愛に全てを 5/前
「それもヤキモチか? 理央」
口の中のチョコを飲み込み「その認識で構わない」なんて言ってツンとする仕草も可愛い。
いやぁ、でっへへぇ、しょうがにゃいにゃあ~ッ!
「そもそも何故配る分など作った、時折君は酷く憎らしい」
「アハハ」
それはその、色々と事情があったから。
理央はケーキスタンドの一番上の段に手を伸ばし、置いてある小箱を取って座りなおす。
「だが」
その小箱にしんみりとした視線を向ける。
「僕との関係を喪失しても、こうして僕のためにチョコレートを手作りしてくれた、その事実は何ものにも代えがたい」
振り返って「嬉しいよ」と微笑みかけてくる、理央が愛しい。
うん、俺もだよ。
約束は守れなかったが、お互いに気持ちが通じ合っているって分かって、今は本当に嬉しいんだ。
「そういえば、その手の怪我」
「うん?」
「なんでそのままにしてるんだ?」
理央の両手はまだ包帯と絆創膏だらけだ。
俺の怪我はともかく、理央自身の傷はサラと同じように時間を巻き戻して消せばいいのに。
「これは、その、僕の勲章だから」
理央は照れ臭そうにする。
「消してしまうなんて勿体ない、このままにしておきたいんだ」
「そうか」
俺のためにチョコを作ってくれた時の怪我を『勲章』だなんて。
いじらしい奴。
理央のこと、これからはもっと大切にしよう。
「さあ、受け取ってくれ」
理央から小箱を渡される。
「ハッピーバレンタイン、僕の想いを込めて」
「ああ!」
ループの前は色々あって箱がくしゃくしゃになったのを、渡すか躊躇った理央から奪い取ったんだよな。
でもこの箱は綺麗なままだ。
両手で大事に受け取って、丁寧にラッピングを解いていく。
中から現れた白い小箱の蓋を開けると、四つに仕切られた枠の中に可愛いトリュフチョコがそれぞれコロンと入っている。
「おお、トリュフか!」
「うん」
「綺麗に出来てるな、美味そうだ」
「味見はしたよ、問題ないはずだ、君の口にも合うと嬉しい」
早速一個摘まみ上げて、まずはじっくり鑑賞させてもらう。
丸くて可愛い、ココアパウダーを振りかけた上に金箔まで乗せてあって、これを理央が俺のために作ってくれたのか。
世界一尊いトリュフチョコだ。
「その、早く味を確かめてもらえないだろうか」
急かされていよいよトリュフチョコを口に入れる。
噛み砕くと舌の上で蕩ける滑らかさ、ほのかに香る洋酒の風味、コクのある甘味とほろ苦さのマリアージュ、うう~ん美味い、美味すぎる。
こんなに美味いトリュフチョコは初めてだ、隠し味は理央の愛か、最高だな。
「どうだい?」
「美味過ぎる、最高に美味いチョコだよ!」
「大げさだな」
ああ、美味い。
無限に味わっていたい、理央のチョコ、この味を口の中に永久保存できないものか。
溶けて消えてしまうのが惜しくて次を食べられない、でも食べなければ意味がない、現実は時として非情な決断を俺に迫る。
「ねえ、健太郎」
理央も俺のオペラを食べている。
幸せだなあ、まさにハッピーバレンタインだ。
「その、今更かもしれないが、君に話しておきたい」
「ん?」
「協会が行った今回の裁定について、それと僕、というか、天ヶ瀬のことを」
―――その話か。
教えてくれるなら聞いておきたい。
詳しいことはまだ何も分からないままだしな。
「先に一つ頼みがある」
「なんだ?」
「今から話すことは他言無用、どうか君の胸にだけ留めてくれ」
「分かった」
紅茶を一口飲んで、理央は話し始める。
俺も少し居住まいを正す。
「天ヶ瀬は古くから続く魔女の血統でね、家を継ぐ者だけが持つ、生涯にただ一人のためにだけ行使することのできる、特別な力を持っている」
「それって」
「僕が授かったのは時を巻き戻す力だ、範囲は恐らく無制限」
「おお」
「驚いたかい?」
驚いた。
つまり理央は任意で好きなだけ時間を巻き戻せるってことか。
凄いな、それってとんでもない力だぞ。
でも今、生涯にただ一人のためだけに、って言ったよな?
「最初に君が命を落とした時、僕は君のためにこの力を使うことを決めた」
思いがけない言葉に息を呑む。
俺を、そのただ一人に選んでくれたってことか。
「決断に今も後悔こそないが、君は僕のせいで理不尽な死と、その死へ至る恐怖を繰り返すことになってしまった」
「な、なに言ってるんだ、俺は」
「今回の件に関しても結局は僕が原因を作ったようなものだ、君はね、健太郎、真に僕の伴侶たり得るのかと試されたのさ」
伴侶って、えっ!
い、いいのか?
動揺する俺を窺うようにしながら、理央は話を続ける。
「僕のこの力は、君に対してのみ行使できるとはいえ、扱い方次第では社会に深刻なパラドックスを引き起こす危険性を孕んでいる」
それは確かにそうだ。
―――なるほど、だからなのか。
俺にも今回の真相が少し見えた、どうして試されたのか、その訳が。
協会とやらは多分、俺が理央にループさせるだけの価値がある人間か確かめようとしたんだ。
やり方はいまいち微妙だが、恐らくそういうことだろう。
もし俺が悪い奴なら理央を誑かして、自分に都合のいい状況を作り出すためにループさせている可能性もある。
だから俺達の間にある愛が本物か試したんだな。
思い出すことができなければその程度ってことだ。
本物の愛は逆境如きに負けない、そう考えると随分ロマンティックな試練だったってわけか。




