そして、これからも彼女と 5/後
「君のその悪癖は治らないね、自覚はあるのか」
「意地悪だぞ、理央、女の子かどうかはともかく、頑張ろうとしているサラを多少は見守ってやりたいだろ」
「だから甘いと言っているんだ」
「不甲斐ないのは認めるよ、でも俺は」
ふがッ!
こ、今度は鼻を摘ままれたぞ!
「り、りおッ」
「フン、お仕置きだ、バカ者め」
「それ二度目らぞ、いひゃい!」
そのまま指を左右に揺らして、最後に指をピッと強く引き抜かれる。
いてて、うぅ。
ちゃんと分ってるよ、理央。
お前は心配してくれているんだろう。
でも、俺の意を汲もうともしている、だからもどかしくて苛ついているんだ。
やっぱり優しい奴だよな。
サラにも態度こそ厳しかったが、俺と一緒に話を最後まで聞いてくれた。
サラも人が変わったようだった。
あっちが素なんだとしたら、あいつもあいつで無理していたんだろう。
何かと我慢しがちな理央といい勝負だ。
ひょっとしたら二人は案外似た者同士なのかもしれないな。
また紅茶を淹れなおすために立ち上がってキッチンへ向かいつつ、ふと思い出して理央に訊く。
「なあ、理央」
「なんだい」
「もしかして、天馬さんってずっと家の前で車停めて待ってたりする?」
理央は思いがけない様子で「いや」と首を振る。
「恐らくそれはない、通行の邪魔になるだろうからね、どこかへ移動して待機しているだろう、登校するなら呼び戻そうか」
そういえば登校前だったな、忘れていた。
壁掛け時計を見ると、時刻はそろそろ三時間目が始まる頃だ。
「なあ、今日って午前だけだよな?」
「そうだね」
間もなく春休みを控えた今は短縮授業期間中で、しかも殆どが自習だ。
そして俺も理央も進級に必要な出席日数はとっくに足りている。
「それじゃ、天馬さんも呼んでさ、少し早いけど三人で飯でも食うか」
残り二時間を登校するなら、今日はもう休みでいいだろう。
サラがうちに来ることを母さんも知っていたそうだし、サボっても大目に見てくれるはずだ。
「まったく」
理央が笑う。
やっと今日初の笑顔を見せてくれた。
「いいだろう、君の提案に乗ろう」
「よし!」
「だがその前に―――健太郎」
なんだ?
紅茶を淹れなおして戻ると、理央はじっと俺を見詰める。
「君に訊いておきたい」
「なんだ?」
隣に座ると、そっと体を寄せてきた。
服越しに感じる理央の体温が嬉しくて幸せだ。
「僕は、君にとってどういう存在だ」
思いがけず見つめ返す。
―――理央、今日も綺麗だ。
容姿の造形は勿論、仕草や雰囲気からにじみ出る内面や、声のトーン。
俺を見つめるまなざし。
この体温も、柔らかさも、吐息も、理央を構成するすべてが愛しい。
一見すれば完璧無比のイケメン。
だけど本当は、ちょっとヤキモチ妬きな世界一可愛い俺の婚約者。
そんなお前が俺にとってどんな存在かって訊かれたら。
そうだな。
「俺の全てだよ」
なんて、ちょっとクサかったか?
でも理央は嬉しそうにフフと笑う。
俺もつられて笑う。
いつでも、どんな時でも、俺にとっての天ヶ瀬 理央はかけがえのない、この世に二人といない特別な存在だ。
繰り返し、何度も、何度も、何度だって言う。
全てを捧げてくれた、命さえ懸けてくれた。
そんなお前に、俺も俺の持つ全部でもって応え続けたい。
「愛してる」
俺からも寄り添って答えると、理央はまたクスクス笑いながら俺の首に腕を回す。
抱き寄せて温もりを確かめ合った。
ああ、柔らかい、いい匂いだ。
こうしてくっついているだけで無限に幸せが湧いてくる。
「僕も、愛している」
「それじゃ俺達両想いってわけか」
「ふふ、そうだね、僕達はお互いに運がいい」
顔を見合わせて、鼻先をくっつけ合って笑う。
―――好きだ。
天馬さんには悪いがもう少しだけ待ってもらおう。
今はまだお前と二人でこうしていたい。
俺達にはもしかするとまた思いも寄らないような状況が降りかかってくるかもしれないが、きっと二人なら乗り越えられる。
それが俺達だ。
誰にも奪わせない、何も憚ることはできない、だって俺はこんなにもお前が好きで、お前も俺を好きでいてくれるから。
だから、胸を張って断言できる。
この世に絶対なんてものは存在しないらしいが、俺と理央に限ってはそれがある。
この俺、大磯 健太郎は、天ヶ瀬 理央を心から愛している。
ずっと一緒にいよう。
二人で幸せになろう。
そう決めた、だからお前にも付き合って欲しい。
お前がいないと成立しないんだ。
誓うよ、理央。
大切にする、離さないからな。
―――今まで本当に有難う。
そして、これからもよろしく。
特別な、俺だけの、最愛の魔女。
(カノジョ編 了)




