そして、これからも彼女と 2
サラと理央を家に上げて、リビングに通す。
取り敢えずソファに座ってもらうよう勧めてから、俺はお茶を淹れるためにキッチンへ。
対面カウンター越しに伺う二人の様子は緊張感に包まれている。
理央はサラを警戒しているし、サラも若干肩身が狭そうな様子だ。
当然、俺だってサラを警戒している。
協会の試練にかこつけた理央へのあてつけ、俺への攻撃、殺されたこと、殺されかけたことも含めて、許すと言ったが正直気は抜けない。
うちのリビングのソファは、奥にあるテレビと向かい合う形で置かれたローテーブルの対面にデカいのが一つ、ローテーブル脇に小さいのが一つ置いてある。
理央が座っているのはデカい方、サラが座っているのは小さい方だ。
持っていった紅茶をそれぞれの手前のローテーブルに置いて、俺は理央の隣に腰を下ろした。
理央とサラを仕切るような形だ、このポジションが理央を守るためにもベストだろう。
「では、改めて」
俺が座るのを待っていたように、居住まいを正したサラが深々と頭を下げる。
「天ヶ瀬様、お義兄様、この度は大変な無礼を働き、まことに申し訳ございません」
その様子を無言で見ていた理央は、カップを取って紅茶を飲む。
サラはゆっくり顔を上げた。
「どれだけ謝罪したところで、私の罪が許されはしないこと、重々理解しております」
「であれば今の君の行為はなんだ、殊勝なそぶりで浅ましくも同情を引こうと謀ったか」
「滅相もございません」
理央の冷たい態度が少し心配になる。
こうしてサラと会うだけで精神的にきついだろう、優しい奴なのに、無理をしているのが分かる。
理央にこれ以上辛い思いをさせないためにも、俺が率先して話を進めないと。
「なあ、サラ」
「はい、お義兄様」
うーん、まずはここからか。
「あのさ、それだけど、さっきからなんで俺のことを『おにい様』なんて呼ぶんだ?」
「それは私がお義兄様と血の繋がった妹だからです」
「いやいや、俺に妹は」
「私とお義兄様はダディが同じです」
―――は?
そうか。
やっぱりそうだったのか。
ずっと嫌な予感がしていたんだ。
こんな日がいつか来るんじゃないかと、昔からずっとずーっと思っていたその時が! まさか! こんな最悪な形で訪れるなんてッ!
あの、ク ソ お や じ ~~~~~ッッッ!!
やっぱりいたのか隠し子!
あのどチクショウめ!
しかも身内の恥を理央に知られるなんて!
そしてその隠し子が、妹が、まさかのサラ! あのクソ野郎ッ、いっそ死んでくれないか!?
「その話をさせていただく前に、まず、協会から私に下された罰についてお伝えさせてください」
俺は今、ショックと動揺で正直メンタルがグチャグチャだ。
でも仕方なくサラの話に耳を傾ける。
聞く必要のある話だろうからな。
「私はお義兄様のおかげで命こそ失わずに済みましたが、罰を受け、今は同い年の平凡な少女たちとそう変わらない状態です」
「そのようだね」
理央が淡々と言う。
どういう意味だ?
平凡な女の子と同じってことは、サラは魔女じゃなくなったのか?
「協会は、私の魔力の殆どを封じました、この封印を自力で解けるようになるまで再び修練を積み直すこと、それが新たに下された罰です」
「随分と手ぬるい」
「はい、お義兄様が私を許すと仰ってくださったおかげです」
「ああそう、それはなによりだ」
刺のある理央の言葉に、サラは「とんでもありません」と恐縮する。
「ご恩に感謝しております、このことを真摯に受け止め、過去の自分を顧みて、日々研鑽と努力を重ねていきたいと思っております」
「君がどうあれ、僕の心証は変わらないよ」
「はい」
しょぼんとするサラにも少し同情が湧いてしまう。
だが俺はいつだって理央の味方だ、それにサラが俺達にやったことは消せない、いくら俺が許すと言っても、理央まで俺の考えに付き合う必要はない。
どちらの側につくのも違うと思うから、ここはただ見守るのみだ。
「近く、協会から通達があると思いますが、私が罪の清算を終えるまでの身柄は天ヶ瀬家預かりとなりました」
理央がまた「は?」とサラを見る。
普通に驚いた、それでいて嫌そうな顔だ。
「なんだと」
「非礼の数々を、己が身をもって償えという意向だそうです」
「バカな」
おお、どうした理央?
頭を抱える理央の背中をよしよしと撫でる。
いまいち俺には分からないが、預かりってことは、天ヶ瀬家がサラの面倒を見るってことか?
「なんという、おのれ、これで義理を通したつもりか、ふざけた真似をッ」
「申し訳ありません、天ヶ瀬様、何卒よろしくお願いします」
「ああっ、まったく!」
おお、よしよし、大丈夫だぞ。
分からないなりに協会がろくでもないってことだけは改めて分かった。
流石に俺も恨むぞ、毎度俺の可愛い理央を苦しめやがって!
「つまり、君の監視監督役を当家に押し付けたというわけか」
「どうぞ僕としてお使いください」
「はっ、魔力も持たないただの娘になにができる、身の程を知れ」
「それはその、申し訳ございません」
睨む理央、俯くサラ。
うーん、拗れまくっている。
「天ヶ瀬様」
サラが「こちらを」と理央に何かを差し出した。
これは―――鍵?
「ご存じでしょうが、魔封錠です」
鍵を見た理央はまた呆れた様子で盛大に溜息を吐いた。
「こんなものまで僕に預からせるつもりか」
「はい、私なりの服従の証です、どうぞお納めください」
一体何の鍵だろう。
理央は暫くカギを見て、諦めたように手に取った。
「なあ、それなんだ?」
「これは魔封錠だよ」
俺が訊くと理央はうんざり顔で説明してくれる。
「魔を封じる錠と書く、その名の通り用途は魔封じ、この鍵で彼女の力を封じた錠に鍵をかけている」
「サラの?」
「そう、加えてかの錠前は魔女としての彼女の命と繋がっていてね、この鍵を壊せば―――」
理央はサラの魔封鍵を見て、サラを見て、俺に視線を戻す。
「魔女としての彼女は死ぬ」
「えっ」
死ぬ?
「生物として死ぬわけではないよ、二度と―――魔力の源流というか、根源に接続できなくなるだけだ、そうなれば魔法は使えない、故に魔女を名乗ることもできなくなる」
「つまり、鍵を折られるとサラは完全に普通の女の子になるってことか」
「そうだね」
平凡な俺には分からないが、理央やサラのような魔女にとってそれは一大事なんだろう。
敵意がないこと、服従の意を示すために、命を預けたってことか。
鍵は理央の手の中ですうっと透き通って消える。
改めて理央は足を組みながらソファに凭れ、サラに視線を向ける。
―――俺の彼女格好いい。
今思うことじゃないのは分かっているが、凄く似合ってるな。ちょっと見惚れそうだ。
「それで、こんな真似をして僕の機嫌が取れるなどと、まさか考えていないだろうな」
「はい」
「結構」
また溜息を吐いた理央は、俺に何か言いたげな目を向ける。
色々と飲み込んで我慢したんだな? 偉いぞ。




