番外編4 スウィート・ノイジー・ホワイトデー! 3
理央の方も順調そうだな。
材料を混ぜて練った生地を冷蔵庫で寝かし、その間にキャンディーを砕くらしい。
「ステンドグラスクッキーっていうのは、型抜きしたクッキーにキャンディーを流し込んで、丁度ステンドグラスみたいに仕上げるんだよ」
理央に説明しながら薫はクッキングシートを敷いた鉄板の上に色とりどりのキャンディーを並べていく。
「キャンディーってね、硬いもので叩いてもなかなか割れないんだ、だからオーブンで軽く溶かすの、でもやり過ぎると茶色く焦げるから気を付けてね」
「ふむ」
「オーブンの温度はこれくらいかな、余熱で溶かした方が安全かも、砕きやすくするためだから完全に溶けきらなくても大丈夫だよ」
なるほどなあ。
俺なら躊躇いなくミートハンマーあたりで殴って砕こうとした。
流石は薫。
さて、こっちは先にガナッシュを作ろう。
まずピスタチオペーストと生クリーム、ホワイトチョコを合わせて、冷やしながらよく練る。
これでピスタチオガナッシュは完成、冷蔵庫で保管しておこう。
次はストロベリーガナッシュだ。
生クリームにホワイトチョコ、そして今度はストロベリーリキュールと、ドライストロベリーも砕いて混ぜ込む。
「ケンちゃん、先にマカロン生地を焼いちゃって、冷やさないとクリーム挟めないでしょ?」
「おっ、そうだな」
ドライストロベリーを砕いている最中に薫からアドバイスを受けて、いそいそとマカロン生地を用意する。
鉄板にガイドのついたシートを敷いたら、そのガイドに合わせて生地を絞っていく。
絞り終えた生地を、キャンディーを溶かした余熱が残るオーブンへイン。
「生地の表面の気泡、ちゃんと潰した?」
「大丈夫、念入りにやった」
薫は抜かりないな。
気泡が残っていると焼き上がりの見た目が悪くなる、流石だ。
「マカロンの生地、量的に二回に分けて焼かないとだね」
「二種類あるからな」
「じゃあ、その次にクッキーを焼こうね、理央ちゃん」
「ああ」
つくづく薫の采配は見事だ。
同時に三種類のお菓子を作っているのに、それぞれの作業がブッキングしない。
全体の流れをしっかり把握しているんだろう。
マカロン生地を焼いている間に、ストロベリーガナッシュ作りの続きをやろう。
理央の方は軽く溶かしたアメを砕き終えたようだ。
色ごとに欠片を小さな容器へ移し替えている。
「ねえ、ケンちゃん」
理央を手伝いながら、薫が話しかけてくる。
「私達がまだ小さかった頃、初めてお菓子を作った時のこと、憶えてる?」
初めて作った?
うーん―――
「確か、ばあちゃんの誕生日祝いだったよな?」
「そうそう!」
小学三年の時だ。
まだばあちゃんが生きていて、プレゼントだっていうのに、ばあちゃんに手伝ってもらったんだよな。
懐かしい。
薫も昔を懐かしむようにクスッと笑う。
「その時、何を作ったか覚えてる?」
「クッキーだろ」
初心者ならではの定番チョイスだ。
簡単だし、オーブンでの火傷にさえ気を付けていれば危険も少ない。
「正解」
薫はまたクスクス笑う。
なんだ?
「それじゃ、問題です」
「えっ?」
「今回のホワイトデー、どうして私と理央ちゃんはステンドグラスクッキーを作ることにしたのでしょう?」
それは、アンジェロの店で聞いたよな?
理央が健気なことを言ってくれた、今思い出してもキュン死しそうだ。
「よーく考えて答えてね」
俺の顔を覗き込んで、薫は意味深な微笑みを浮かべる。
「もし間違えたら、お仕置きしちゃうかも」
「お仕置き?」
「私じゃないけれどね」
「は?」
ますます意味が分からん。
困惑していると、不意にチーン! とオーブンがマカロン生地の焼き上がりを告げた。
「あ! ほらケンちゃん」
「おっ、おう!」
急いで鉄板を取り出しに行く。
取り敢えずクイズについては後回しだ。
焼き上がったマカロン生地と、これから焼く生地を入れ替えて、と。
取り出した方はしっかり熱を取ってからガナッシュ生地を挟む。
ここで焦ると生地の熱でガナッシュが溶けて悲惨なことになるからな。
理央と薫は冷蔵庫で寝かせていたクッキー生地を取り出して、めん棒で伸ばして型を抜き始めた。
ハート、星、花、どれも可愛いな。
「大きい方の型で抜いたら、小さい型で真ん中を抜いて、そこに砕いたアメを入れるんだよ」
「なるほど」
「多過ぎても溢れるし、少ないと足りなくて穴が空くから、溶けた後の状態を想像して適量入れていって」
「分かった」
二人が並んで作業する姿は花がある。
こうして眺めているだけで癒されるなあ、理央は可愛いし、薫も可愛い。
まさに俺だけに許された魅惑の花園ってヤツだ。
さて、俺は、第二弾の生地が焼き上がるまで洗い物でもするか。
理央と薫が使った道具も一緒に片付けるぞ。
洗った道具の泡を流して水切りカゴに並べていると、オーブンがまたチーンと焼き上がりの合図を鳴らす。
おお、焼けた焼けた、今度も綺麗に焼けた。
あとはこの生地が冷えたらガナッシュを絞って、もう一つの生地で挟んで完成だ!
「それじゃ理央ちゃん、私達もクッキーを焼こう」
「ああ」
次はいよいよ理央と薫のステンドグラスクッキーか。
焼き上がりが楽しみだな。
キッチンにはさっきからずっと甘くて香ばしい香りが漂っている。
「そうだ、ケンちゃん」
三人揃って待ち時間ができてしまった。
お茶でも淹れるかと用意していると、薫が話しかけてくる。
「おばさまから聞いたよ、妹さんがいたんだって?」
「んぬぁーッ!?」
なっ、なっ、なんで話したんだ母さんッ!
そのことは身内の恥だと薫にも黙っておくつもりだったのに!
「ビックリしたよ、お母さんが違うそうだけど、それでもケンちゃんの妹なんでしょ?」
「あ、ああ、まあ」
「とっても可愛い子だっておばさま言ってたよ、お母さんも凄く可愛いって褒めてた」
藤峰のおばさんまで知っている、だと?
い、一体どこまでサラのことはバレているんだ!
いや、待て。
母さんと藤峰のおばさんも親友同士、情報を共有する可能性は大いにある。
それなら薫だって当然知るだろう。
つまり藤峰家には筒抜けだが、それ以上の拡散はない、はず。
理央も険しい表情を浮かべている。
結構な地雷の話題だから、できればなるべく控えて欲しいんだが。
「でも、おじさまも困った人だね」
「あのクソ親父、最低だよ、いつかこうなるんじゃないかと思ってたんだ」
「まあまあ、でもおじさまって凄くモテるし、ちょっと納得かも」
「おい!」
息子の俺的には笑えない冗談だぞ。
薫はイタズラっぽくペロッと舌を出す。
こいつ、留学してちょっとキャラ変わってないか?
「あの」
ふと理央が俺達に尋ねる。
「つかぬことを伺うが、健太郎の父君はそれほど魅力的な男性なのか?」
「いや、それは」
「そうだよ! ケンちゃんのお父さんはね、凄いんだから!」
や、やめてくれ薫~ッ!
親父は身内の恥だ、頼むから話題にして盛り上がらないでくれ!
「まず、すごく背が高くてね、二メートルくらいあったかな? 筋骨隆々のハンサムで、世界中にパトロンがいるの!」
「パーソナルデータに関してはあらかた把握しているよ」
「そっか」
俺、話したことなかったよな?
まあでも、婚約するにあたって身辺調査くらいはするか、それで知ったんだろう。多分。




