愛に全てを 5/後
「だから君を試すことで、間接的に僕も試されていた、七日の内に君が自力で記憶の封印を解けなければ」
俺は理央を完全に忘れて、俺達の関係は消滅する、だったよな?
「僕は天ヶ瀬を追放されただろう」
「は?」
―――なんだよ、それ。
そんなデメリットは聞いてない、どういうことだ?
「一時の感情に突き動かされ判断を見誤る者に天ヶ瀬を継ぐ資格などない、そんな恥知らずは一族にさえ不要だからね」
「でも、だからって!」
「そういう決まりなのさ、天ヶ瀬という一族は、君が思うよりずっと厳格で冷酷だよ」
そう、なのか。
考えもしなかった、それなのに俺は。
「そして協会というのは魔女の外部統括組織だ、主にフリーの魔女を管理しているが、うちのように大きな家だとこういう時に口を挟んでくる」
「魔女ってたくさんいるのか?」
「いいや、だが好き勝手にさせてはヒトの社会が成り立たない、故に規律を定めて各々厳守する必要があるのさ」
なるほど。
今まで知らなかった世界の裏側を垣間見るようで、ちょっと圧倒される。
「君に資格が無ければ、それは君を選んだ僕にも資格が無いということだ」
まさかの連帯責任だった。
それで理央は、あの時あんなに取り乱して試練の撤回を要求しようとしたんだな。
俺はあまりに浅はかだった、きっと怖かっただろう、不安だったろう、本当にごめんな、理央。
「故に僕は魔力を封じられ、身一つで天ヶ瀬を追放されただろうね」
「ごめん」
「どうした、なぜ謝る?」
不思議そうにする理央に、改めて頭を下げる。
「俺がバカだった、知らなかったとはいえ、お前のリスクを考えもせず安易に受けちまって、本当にすまなかった」
「何を言うんだ、僕は元からその点に関して君に思うところなどない」
「でも」
「それに君は、たった四日で思い出してくれた、これは僕の知る限り新記録さ」
「え?」
そうなのか?
理央はフッと笑って軽く足を組む。
「平均は五日ないし六日、遅い者では七日の期限が切れる間際になってやっと思い出せたなんて話も聞く、君はまったく呆れるほど凄いよ、恐れ入る」
「そっ、そうだったのか!」
「ああ、僕も実に鼻が高い」
よかった!
いやよくはないが、でも、そうか。
俺は理央に相応しいって見せ付けられたんだな、やったぜ!
「でもね健太郎」
理央は足を戻して、紅茶を一口飲む。
「あの時僕は、それでも君が僕を忘れてしまうことがたまらなく怖かった、君を信じられなかったんだ、すまない」
理央。
「それに、こうなった原因である僕自身のエゴも後ろめたかった」
「エゴ?」
「そう、君が殺されてしまったあの日、実を言うと迷ったのさ」
ループさせることを、か。
それは当然だ、今聞いた感じだとお前の人生が掛かっているようなものだろ。
迷うに決まってる、当たり前のことだ。
「もし選んでしまえば、君は逃れられない」
「え?」
「僕の伴侶となることが確定してしまう」
は、はい?
またも思いがけない発言に、つい理央を唖然と見る。
えーっと、それは、どういうことだ?
「僕はね、健太郎―――魔女だ」
「お、おう」
「それが何であれ、手に入れると決めたなら、必ず目的を果たす」
それは、その、ちょっとドキドキするんだが。
一体どの辺りに後ろめたさを感じたんだ?
「でも、あの頃の僕達はそれほど親密な仲ではなかった、ほぼ他人だ、たまに口を利く程度の関係だったのに、僕の一方的な好意を君にも強制することになってしまう、それが申し訳なくて、後ろめたくて、君を手に入れるための口実を作っているようで、浅ましいとすら思った、自分が恥ずかしいと感じたよ」
「えっ、いや待ってくれ、でも俺は」
お前がループさせてくれなかったら、最初に薫に殺された地点で終わってたぞ?
「お前が時間を巻き戻してくれたから、今こうしていられるんだ」
「だからさ、それでも僕は、どうしても君に死んで欲しくなかった、故に自身のエゴを優先したんだ」
そういうことか。
だから俺に罪悪感があるだなんて、しょうもない。
「時を巻き戻して、君が死なない道を模索した、何度も何度も、君のためだと自分に言い聞かせた」
辛そうな理央にどんな言葉を掛けたらいい。
俺はそんなこと気にしないって言っても、これは理央自身の問題だ。
「だが、協会から裁定の通達を受けて、僕は遂に審判が下るのだと怯えた」
「審判?」
「現実を突きつけられると思ったのさ」
「どういう意味だ?」
「つり橋効果だよ、健太郎、君が僕を好きになってくれたのは、僕が招いたこの異常な状況のせいだ」
「バカ言え!」
咄嗟に大声を出してしまった。
ビクッとなった理央を見て我に返る。
「あ、いや違う、じゃなくて、そんなわけないだろ!」
「うん」
「本気でそんなこと考えたのかよ」
「ああ」
「ッツ! この、アホ!」
理央は可愛いが腹が立つものは立つ!
とんでもないぞ、勘違いもいいところだ!
「君を失いたくなかった、怖かったんだ、だって僕は、身勝手だから」
膝の上で両手をギュッと握り締めて、何かを耐える切ない姿。
そんな理央を見ていると、俺も堪らなくなってくる。
―――バカだなあ。
俺よりよっぽどしっかりして頼もしいのに、そんなことで思い詰めて抱え込んでいたなんて。




