番外編/幕間 初めての…… 5
「そのことなのだが」
理央がそっと俺の手を取る。
「君、今日はこのまま泊まっていかないか?」
「え」
は?
―――ええッ!?
「どうか帰らないでくれ、頼む」
「いっ、いやいやいや!」
「今夜は君と共に過ごしたい」
「えええええッ!」
ま、まさかそれって、エッチなお誘い!?
流石に鈍い俺でも分かるぞ、理央が俺を誘っている、そういうことがしたいと訴えられている!
う、嬉しい!
―――だが待て。
俺達は高校生、やっぱりまだ早過ぎるッ!
エッチなことはメチャクチャしたいが、何かあっても責任が取れないし、理央の親御さんに殺されそうだ。
俺の母さんにもきっとボコボコにされるッ!
「ねえ、ダメだろうか?」
うはぁ! 必殺の上目遣いッ!
ど、どうしよう、俺の中の悪い健太郎がヤッちまえと囁きかけてくる。
気持ちいいだろうな、絶対に気持ちいいだろうな。
でも、ダメッ!
俺は紳士、俺は紳士だ! 誘惑に屈したりしないッ!
「嫌なのかい?」
「そ、そんなことは、ない、けど」
「ねえ健太郎」
「うっ」
「お願いだよ」
エッチに胸の辺りを撫でないでくれぇッ!
ああ理性が、理性が持ちそうにない、たすけて!
「怖いんだ」
―――え?
不意に胸元に寄り掛かってきた理央を見る。
「やっと君が戻って、だけど僕は、この四日間ずっと辛かった、こんなことは言うまいと思っていたが」
「理央」
「また君がどこかへ行ってしまいそうで不安だ、だから今夜だけでいい、傍にいて欲しい、僕から離れないでくれ」
そう、か。
俺はバカだ、なに勘違いしている。
もし俺が試練をクリアできなければ、理央は全てを失っていた。
俺も理央を失うことになった。
その恐怖を目の当たりにしながら、何もできない無力感はどれ程の苦痛だったろう。
きっと心細かった、不安で、辛くて、苦しい想いを何度も堪えたに違いない。
俺の彼女に成り代わっていたサラの存在にも傷付いただろう。
全てに片が付いたのは今朝の出来事で、心の傷はそんな簡単には癒えない。
だったら俺は、彼氏として、婚約者として、大切な理央の支えになってやるべきじゃないか。
これは男としての責務だぞ、健太郎。
愛しているなら、本当に大切に想うなら、邪な想いなんか投げ捨てて、純粋に理央の願いを叶えなければ!
「分かった」
頷くと、パッと顔を上げた理央は嬉しそうに頬を染める。
「健太郎!」
「俺も理央と一緒にいたい、でもいいのか? 急な話だし、家の人は」
「問題ない」
ニコリと微笑む理央に、ふと違和感を覚えた。
あれ?
まあ、いいか、とにかく今日はめいっぱい理央を甘えさせてやるぞ!
「では、今夜は客室のベッドを使おう、あれなら二人で横になれる」
「え?」
待て。
今、二人でって言ったか?
「い、いや理央、それはダメだ」
「何がだい?」
「だって二人って、俺は男だぞ?」
「知っているよ」
キョトンとするな。
流石にダメだろ、男女七歳にして同衾せずだぞ?
「朝まで傍にいると言ってくれたじゃないか」
「そ、それは、でもっ!」
「君は承諾してくれた」
「だけどなあッ」
「まさか、君―――僕に嘘を吐いたのか?」
ひえッ、急に目付きが変わった。
怖い!
「恋人であるこの僕に、偽りを告げたのか」
「めめッ、滅相もございません!」
理央は結構、と頷く。
「であれば、何も問題はないね?」
「ひゃい」
「結構」
またニコニコとご機嫌な理央の寒暖差で風邪を引きそうだ。
もしや俺、嵌められた?
さっきの訴えも芝居だった?
いや、まあそうだったとしてもだ! 辛い思いをさせたのは事実だからな。
「健太郎」
俺の腕にするりと腕を絡ませて、理央が体を寄せてくる。
やわらかぁい。
「さあ、行こう」
「う、うん」
「そうだ、夜は一緒にお風呂に入ろう、昼は別だったからね」
「それはダメッ」
不満そうに鼻を鳴らすなよ、ちくしょう可愛い。
頼むからあんまり煽ってくれるな。
俺は紳士だから限界まで耐えるけどな、いざとなったら分からないぞ!
男はいつでも狼になる用意があるんだからな!
「つまらないな、君は随分とつれない」
「あのなあ、理央」
「それなら君だけお先にどうぞ、僕は後からいただくよ」
「言っておくが、入ってくるなよ?」
返事がない。
「理央?」
プイッとそっぽ向いた、うおおい!
理央の真意はともかく、俺としては嬉しいような、辛いような、このまま眠れぬ夜を過ごすハメになりそうだ。
理性と下心のゴングが鳴り響く。
どうか勝ってくれよ、紳士な俺!
いずれご挨拶する前に理央の両親の心証を下げないためにも、頼むッ!
はあ。
俺だけ試練はまだ続きそうだ―――




