そして、これからも彼女と 1
LOOP:×××
Round/My Lover A Witch!
朝、玄関から来客を告げるチャイムが鳴り響く。
待ってました、理央が迎えに来てくれたんだ!
嬉しいなあ、また毎朝一緒に登校できるようになって。
俺は毎日幸せだ。
俺と理央が、魔女を統括する協会とかいう組織から与えられた試練を乗り越え、サラとの確執にも決着がついて、そろそろ一か月が経つ。
改めて思い返すと結構不条理で、だけど少し胸の痛む出来事だった。
それにしても、思いがけなかったのは―――全てに決着がついた翌々日、学園に登校してみると、誰もサラを覚えていなかったことだ。
それどころか、俺と理央が四日間すれ違っていたことすら無かったことになっていた。
星野も全然怒っていなかったし、それどころかバレンタインとその翌日に登校しなかった件で俺と理央に『交際が順調そうで何より』なんて意味深に言ってきたくらいだ。
ちなみに、他の奴らからも同じ理由で散々勘繰られた。
あまり下世話なことを訊いてくる野郎にはスリーパーホールドやフロントチョークをお見舞いしておいたが。
それと、こっちは個人的にショックな出来事なんだが―――ループ前にチョコをくれた友達が、誰一人として俺にチョコを用意していなかった。
何でこうなった? ループの影響?
考えてもまるで分らない。
バレンタイン当日に渡せなかったことを言われるかもしれないとは思っていたが、まさか元から用意してなかったなんて。
手作りのチョコをくれると言っていた虹川にそれとなく話を振ったら、傍で聞いていた清川から「厚かましい」とバッサリ斬られてしまった。
ま、まあ、確かに?
理央と元の関係に戻った状態で他の子からチョコを貰ったら、ヤキモチ妬きな理央はきっと拗ねる。
例外としてお許しが出たのは、薫から空輸便で届いたチョコと、藤峰のおばさん、母さん、そして母さんの秘書の加賀美さんがくれたチョコだけだ。
天ヶ瀬邸の皆さんにカップチョコを配る許可も貰えたが、やっぱり俺から手渡しは絶対にダメで、代理人として天馬さんが配り歩いてくれた。
でも、バレンタインを過ぎて渡されたチョコは単なるプレゼントだからな。
当日に受け取れなかった地点で、ループ前と同じ展開も無くなっていたってことか。
はあ、まあ、仕方ない。
でも理央は今年も結構な量のチョコを受け取ったらしい。
なんかズルくないか?
まあいいけど。
贈っている方は知らないだろうが、女の子同士ならノーカンだもんな。
―――バレンタインがあった週の週末、俺は天ヶ瀬邸に招かれ、磐梯や他の天ヶ瀬邸の人達と一緒にチョコ消費役として大量のチョコを食う羽目になった。
検分役の天馬さんと執事が仕分けを行い、理央と妹の真央ちゃんが食べる分、俺達が片付ける分、廃棄する分、それぞれのチョコを食ったり捨てたり報告したり、大変だった。
氏名の記載があった場合はリストアップして、ホワイトデーにお返しのクッキーが配られるらしい。
差出人が分からない物に関しては廃棄、勿体ないが安全面を考慮しての対処だそうだ。
手作りも基本廃棄、贈り主が分かっている場合はその真偽と相手如何では理央の手にちゃんと届く。
天ヶ瀬家の大切な跡取りとその妹だ、迂闊におかしなものを口に入れられないってことで、厳しく検分されていた。
それを思うと俺が手作りしたオペラやカップチョコを理央と一緒に食べたのは、破格の扱いってことだよな。
うーん、改めて満足。
そして廃棄されず、理央と真央ちゃんに献上されなかったチョコは俺達の出番だ。
今年はもうチョコはいい、一年分くらい食べた。
磐梯も途中で鼻血を出してぶっ倒れていたし、軟弱な野郎だ、俺は耐え切ったが今思い出しても胸やけがしてくる、うっぷ。
サラについては―――あの日以来、見ていない。
どこで何をしているか、理央に訊いても、理央も分からないらしい。
でも、きっとどこかで元気にやっているよな。
そう信じる。
協会からも何かしら罰を下されたかもしれないが、あの時の様に命で償わされたりはしていないはずだ。
俺は許すと言ったし、やり直す機会を与えて欲しいとも言った。
その意を酌んでくれていることを願おう。
でも、サラって、思い返すと何となく親しみが持てる感じがあったんだよな。
それで情が湧いた部分もある。
まあ俺は、元より女の子には大抵甘い。
理央にフラせたって後ろめたさもある、あれは俺のためだ、これ以上サラに関わって欲しくなかった。
未練を断ち切らせた、強引に切り捨てさせたんだ。
サラにも、理央にも。
だから今更何も言う資格なんかないが、もしかすると、違う出会い方をしていたら友達くらいにはなれたかもしれない。
なんて、こんなこと理央には絶対に言えないが。
また『君は甘い』なんて言って、鼻を摘ままれるかもしれないからな。
さて!
感傷的になっている場合じゃないぞ、早く理央を出迎えないとな!
「はいは~い!」
ルンルンと玄関へ行って、ドアを開けるとそこには―――
「おはよう!」
朝の日差しを浴びて佇む、赤くて長い髪をツインテールにした美少女。
髪と同じ赤い瞳が真っ直ぐ俺を見上げている。
えっ?
―――はい?
「サラ?」
「ええそうよ、ごきげんよう、お義兄様!」
ニコッと微笑まれて仰け反った。
お、おにい、さま?
っていうか何でいる! 一体何しに来たんだ!?
「健太郎!」
呼ばれてハッと我に返ると、門の方から血相を変えた理央がこっちへ向かってくる!
すごい剣幕だ。
慌てて俺も家を飛び出し、理央を落ち着かせに行く!
「君ッ! ここで何をしている!」
「おお落ち着け理央ッ、大丈夫だから、まだ何もされてないから落ち着け!」
「下がれ健太郎!」
「ダメだって、頼むから落ち着いてくれ!」
朝から玄関先で揉めてくれるな!
騒ぐ俺達を見ていたサラが、不意にクスッと笑う。
そしておもむろに、自分のスカートを指で摘まんで、お姫様がやるようなお辞儀をした。
「ごきげんよう、お久しぶりです、天ヶ瀬様、そしてお義兄様」
「は?」と理央がさっきの俺みたいな反応をする。
「早朝からお伺いしてすみません、本日はご挨拶に伺わせていただきました」
「挨拶、だと?」
「はい」
サラはニコッと微笑む。
「私、本日よりお義兄様の妹として、こちらで暮らすことになりました」
「えッ!」
俺の、妹として、ここで暮らす?
―――意味が分からないんだが。
そもそも俺に妹はいない、そのはずだ、多分、恐らく、そうであって欲しい。
「立ち話も何ですし」
唖然としている俺と理央に、サラだけが平然と話を続ける。
「お家に上げていただけます? お義兄様」
「い、いや、それは」
「ああ! ダディの御申しつけのことでしたら、お義母様からお許しを頂いております」
ダディ? お義母様?
「それに、家族に関しては含まれないとも伺いました、私はお義兄様の妹なので何の問題もありません」
「待ってくれ」
さっきから話について行けない。
サラは何を言っているんだ、頭がおかしくなったのか?
「その、俺をお義兄様だとか、お義母様とかダディとか、一体何のことだ」
「詳しい話をしたいので、どうぞお家に入れてください、外は寒くて―――それに」
不意に辺りを見回すような仕草をして、サラは俺に視線を戻す。
「ここだと人目がありますし」
ハッとなって俺も周囲に視線を走らせる。
朝だ。
通勤途中の会社員、ゴミ出しをしている主婦、散歩の途中のご老人。
近所の顔見知りたちが、玄関先で騒ぐ俺達を家の塀の向こうからそっと伺うようにしている。
―――まずい。
「やむを得まい」
ふと、理央が額を押さえつつ溜息を吐く。
「申し入れを受けよう、健太郎」
「理央」
「だが僕も臨席する、認めないと言うのなら、即刻君をこの場より強制的に排除させてもらう」
「構いませんわ、むしろ天ヶ瀬様にもご存じいただきたいので、是非お願いいたします」
サラの反応に理央は多少拍子抜けしたような顔をした。
俺も思いがけなかったが、まあ、とにかく家に上がってもらおう。
抵抗はあるが、この場で話を続けるわけにもいかないし、理央が言うとおりやむを得ない。
それに説明してもらわないとな、さっきからこっちは混乱しっぱなしだ。




