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審判とカノジョ 1

LOOP:10

Round/Heart Break



―――ろ

―――――たろ


「健太郎!」


ハッと目を開く。

ここはどこだ?

あっ、天ヶ瀬邸の庭か!


「起きたか」


傍らで理央がホッと胸を撫で下ろす。

理央だ。

俺の、理央だ!


「理央ぉーッ!」


飛び起きて抱きつくと理央は「ま、待て、それより見ろ!」と俺の背中をパシパシ叩く。

なんだ?


「おおッ、義兄上ッ! それに理央!」


磐梯?

前に俺と戦った時に使っていた、魔法で生み出した剣を振るい、誰かと激しく切り結んでいる。

その相手は、サラ!?

得物はあの長い杖だ、なにやってるんだ!


改めて辺りを見渡す。

ここは天ヶ瀬邸の庭、穴に落とされる前と雰囲気が変わっていない、ってことはまだ朝なのか?

向こうでは黒服の警備員たちと燕尾服を着た初老の男が、磐梯とサラの戦いに固唾を飲んで見守っている。

あいつらまだいたのか。

それにしても、この状況はどういうことだ?


「お二方共ご無事で何より! こやつの卑劣な謀を覆し生還なさるとは、流石は我が敬愛する義兄上! そして理央!」

「ふッッッざけんじゃないわよおッ! どうしてッ! どうして戻って来られるのッ!? ありえないでしょ!」

「それはなぁ、知れたことよッ!」


磐梯の剣がサラの杖を跳ね返す!


「貴様のような小物とは格が違うのだ!」

「くッ」


飛び退ったサラは、体勢を立て直して再び杖を構える。


「だってあれは! 協会より貸し与えられた魔具よ! 罪人を閉じ込めて殺すガラスの迷宮! 抜け出せるわけがない!」

「フハハ! だが実際に戻って来られたではないか! 痴れ者がぁッ!」

「なによッ!」

「それにお二方が共に在る地点で敗北などありえん! それしき分からぬとは愚鈍なり!」

「うるさいうるさいッ! 私は認めない! 絶対に認めないんだからッ!」


磐梯に煽られてサラが叫ぶ。

だいぶ追い詰められている様子だな。


しかし、あの場所ってやっぱり落とした奴を殺すための場所だったのか。

改めてゾッとする。

つくづくとんでもない目に遭わせてくれたもんだ。

サラはどうして、俺達を落す前の言動といい、何をそこまで恨んでいるんだ。


「私だって!」


杖を振りかざしながらサラが叫ぶ。


「傷付いたのッ! それなのに貴方だけが! 貴方だけが幸せになるなんて! 許せないに決まってるじゃないッ!」


唖然とする俺の前に踏み出た理央が「健太郎、動くな」と言う。

―――なんだ、あれ?

サラの持つ杖、その先端の上に赤々と輝く球体が出現した。

最初はバスケットボール程度の大きさだったのに、凝縮されるようにサイズダウンしていって、最終的にはピンポン玉くらいまで小さくなった。


「バカな!」


急に磐梯が焦った様子で叫ぶ。


「一般人も居るこの場で、気でもふれたかッ!?」


どういう意味だ?

それよりあの光る球体、ヤバそうな気配をビンビン感じるんだが、サラは何をしようとしている?

磐梯が剣を放り出して身を庇うような体勢を取った。

その剣は地面に落ちると同時に光になって消える。


「呆れたな」


理央が呟いてパチンと指を鳴らす。

何だ?


「万難は我らを侵すこと能わず」


理央?


「万象は我が元に調伏されよ、東風吹かせ青天司る我は、青に連なりし此の地の守護者なり!」


―――不意に風が吹く。

サラが「死になさい!」と叫んで、杖の上の光球が炸裂した!!

ドオオオオオオオオオオンッッッ!! 響き渡る爆発音!

物凄い衝撃波と熱風ッ! くッ!

眩しい! 目を開けていられないッ!

ッう、ううッ!

なッ―――なん、だ?


火だ!?


恐ろしい勢いの炎が、俺達の前で燃え上がる!


「健太郎、僕の傍を離れるな!」


咄嗟に理央へ腕を伸ばすと一喝される!

なッ! ―――んだ、これ?

え?

炎が、止まっている?


まるで最新のSFXを目の当たりにしているようだ、炎が静止している。

熱も感じない、こんな事ってあるのか?

磐梯の野郎も炎に呑まれてない。

俺達からずっと後ろの方にいる黒服たちや燕尾服を着た初老の男、天ヶ瀬邸も当然無事だ。


嘘みたいな光景だ。

さっきの巨人との戦いといい、これは、こんなのは、もう―――


完全に、魔法じゃないか。


「愚かな女だ」


不意に理央が呟く。


「最早救われまい」

「然り!」


向こうで磐梯まで勢い良く頷く。

俺だけ困惑している。


「斯様な真似をして言い逃れできると思うな! 最早貴様は終わりだ、愚か者め!」


サラは炎の向こう側にいてよく見えない。

ふ、と小さく息を吐いた理央が、振り返って俺を見る。


「健太郎、これが『魔法』だよ」

「えっ」

「さして驚きもしないね、先ほど君は僕を『魔女』と呼んだだろう?」


とうとう知られてしまった、と苦笑する理央に、胸が震える。


「そう、この僕こそが、幾度も君に苦難の道を歩ませた―――魔女だよ」


理央が魔女。

―――何度も何度も俺を救ってくれた、魔女。


「すまなかったね」


なんで謝る?

それに、どうしてそんなに悲しそうなんだ。


「ねえ、君」


理央は俺から視線を逸らす。


「僕が恐ろしいかい?」


途端にカッとなって口から言葉が飛び出した!


「そんなわけあるか!」


驚く理央に近付いてまっすぐ目を見つめる。

なんでそんな風に思う、俺はいつだってお前が真剣に好きなのに!


「好きだ、理央! 魔女だろうが何だろうが好きだ! 俺は天ヶ瀬 理央を愛してる!」


大きく瞠った理央の目からポロっと涙が零れて落ちた。

なんで泣くんだよ。

もしかして不安だったのか? バカだな、それに今更怖いもへったくれもあるか。

俺が何度死んだと思ってる、本来なら最初に薫に殺された地点で終わっていたのに、お前が何度もやり直させてくれたんだろう?


「けん、たろ」

「泣くなよ、感謝することはあっても、お前を怖いなんて思ったりしない、当たり前だろ」

「うん」


―――魔女は実在した。

前に理央が言っていたことは、冗談めかした真実だった。

考えてみれば分かりそうなものだ、俺と理央だけが把握しているループ、いつも傍にいたのは誰だ?

最初に公園で理央が俺を見つけて声を掛けてきた時、やたら親身になってくれたのは何故だ、そもそもどうしてあの場所にいると知っていた。

その後だって、お前は巻き込まれた立場なのに常に俺を気に掛けて、どうにかループを終わらせようと協力してくれた。

あれは因果関係が逆だったのか。

俺が死なないよう、ループさせずに済むよう、手助けしてくれていたのか。


「でも、お前は俺でいいのか?」

「えっ」


少し気後れしてしまう。

魔女なんて神秘的で特別な存在の理央に、俺は相応しいのか?


「お前のことは分かった、だけど俺は平凡だし、魔法だって使えない、体力には自信あるけど」


あとちょっとだけパルクールができて古武術が使えて、歌が得意で、顔もそれなりだと思うけど。

身長も180越えたけど。

でも家は資産家じゃないし、親父は年中所在不明だし、不本意とはいえ浮気したし、うぅ、卑屈になってくる。


「お前にとっては不足だろ、それでも、俺でいいのか? 俺を選んでくれるのか?」


理央は濡れた瞳でじっと俺を見詰める。

そして指で涙を拭い、フフッと笑う。


「それこそ、当たり前だ、僕は君がいい」

「理央」

「君こそいいのか? 魔女の愛は重い、受け入れたら逃れられないよ」

「望むところだ!」

「フフ、威勢が良くて大変結構、では、覚悟のほどを見せてもらおう」

「ああいいぜ、こっちだって何があっても離してやらないからな!」


俺の可愛い理央、俺の魔女。

色々とんでもない目に遭ったが、その全部を差し引いたって俺はお前がいい。

理央は美人で眩しくて、まるで星みたいだ。

こんなに魅力的な女の子が俺を選んでくれた、もしかすると一生分の運を使いきったかもな。

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