愛に全てを 2
屋敷に辿り着き、開いたままになっていたドアから中へお邪魔する。
すぐ集まってきたメイドさんたちの一人に、理央は俺の家の鍵を渡した。
「この鍵を天馬に、大磯家へ行って冷蔵庫内にあるオペラを持ってくるよう伝えてくれ」
「あの、カップチョコもついでに、紙袋に入って台所に置いてあります」
「ではそれも」
「あとそのっ、俺の服と靴もついでに!」
「そちらは不要だ」
「えっ」
「天馬に急ぎでと伝えてくれ」
え?
俺がポカンとしている間に、メイドさんは理央に一礼して行ってしまう。
「あの、理央?」
「着替えの用意はこちらでする」
「はい?」
「採寸しよう、始めてくれ」
理央がパン、と手を打つと、他のメイドさんたちが手分けして俺の体を測り始めた!
うわ、うわわっ! マジか!
テキパキ測ってメモを取り、あっという間に終わらせると、全員揃って一礼してさっさと立ち去っていく。
「あのぉ」
「さて、次は入浴だな、君もいい加減さっぱりしたいだろう?」
それは、まあ。
あの砂って過去の被害者の風化した骨が混ざっているらしいし、何度も被って口にも入った、思い出すとゾワゾワする。
病原菌云々だけじゃなく、生理的に嫌過ぎる。
「ねえ、健太郎」
「なんだ?」
「よければ一緒にどうだい?」
「ほえッ!?」
ふ、風呂を一緒に!?
それは、願ってもない話だが、是非ご一緒したいところではあるがッ!
「僕なら構わないよ」
ぐわッ、マジかーッ!
はわわっ! はわわわわわっ!
ニコッと微笑みかけてくる理央の圧倒的破壊力! このまま食い付いていいの? いいのかっ!?
くッ! 落ち着け健太郎、冷静になれ。
彼氏としては是非ともあやかりたいところだが、俺達はまだ高校生、そういうエッチなのは少しばかり気が早い。
それに、誘われたからって下心剥き出しで『ゲヘヘ! それじゃ理央ちゃんの立派なおチチを存分に堪能させていただきましょうかねえ! ゲヘゲヘ!』なんてやってみろ、それこそゴミを見るような目を向けられるぞ。
俺は目先の欲に踊らされない、奮い立たせろジェントル・ソウル!
スケベ心に呑まれるな!
「いや~、理央、それはちょっと」
「おや?」
「一緒はやめておこう、別々に入ろう、俺は後でいいよ」
「浴室は幾つかある、その気遣いは無用だよ」
はあ。
金持ちの家は風呂が複数あるのか、凄いな。
「しかし、想定外だな」
「ん?」
「食い付くと思ったのに、残念だよ」
え?
―――ええッ!? さっきのお誘い、まさかの本気だった!
ぐうぅッ! だ、だとしてもだッ! 俺は紳士、愛する彼女に不埒な真似などしない!
ちくしょう!
そういえば前にもこんなことがあった気がする、俺はヘタレなのか?
だけどやっぱり嫌われたくないし、エッチなことは勿論したいが、そこは慎重に進めるべきだ、つまり俺の判断は間違っていない!
くそーッ! 俺のバカーッ!
内心メソメソしつつ理央と別れて、代わりにメイドさんの案内で風呂へやってきた。
ドアを開けると中はとんでもない広さだ。
これ、脱衣所だけでうちのリビングくらいありそう。
複数の洗面台に化粧台、籐製の背もたれがついたリラクシングチェアー、木製のベンチ、脱いだ服を入れるものらしき洒落たカゴまで用意されている。
おお、額に入った絵が飾られている、こっちには花瓶に活けた花! 金持ちって凄いなあ。
奥の擦りガラスが嵌ったスライドドアの向こうが浴室だな。
これは風呂の方も期待できそうだぞ!
ボロボロで汚い服と下着を申し訳ない気分で高そうなカゴにそっと入れ、いざ浴室へ。
おおーッ、こっちも広い!
それに天井がガラス張りで空が見える!
朝の陽ざしが燦々と差し込む広い洗い場に、十人は余裕で浸かれそうな大きさの風呂!
おい待て、これってジャグジー!?
凄いぞ金持ちの風呂! これは最早スパだ!
なるほど、理解した。
これなら理央も一緒に入ろうなんて言い出すわけだ。
二人でも余裕で寛げるもんな。
そして湯の中で上気した理央の薄桃色の肌に手を這わせ―――って! 妄想やめろ、色々元気になっちゃうから!
股間のきかん棒が早速アップを始めている、そら見たことか、俺はスケベだからな、こいつはダメだ。
やっぱり、断って正解だった。
ものすごーく惜しいが仕方ない、幼き頃より母さんから紳士たれとスパルタ教育を施されたこの俺だ。
不埒な親父のようにはなるまいと心に固く定めた、その決意を今こそ見せる時。
耐えられるぞ、まだ耐えられる。
それに俺達はいずれそういう関係になる予定だから、今からがっつく必要はないんだ、うん!
負け惜しみじゃないからな!
しかし、理央はどうやって普段あのスレンダーボディを偽装しているんだろう、いまだに謎なんだよな。
全体的に細身ではあるんだが、問題はあの胸、超高性能なさらしでも巻いてるのか?
女の子は秘密が一杯だ。
―――さっきの誘いに乗ってたら、それを知ることができたんだろうか。
「いててっ!」
シャワーが沁みる。
思った以上に傷だらけだ。
まあ、深手は負っていないし、この程度なら数日で治る。
鋤骨のヒビも勘違いだったようだ、今はもう痛みもない。
だけど傷を洗ったせいで出血してしまった、風呂から上がったら手当てしないと、下着や服に血が付く。
救急箱を頼まないとだな、あの脱衣所なら内線くらいありそうだが、探してみるか。
備え付けのボディソープ、シャンプーにコンディショナー、トリートメント。
どれもいい香りだ、泡立ちもよくて、確実にお高いやつ、母さんが使っている類のものだろう。
全身すっかり綺麗になって、さて、いよいよ湯に浸かるぞ!
はあ~っ!
生き返るぅ~っ!
疲れが溶けだしていくようだ。
温度も丁度いい、ああ、気持ちいい、ポカポカ温かくて最高だぁ。
しかし、本当に疲れた。
この四日間を思い返すと散々だった、でも最後はサラを見送って―――よかったよな、あれで。
理央とも無事に元通り。
それが一番嬉しい、思い出せてよかった、はあ、めでたしめでたし。
今回のことで俺は認められたはずだし、二度と横やりは入らないはずだ。
もしまた試練だのと言われたら次は絶対に抗議してやる。
それに、何度試したって無駄だ。
俺と理央は愛し合っている、この絆を割くことは神様にだってできやしない。
―――しかし、魔女、か。
正直に言うとまだピンとこない。
あれだけ色々と見て、俺自身もループって形でその力を体験しているのに、それが理央の力だったなんて。
俺の恋人は魔女。
でも俺は、普通の人間。
この先、俺達はずっと一緒にいられるんだろうか。
なーんてな! 弱気になるな、俺!
住む世界が違う? 価値観が違うかもしれない?
それがどうした、しっかりしろ!
両手で頬をパンと叩く!
そういう問題を全部クリアするために努力するって決めただろうが!
お湯に浸かったまま天井を見上げる。
朝の眩しい太陽。
見ていてくれ、俺は、頑張る。
だから傍にいてくれ理央、負けないし、めげないし、絶対に諦めないからな。




