そして、これからも彼女と 5/前
「分かった」
そう答えると、隣からため息が聞こえる。
ごめんな、理央。
でも俺は、やっぱり女の子にはどうしても甘いから。
「頼ってくれとは言えないが、母さんが受け入れたなら、俺も多少は力になるよ」
「お義兄様!」
「でも理央には迷惑を掛けてくれるな、もしまた危害を加えるようなら、今度こそ許さない」
「は、はい、勿論です!」
慌てたサラは理央に向かって畏まり頭を下げる。
そして許しを請うような目を俺に向けた。
「約束します、天ヶ瀬様のことはちゃんと諦めました、あんな真似は二度といたしません」
「だったらいい」
サラはホッと息を吐いて、不意に小さく微笑む。
「でも、それも、お義兄様のおかげです」
俺は別に、自分のためにしたことだ。
恩に着る必要はないし、着られる義理もない。
それより今後はまっとうな人間関係を築いてくれ。
また思い詰めた末に暴走して、巻き込まれるのはごめんだからな。
「サラ」
俺も居住まいを正し、サラと向き合う。
「正直に言うが、俺はまだ君を妹として受け入れられないし、あの試練で理央を悲しませたこと、危害を加えたことに関しては一切許していない」
許したのはあくまでも俺にしたことだけだ。
そこは踏まえておいて欲しい。
サラは神妙に俺の言葉を聞いている。
「でも、君の境遇には同情するし、新たな門出を応援したいとも思う」
「お義兄様」
「だから、まずは前に出来なかったことをしよう」
片手を差し出す。
「最初は友達から」
どんな関係であれ、そこがスタートだ。
いきなり彼女だ、妹だって、色々吹っ飛ばし過ぎる。
俺と理央だって最初から好き合っていたわけじゃない、まあ、お互い一目惚れから始まったようなところはあるが、それでも一緒に過ごした結果の今だ。
だからサラとも、まずはお互いに理解を深め合うところから始めないとな。
じっと俺の手を見ていたサラは、ソファから腰を上げて躊躇いがちに傍へ来ると、俺の手を恐る恐る握る。
「はい、お友達から」
「ああ」
「お義兄様の手って、こんなに温かくて大きかったのね」
「まあな」
体もサラよりずっとデカいぞ。
暫く握手していると理央が咳払いして、サラは途端に手を引いてソファに座りなおす。
またヤキモチか?
お前はお前で可愛いよな、フフ。
「そ、それでは、お話もひとまず済みましたし、私はそろそろお暇させていただきます」
そう言って改めて立ち上がるサラに、俺もソファから腰を上げる。
理央も立って俺の隣に並んだ。
サラはバッグの紐を肩からたすき掛けにして「お茶、ご馳走様でした」と言いリビングを出ていく。
後をついていくと、理央も一緒に来た。
玄関で立ち止まる俺の隣に理央も立つ。
三和土でスリッパから靴に履き替えたサラは、不意にクルッとこっちへ振り返った。
その仕草に合わせて長いツインテールがふわっと広がりながら揺れる。
「それでは天ヶ瀬様、お義兄様」
理央と俺に呼び掛け、ぺこりとお辞儀をする。
「朝からお邪魔いたしました、改めてよろしくお願いいたします」
「ああ、頑張れよ」
顔を上げたサラは「はい!」と元気に返事した。
うん。
まあ、やっぱり可愛いよな。
「それでは、失礼いたします」
「おう」
「―――その」
なんだ?
急にモジモジして。
俺を見上げる上目遣いのサラは、どこか照れ臭そうな雰囲気を漂わせる。
「あ、あの、またね、お兄ちゃん」
なっ!
言うが早いかサラはドアノブを掴み、そのままドアを開けて素早く外へ飛び出していく。
ゆっくり閉じていくドアを眺めながら、俺は、俺は―――
「痛ッて!」
せ、背中を抓られたぞ!
痛いッ、理央ぉッ!
「随分とだらしのない顔だね」
「は? そ、そんなわけあるか、勘違いするな!」
「フン、どうやら自覚があるようじゃないか、なあ、『お兄ちゃん』?」
「ふぐぅッ!」
理央からのお兄ちゃん呼び! は、半端ない破壊力ッ!
だが俺はお前のお兄ちゃんじゃないぞ、恋人で婚約者だッ!
まあ真央ちゃんには『お兄ちゃん』って呼ばれてみたい―――って痛ててッ、痛いって!
「り、理央、痛いからッ、マジで痛いからッ」
「痛くしてるんだよ、このバカ者め」
俺を睨んだ理央は、プイッとそっぽを向いてリビングへ戻っていく。
ま、待てよ、ごめんって。
「理央~ッ」
急いで後を追いかけて、ソファに座った理央の隣に腰を下ろす。
すっかりご機嫌斜めだな。
でも怒った顔もやっぱり可愛い、ヤキモチだよな? これってヤキモチなんだよな?
ンッフフ!
「なあ、機嫌直せって」
「君のその甘さを、どう矯正したものかと考えている」
「いいだろ、別に」
「よくないさ、正直呆れている所だ、あれだけの目に遭ってなお許すとは、もしやアレが女性だからなのか?」
「違う、困っているだろうし、俺達より年下だからだよ」
十三歳の女の子だ。
見放すのはあんまりだろう、それに俺は理央のおかげでこうして生きている。
だからまあ、理央が怒るのは当然だ。
「まったく」
呆れついでに今日一デカい溜息を吐かれてしまった。
うう、すまん。




