番外編/幕間 閑話休題 2
「んっ、んん」
唇の感触を確かめて、舌で唇を舐めて、軽く吸ったり、唇で唇を甘く食んだりする。
いつの間にか理央の腕が俺の首に回されている。
ああ、理央の体温、理央の匂いだ。
包んでいた上掛けをはだけて、直に抱き合ってキスを続ける。
舌先で唇を割り、奥へ入り込んで、絡みつく理央の舌を舐る。
ハァ、気持ちいい。
もっとキスしたい、このままずっとキスして、キスして、もっと理央と気持ちよく、もっと―――
「っふぁ!」
はぁッ、あぶない!
慌てて顔を上げた直後、自分の手の位置に気が付いた。
む、胸ッ! 揉んでたーッ!
知らぬ間に、怖い! これは親父の血のせいか!?
「健太郎?」
とろんとした表情で理央が物足りなげに呼ぶ。
だから、ダメだって。
エッチはせめて十八歳になってからだ、今はまだ早過ぎる!
そそくさと離れてベッドから降りようとすると、パジャマの裾をグイッと引っ張られた!
恨めしげな声で「健太郎ぉ」と背後から理央が圧し掛かってくる!
「逃げるのか、卑怯者、僕にここまでしておいて」
「だからッ、ダメって言ってるだろ!」
「僕は構わないのに、君のその謎に高い倫理観は一体なんだ」
「母さんの英才教育の賜物だよ!」
「今すぐ捨て去ってしまえ」
「無茶言うな!」
こんにゃろ、その柔らかくて大きなマシュマロを背中にグイグイ押し付けてくるな!
俺の股間の如意棒が如意如意しちゃうだろ!
「あのなあ、理央」
「なんだい」
「俺はまだ高校生で、もしもの場合の責任が取れないんだ」
まだ十八歳にすらなっていない。
籍を入れることさえ無理だ、そんな奴がエッチだなんて無責任すぎる。
「お前のご両親に申し訳ないし、こういうことはちゃんとしたい」
「ならば、君の言う責任とやらは一体いつになったら取れるようになる」
「せめて高校を卒業したら、いや、最低でもお互い十八になったらだ」
七月に俺の誕生日がきて、半年後には理央も誕生日を迎える。
お互い十八歳になったら籍を入れられるようになるから、最低限の責任が取れるようになる。
でも十代で妊娠、出産なんて、やっぱり世間体がよくないだろう。
理央が後ろ指差されて噂されるなんて状況は耐えられない。
できれば二十歳まで性的な接触は控えるのがベストだ。
「分かった」
ようやく理央は離れてくれる。
分かってくれたか、そうか、よかった。
「では、僕の誕生日をもって解禁としよう」
「へ?」
振り返ると理央は「いいね?」と念を押してくる。
いや、その。
「避妊しても妊娠の可能性は無くならないだろ、十代でそういうのはどうかと思う」
「君はそんなことを気にしているのか、世間一般の常識など僕には通用しない」
「魔女だから?」
「違う」
うっ、睨まれた。
「まず、妊娠出産しても育成環境は十分過ぎるほど整っている、僕らの子供には何ら不自由のない暮らしと教育が既に約束されている」
「お、おう」
確かにそうだな、理央の家は天下の天ヶ瀬財閥だ。
一般庶民とは土台も背景も全然違う。
「加えて、僕の身長は170センチ、体重もほぼ平均値だ、出産にかかる身体的負担は恐らく少ない、医療面のバックアップも万全だ」
「なっ、なるほど」
「故に、僕が君の子を孕み産んだとしても、懸念する要素は一切ない」
「はい」
反論の余地もない。
それは確かにそうだろうけど、理央の誕生日から間もなく高校も卒業するし、問題がないと言えばそうなのかもしれないが。
「君、それとも」
理央からまたギロリと睨まれる!
ぴいッ、さっきより怖い!
今度は一体何だ?
「よもや僕との性交は受け入れ難いと―――」
「それはない!」
ありえない!
全力で否定させてもらう!
「だッ、だけど、やっぱりせめて十八になるまでは待ってくれよ、筋は通したいんだ」
「ふむ」
理央は何かを考えるように黙り込んで、不意にぽつりと呟く。
「あと、334日」
「え?」
「今年はうるう年ではない、昨日はバレンタインだったから、今日は2月15日」
理央?
「僕の次の誕生日は、来年1月15日だ」
「そうだな」
「楽しみだね、健太郎」
「えーっと」
「どうした?」
「いや、なんでもありません」
押し切られてしまった。
でも、ちょっとドキドキしている。
つまり―――来年の理央の誕生日にそういうことをするって確定したわけで、俺に反論の余地もなく。
し、仕方ないよな?
ここまで言われたら、理央に恥を掻かせるわけにもいかないし?
不可抗力だ、うん、仕方ない、仕方ない。
母さんも、理央のご両親だって納得してくれるはず。
俺も、それまでにしっかり予習しておこう。
「しかし」
ふと理央は感慨深そうに「誕生日か」と呟く。
「なかなか運命的なものを感じるよ」
「なんでだ?」
「区切りとして丁度いいって話さ」
それは、お互いに卒業するのにおあつらえ向き、とか?
理央は俺の心を読んだようにクスッと笑う。
「ねえ、健太郎」
「なに?」
「いずれ君に知って欲しいことがある」
知って欲しいこと?
何だろう。
「今じゃダメなのか?」
途端に理央はまたツンとして俺を軽く睨む。
「そうだね、君が今すぐ僕に手を出すなら、話すのもやぶさかでない」
「じゃあ来年まで待つ」
「ふん、イジワルだな」
そんなつもりはないが、まあ、これ以上は藪蛇だ。
せっかく折れてくれたんだし、蒸し返すような真似はやめておこう。
「さて」
軽く髪を掻き上げた理央は、俺にパタッと倒れ込んでくる。
「健太郎、そろそろ朝の支度をしようじゃないか、すっかり目も覚めただろう?」
「そうだな」
いつの間にか生理現象も収まってきた。
やれやれ、朝から大変だった。
「俺、家に帰らないと、制服持ってきてないし、今から急いでも遅刻するだろうけど」
「登校するのかい?」
「お前はしないのかよ」
理央はちょっと考えるそぶりの後で、急に抱きついて体重をかけてきた。
「おっと」
「僕はまだ勿体ないから、君との朝をもう少しだけ堪能するとしよう」
「俺まで巻き添えにするつもりか」
「君は僕の婚約者だろう?」
「そうだけど」
嬉しそうに「では諦めたまえ」と言って、俺の胸に顔をグリグリと擦りつけてくる。
しょうがないなあ。
だけど俺も、可愛い理央と過ごす朝のひと時をまだ楽しみたい。
二日連続不登校、これは噂が捗りそうだ。
でもいいよな?
だって俺達、婚約しているんだし!
「こいつぅ!」
言いながら理央をコチョコチョとくすぐって、笑いながら一緒にベッドに転がる。
目が合った理央と、そのままキスした。
「ねえ健太郎」
「ん?」
「目覚めてすぐ君に会えるのって、とても素敵だね」
「そうだな、俺もそう思う」
幸せなひと時。
今はこれで十分―――理央と過ごす最高の朝だ。




