審判とカノジョ 6/後
片手に杖を持ち、サラはツインテールの長い髪を掻き上げる。
赤いサラサラした綺麗な髪だ。
根元に結んだリボンも元通り、やっぱりサラはこのスタイルだよな。
「お礼なんかしないわよ、恩にも着せないでちょうだい」
「分かってる」
「フン」
反抗的な態度を見ても、理央ももう怒らない。
俺に向かって軽く肩を竦めただけだ。
―――理央にとっても、サラとのことは終わったんだな。
「それじゃ、私は行くわ」
「そうか」
「ええ、貴方達に付き合うなんてもううんざり、こんな場所にいつまでも居られないわ」
お別れなんだな。
少しだけ寂しくもあるが、きっとこれはサラの新しい門出だ。
「じゃあね」
「サラ!」
「なによ、気安く呼ばないでったら」
「元気でな」
磐梯まで「うむ!」と頷く。
―――理央からは何もない。
でもそれでいい。
理央には理央の想いがあって、俺はそれを大事にしたいから。
「フン!」
サラは掲げた杖で空中に大きく円を描く。
「貴方がたこそさようなら、精々お幸せに!」
その円の中に幾何学模様が現れ、光を放つと同時にサラの姿がスッと消える。
おお、魔法!
空間移動か? すごいな! 理央も同じことができるんだろうか。
―――魔女。
改めて、とんでもない世界と関わってしまった。
またいつかこんな風に、俺には想像もつかないような不可思議な事件に巻き込まれたりするんだろうか。
それでも、理央と一緒にいられるなら構わない。
俺は理央が好きだ。
この想いだけは絶対に変わらない。
だからどんなことでも乗り越えてみせる。
それに俺達二人が揃えば無敵だからな! 障害なんてなんのその、だ!
「終わったな」
呟くと同時に急に寒さを感じてブルッと震える。
そうだ、まだ二月。
しかも早朝、寒いに決まってる。
おまけにあの迷宮で服も靴もボロボロ、空は明るくていい天気だが、今の季節に日差しの温もりを期待しても意味がない。
でも、この空には太陽が輝いている。
そうだ、戻ってきたんだ!
よく晴れた青空、まさにバレンタイン日和だな!
「健太郎」
「ん? なんだ、理央」
「おお、義兄上ぇ~ッ!」
突然磐梯のアホが襲い掛かってきた!
な、なにをするだーッ!
「ふッ!」
「ぐべぁッ」
反射的に繰り出した拳が顔面に―――あ、しまった。
まだ母さんのナックルダスターを嵌めたままだ。
「うぼぉッ」
吹っ飛んだ磐梯が、おお、凄い量の血。
鼻の骨が折れたような手応えだったな、まあ、顔面陥没に至らかなかっただけマシか。
こいつは丈夫だから平気だろう。
それに急に襲い掛かってくる方が悪い、むしろ反省しろ。
「ぐはぁッ、うぅッ、あ、義兄上ぇッ」
「なっ、なんだよ」
「お、お見事な反射速度と威力ッ、かッ、感服ッ、致しました、ぞッ」
そしてガクッと動かなくなった姿を見下ろす。
死んだか?
隣で理央が溜息を吐く。
「あ! なあ、理央」
「断る」
「まだ何も言ってないだろ?」
「君たちはどうしていつもそうなんだ、呆れてものも言えない」
「今のはこいつが悪かった!」
「過剰防衛という言葉を知っているか?」
「違う、正当防衛だ!」
理央は腕組みしてツンとそっぽを向く。
どうやらさっきサラにやったみたいに、時間を巻き戻して直してはくれなさそうだ。
「あ、義兄上ぇ、ぐぶぅッ!」
「うわっ、まだ生きてたかッ、さっさと成仏しろッ!」
「ひ、ひどい」
掴まれた脚を振りほどくと、転がった磐梯は両手で顔を覆ってしくしくと泣き出す。
流石にちょっと罪悪感が―――いやいや!
こんな奴のことなんか知るもんか、精々そうしていろ。
ふと辺りを見渡す。
まるで何事もなかったように、何もかもが元通りだ。
そして今日は、二月十四日。
待ちに待ったバレンタインデー当日。
お前にやっとチョコを渡せるよ、理央。
一緒に作る約束は守れなかったが、どうか俺の想いを受け取ってくれ。
そして、俺達はようやく取り戻せたんだ。
いつもの日常と、どれだけの障害にも負けなかったお互いの強い想いを。




