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喪失とカノジョ 3/前

「ケン!」


不意に腕を強く引かれた。


「サラ?」


サラが不満げに俺を見上げている。


「いい加減席までエスコートして、いつまで私を立たせておくつもり?」

「あ、そう、だな、ごめん」

「早くして」


サラを連れて行くというより、サラに連れて行かれる格好で歩く。

だがどうにも後ろ髪を引かれるような思いだ。

天ケ瀬が気になって仕方ない。

あいつと俺は友達ですらない、単なるクラスメイトなだけってはず、なのに―――引き裂かれるようだ。

傍にいたい、天ヶ瀬、俺は―――


「ケン!」


もう一度呼ばれてハッとした。

いつの間にか席に着いたサラがまた俺をジトッと見上げている。


「貴方、私というものがありながらどういうつもり?」

「あ、いや」

「それより喜びなさい、放課後デートしてあげる」

「えっ」

「買い物よ、荷物持ちとして付き合いなさい、いいわね?」

「ああ」


そうか、転校してきたばかりってことは、色々と物入りなんだろう。

この辺のことも知っておきたいだろうしな。

放課後の制服デートか。

実はちょっと憧れていたんだ、買い物の付き合いとはいえデートはデート、期待が膨らむ。

これも彼女がいればこそだよな。


「買い物って、どこに行くんだ?」

「そうね、この辺でお店の多い場所は―――」


でも、サラと話しているのに、どうにも気が逸れる。

内容も殆ど頭に入ってこない。

それより天ケ瀬だ、気になる、あいつは今どうしてる?

さっきの俺を窺うような目が忘れられない。


あいつと俺との接点は殆どない。

一年の学年清掃の時に初めて口を利いて以来、たまに話したりする程度の付き合いだ。

二年に上がって同じクラスになった。

クラスメイトとして前より関わる機会は増えたが、それでも友達と呼べるほどの関係じゃない。


俺は―――男は好きにならない。

薫の気持ちだって受け止めてやれなかったんだ、いくら顔が好みでも天ケ瀬は男、あいつも俺にそういう意味での興味なんかないだろう。


なのにどうして気になる、天ヶ瀬 理央。

さっきからずっと頭痛がする。

ジクジクと疼くように痛み続けている、考えがまとまらない、頭がまともに働かない。


「ケン、いいこと? しっかり私をエスコートして、荷物も全部持ちなさい、自分の立場は分かっているわね?」

「ああ」

「そう、だったら結構」


マジで荷物持ちを期待されているな。

そんなに買うつもりなんだろうか。


「ねえケン」


ふとサラは机に肘をついて、手に頬を乗せながらニコッと笑う。


「私と恋人になれてよかったわね?」

「そうだな」


俺も笑い返す。

やっと想いが実ったんだ。

去年の文化祭、後夜祭で上がる花火を二人で眺めた。

本当に綺麗だったな。

あの時のサラ―――あれ?

いや、サラは昨日転校してきた、去年の文化祭にいるわけがない。

なんだこの記憶は?

ッツ! 頭痛が急にひどくッ! 痛いッ!


「ケン?」


い、痛い。

マジで何なんだッ、いよいよ熱でも出始めたのか?


「ごめん、サラ、俺、本当に具合が悪いかも」

「えぇッ」

「保健室に薬貰いに行ってくるよ」

「もう、早く行って! 感染(うつ)されでもしたら迷惑よ!」

「ああ、悪い」


そうだよな、具合の悪い奴が傍にいたら迷惑だよな。

俺も風邪やインフルエンザに罹っていたとして、サラに感染(うつ)したくない。


「ケン」


ふらつきながら行こうとすると、サラに呼び止められる。


「放課後までには体調を整えておきなさい、いいわね?」

「了解」

「結構よ、さっさと行って」


ふう、何はなくとも保健室だ。

ズキズキと痛む頭を押さえて教室を出る。

―――ふと、ため息が漏れた。

理解しているつもりなんだが、やっぱり気分的に寂しい。

サラはどことなく素っ気ないよな。

俺は世話を焼かれるより焼く方が好きなタイプだが、こういう時は心配されたい。

なんて、贅沢か。

体調不良は自業自得、甘ったれず自力でどうにかするべきだよな。


保健室に向かう途中で担任と出くわして、事情を話すと一時間目は休めと言われた。

そうしよう、俺も暫くベッドで休みたい。

どうも今朝から調子が悪いし、風邪はひき始めの養生が肝心だ。

健康優良児で通っているのになあ。

母さんに知られたら『鍛錬が足りない』なんてどやされそうだ、筋トレのメニューを見直そうか。


そういえば、前もこんなことがあったような気がする。

あの時は確か、母さんの秘書の加賀美(かがみ)さんに頼んで休ませてもらったんだよな。

でも何が原因だったかな、思い出せない。


「ッツぅ!」


痛いッ、頭が割れるッ!

本当に何なんだこの頭痛、さっきから妙なタイミングで襲ってくるッ!


頭痛が起こるたび、その時考えていたことが頭から消える。

思い出しかけた何かが消えてしまう。

おかしい。

俺は―――何かを忘れている?


「ッあ!」


違うッ! 痛いッ! わ、忘れてなんか、ない。

俺は憶えている、ちゃんと。

だけどッ、うぅッ! この頭痛がッ! 痛いッ!

助けてくれ!

誰か、だれ、かッ―――


「健太郎!」


傾いた体をスッと支えられる。

誰だ?

―――いい匂いがする、柔らかい。

フラフラしながら視線を向けると、色素の薄い目と目が合う。

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