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番外編4 スウィート・ノイジー・ホワイトデー! 1

LOOP:×××

Round/Kaleidoscope Capriccio



ここは商店街の一角。

本来なら俺達高校生が立ち寄るような場所じゃないんだが、木枠にガラスの嵌ったレトロなドアをガラガラッとスライドさせて、店の奥へ呼びかける。


「おお~い、アンジェロ~!」

「Hey! 俺を気安く呼びやがるのは一体どこのHoney Boyッて―――きゃ、きゃッ、KYAORUッ、ちゃんッ!?」


奥からブツクサ文句を言いながら現れたヒッピー風の男が仰け反る。

俺の隣では薫が「ハロー、お久しぶり」と天使の笑顔で手を振った。


「どッ、どどッ、ど~~~したんだいッ! お久しぶりじゃあないかッ、会いたかったよマイファタールッ!」

「有難う、元気そうだね?」

「OH! My! ジーザスッ! はああああっ! 君が来てくれるなんて、今日というプレシャス・デイに感謝! Yeahッ!」


盛り上がってるなあ。

薫と反対側の俺の隣では、理央が案の定ポカンとしている。

可愛い。

まあ最初は度肝を抜かれるのも無理はない。

俺も前回のバレンタインの時は若干ひいていた、恩人としては感謝しているが、毎度このノリはどうなんだ。


「おっと、KENちゃんもいたのか」


ようやく俺に気付いたアンジェロの視線がそのまま横へスイーッとスライドする。

理央か?

間を置いて不意に「綺麗だ」と感動を口にした。

分かるぞ、よく分かる。


「OH My Crisis、なんてこった、この世にこんなにもBeautifulな存在がいたなんて、イッツアミラコゥ、君―――いや、貴方様はもしや、月の女神Diana?」

「いや、恐れ多いよ」


理央が苦笑すると、アンジェロは「声までソービューリホッ!」と額を押さえて天井を仰ぐ。

おいやめろ、気持ちは分かるがやめろ、俺の宝物に絡むな。

幾ら恩ある相手でも、場合によってはフライング・クロスチョップをお見舞いするぞ。


「KENちゃん! こりゃ一体どういうことだ!」

「あ?」

「君は神話のOrionか? まさに両手にVenusじゃないかッ、この女神タラシめッ、ガッデム! 実にけしから羨ま恨めしいッ!」


フフン、まあな。

俺がモテるのは仕方がない、格好いいからだ。

しかし理央は愛しの彼女で婚約者、そして薫は大切な幼馴染。

二人とも俺にとってかけがえのない存在だが、この状況は特にハーレムってわけでもない。

―――今日は、ホワイトデーのお菓子を作るための材料を購入しに来たんだ。


遡ること先週末。

薫から突然『ホワイトデーに合わせて帰るね』などと連絡が来て、俺は大いに焦った。


今年のバレンタインは色々あったからな。

そのせいで俺は理央との約束を破ることになってしまった。

やむを得ず、不可抗力で、なんていくら言い訳を連ねたところで現実に犯した罪は変わらない。

可愛い理央を悲しませた。

それは彼氏として、婚約者として、何より男として最低の行為だ。


だからホワイトデーは、今度こそ一緒にお菓子を作ろうと約束した。

世に名だたる天ヶ瀬財閥令嬢である理央は、危ないと思われる行為の一切を禁じられていて、迂闊に刃物や火に触れられない。

それなのにバレンタインデーには俺のために、厨房に忍び込んでまでチョコを手作りしてくれた。

結果として両手に怪我を負ってしまったわけだが、今回はその二の舞にはさせない。

そのための俺だ。

そのために一緒に手作りしようと約束した。

今度は必ず約束を守る。

そう、理央にも告げて、指切りまで交わしたっていうのに。


だが突然の薫の帰省。

俺は迷った、悩んだ、どうしようかと考えこみ、そして―――理央に判断を仰いだ。

我ながら卑怯だと思う。

薫が俺の大切な幼馴染であることを理央も知っているから無碍には出来ない、つまるところの責任転嫁だ。

俺は甲斐性なしの臆病者、幾らでも誹ってくれ、詰ってくれ、覚悟はできている。


しかし、現実は俺の想像のはるか上をいく。

思いがけず理央は「分かった」と快諾してくれた。

え、なんで?

だって薫が帰ってくるんだぞ? 二人でお菓子作りできなくなるかもしれないのに?

困惑する俺に、理央は笑いをこらえるような顔で教えてくれた。


「実はね、薫君から君に連絡が行くより先に、一緒にお菓子を作る約束をしていたんだ」


つまり!

俺だけ知らされてなかったんだよなーッ!

薫によると『ケンちゃんをびっくりさせようと思って』って理由らしいよ?

なんで!?

先に俺と約束してたのに?

それに二人ともいつの間にそんなに仲良くなったんだ?

俺そのことも知らなかったよ?

お互いに俺の情報を交換し合ってるんだってね? 薫は俺の昔話を、理央は最近の話を教えてるらしいよ!

なんで!?

っていうか俺抜きのネットワーク作ってるの何で?

俺だけ仲間外れなんで? なんでだ、チクショーッ!


猛烈にヤキモチを妬きまくった俺を、理央と薫が二人掛かりで説得して―――と、いう流れでここにいる。


一応、彼氏としては、いくら可愛い幼馴染とはいえ薫は男だし、心配になって探ったりもしたんだが。

『あり得ない』の一言で一蹴されてしまった。

薫曰く、理央はライバルらしい。

そして理央も薫をライバルだと思っているそうだ。

ぬう、複雑だ。

俺はどの辺りのポジションでいればいいのか、理央も薫も大事だから未だに決めかねている。

勿論、二人が仲良くなってくれたこと自体は嬉しいけれどな。


「あれ、ケンちゃんまた拗ねてるの?」


不意に薫に顔を覗き込まれた。


「しょうがないなあ」

「別に」

「なんだいKENちゃん、スネスネBoyなのかい? ドンマイドンマイ!」


アンジェロ、事情を知らない奴が雑に絡んでくるな。


「麗しきVenus達が一緒なんだぜ? もっとハッピーに行こう! LOVEエンPEACE!」


俺を実に投げやりにあしらったアンジェロは、薫と理央を店の奥へ恭しく案内する。

ちくしょう、俺もついて行くぞ。

しかし、この店は酒屋のはずなのに、毎度呆れるほど品揃えがいいよな。

今回もとんでもない量の製菓材料やラッピングの数々が、そこだけ可愛らしく飾りつけ陳列されている。

もはやセント・バレンタインの使者っていうより、バレンタインの狂信者だ。


「それで? KAORUちゃん、今年は何を作るんだい?」

「私は主にお手伝い、ケンちゃんにはマカロンに挑戦してもらおうと思ってるよ」

「OH! イッツ・ソー・COOOOOOLッ!」


マカロンか。

薫と前に一度作ったことがあるから、多分どうにかなるだろう。


「そういやKENちゃん、バレンタインに俺がおススメしたオペラはどうだった? 上手く作れたかい?」

「ああ、理央にも喜んでもらえたよ、有難う」

「そのRIOってのは、そちらの見目麗しき御方のことかな?」

「そうだよ、理央ちゃんはね、ケンちゃんの恋人だよ」


アンジェロは両腕を引きつつ腰を前に突き出す。


「イッツグレイツッ! 流石はKENちゃん、お見逸れしたぜ!」


まあな。

世界一可愛くて美人な理央が選ぶだけの価値ある男だからな、この俺は。


「ところでケンちゃん、ホワイトデーのお返しが持つ意味って、知ってるよね?」


薫に訊かれて「勿論」と返す。

本命ならマカロンやキャンディー

友達だったらクッキー

そして、お断りの意味を持つのはマシュマロだ。


「私は理央ちゃんとステンドグラスクッキーを作るよ」

「え、俺だけ別なの?」


まさかの仲間外れ? また!?

唖然とすると、薫は理央と顔を見合わせて笑う。


「違う違う、マカロンはケンちゃんが担当で、ステンドグラスクッキーは理央ちゃんが担当、私は二人のお手伝い」

「全部一緒に作るんじゃないのか、っていうかなんでクッキー?」


俺は、理央から貰うならマカロンかキャンディーがいい。

付き合ってるのに、婚約者なのに、どうしてクッキーなんだ。

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