分用意してリビングへ移動した。

ダイニングテーブルに並ぶ、マカロンとステンドグラスクッキー

そして紅茶を淹れたカップを置いて、各々席に着いたら―――


「完成だ! ハッピーホワイトデー!」

「わーい、やったあ!」


俺と薫と、理央も一緒にパチパチと拍手をする。


「ねえ、画像撮ってもいい?」

「では僕も」

「おっ、いいな、じゃあ俺も!」


記念に撮影しておこう。

俺達三人の共同作業、ホワイトデーパーティーの美味そうなお菓子たち。


―――前は、こんな日がいつか来るなんて思いも寄らなかった。

何度も薫に殺されたあの時。

理央を賭けて磐梯に勝負を挑まれたあの時。

協会から試練を受けさせられた時だって。

俺達はそれぞれ苦しんで、悩んで、ようやく今の平穏を手に入れた。

心にまだわだかまりや癒えない傷が残っていても、お互いを想い合って一緒に前へ進んでいくことはできるもんな。


「ねえケンちゃん」


撮影会も済んで、さあ食うか、というところで薫に声を掛けられる。


「ところでさっきのクイズの答えだけど、分かった?」

「クイズ?」

「もう! 聞いたでしょ? 私と理央ちゃんがどうしてクッキーを作ることにしたのかって」


ああ、それか。

うーん。

アンジェロの店で聞いた理由、じゃないよな?

敢えてクイズにするくらいだ、別に何かあるんだろう。


「ヒントは?」

「もうあげました」


え? いつ?

薫はニコニコ笑っている。

一体どの、何の話がヒントだったんだ。


「間違えたらお仕置きだよ?」

「なにするつもりだ」

「さて、なんだろうね、理央ちゃん」


話を振られた理央は薫を見て、俺を見て、困ったような表情を浮かべる。


「しないよ、何も」

「ええ~っ」

「いいんだ、別に、分からなくても」


ちょっと待て。

このクイズってもしや、理央が深く関わっているのか?

まあ、アンジェロの店でも理由を聞いたが、それ以外にもまだ何かある?

クッキーを作った理由。

彼氏の俺にマカロンやキャンディーじゃなく、敢えてクッキーにした意味。


あ、もしかして!


「俺の真似、だったりする?」


尋ねて反応を見ると、理央は驚いたように目を丸くして、慌てて視線を逸らす。

なんとなーく可愛いほっぺが赤く染まっているような。


「正解!」


薫がフフッと笑う。


「理央ちゃんがねえ、ケンちゃんが初めて作ったお菓子を、自分も作ってみたいって言ったんだよ」

「えッ!」


そっぽを向いたままの理央は「秘密にしてくれって言ったじゃないか」とぼやく。

なんだそれ、可愛い。

ちょっと可愛いが過ぎるだろう、おいおいどうなってる、俺を更に惚れさせる気なのか。


「ごめんね? でもケンちゃん知ったら絶対に喜ぶと思って」

「僕は、別に、あの店で語った理由が全てで、その他の思惑など何も」

「でも私から昔の話を聞いて、クッキー作りたいって言ったよね?」

「うっ」

「私とケンちゃんが作ったなら自分もって、ライバル発言しっかり聞いたけど?」

「や、やめてくれ、そんな意図はない」

「ええ~?」


おお、理央、愛らしき俺の理央。

綺麗な顔が真っ赤じゃないか、耳まで赤いぞ、可愛過ぎる。

うう~ん、俺もドキドキしゅる。

きゃわいい、最高にきゃわいい、なんだそれ、そんな理由だったのかよ。

可愛いの最高峰じゃないか、マジキュン過ぎて滅!


「だ、だが、ステンドグラスクッキーの提案は君がしてくれただろう」

「そうなのか?」


理央はハッと俺を見て、若干あたふたと目を逸らしつつ頷いた。

んぐうううううッ!


「キャンディーと、クッキーで、その、愛情と友情の両方の意味を贈れるからって」


そうだよ、と薫も答える。


「でも、ケンちゃんからはマカロンが欲しいよね?」

「ああ」

「私も、ケンちゃんから貰うならマカロンがいいなって、だからケンちゃんにはマカロンを作ってもらったんだ」


ああ理央、そして薫。

俺はこの世で一番の幸せ者だ。

有難う世界! 有難う愛! この世の全てに有難う!

超絶的感謝ァッ!!


「上手に作れてよかったね?」

「ああ」


モジモジする理央を見て、薫も楽しそうに笑っている。

俺はまだ何も食っていないのに既に胸が一杯で苦しい。

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