打開とカノジョ 4
「このッ、クソデカレディいいいいいッッッ!」
叫びつつ走る!
俺は確かに何でもデカい方が好みだが、限度ってものがある!
「どっちにしてもッ、お前じゃ勃たねえんだよおおおおおおおッッッ!」
ジャンプ!
振り下ろされた拳に乗ろうとしたが、着地と同時に足が沈む!
うおッ、こ、このままだと砂に呑まれッ!
「ぬぁッ!?」
おっ、動きが止まった。
今なら抜け出せるッ、ふッ、この、くそったれぇッ!
「ッく! そッ!」
足を引き抜き飛び降りた直後に巨人はまた動き出す。
今、まるで奴だけ時間が止まったようだった。
ともかく体を登って顔まで行くってのは無理だと分かったな。
だったら!
「おい! こっちだレディ! お前の攻撃、さっきから一発も当たってねえぞ!」
煽りつつ巨人の足元をジグザグに駆け回る!
「ほらほらどうした! 踏み潰してみろよ! ほら! どうした!」
巨人は唸って俺を踏み潰そうと躍起になり始めた。
狙い通りだ、もっと速度を上げるぞ!
「遅過ぎだデカブツ! その図体でまともに戦えないのかよ、この出来損ない!」
俺に気を取られ過ぎて徐々にバランスが危うくなってきた。
これならもうすぐ―――
「情けねぇなあ! ただデカいだけなら元の砂に戻りやがれ! 今の姿に意味があるのか!」
巨人が軸にしている方の足が不意に爆発する!
全身がグラッと傾き、ゆっくり倒れッ、うおおおお! たーおーれーるーぞッ!!
「理央ーッ! 逃げろーッ!」
叫んで俺も走る!
あまり遠くに逃げたら、戻ってくるまでに足が修復して元の木阿弥だ。
同じ手が二度通用するかも分からない、チャンスはこの一度きりだと考えるべきだろう。
「うわああぁぁぁあああッ!」
ズウゥン、と巨人が倒れて砂の津波が起こる!
うわッ! 頭から砂がッ! うぅッ、くそ、砂まみれだ、今更だが。
服も靴もボロボロだし、ちくしょう! 急げ!
この機会を絶対無駄にするな!
不意に頭に理央のことがよぎる。
無事だろうか、怪我していないだろうか、待ってろ、すぐに片をつけるからな。
近くでボンッと爆発音が響く!
赤い光がキラッと輝いた、あそこだッ!
砂から抜け出し、助走をつけて、飛ぶッ!
今日、俺は、理央と付き合い始めて初めてのバレンタインを二人で過ごすんだ。
頑張って作ったオペラも、理央が俺のために両手を怪我してまで作ってくれたチョコも、二人で食べる。
こんな所で、こんな不条理に、ずっと楽しみにしていたイベントを邪魔されてたまるかぁッ!!
「うおおおおおおおおおッ!」
空中で拳を構えて彗星のように落ちていく。
目指すは赤い石。
母さんに似た顔の、額の辺りで不思議な輝きを放っている。
あの核をブッ壊す!
俺のッ! 俺達の愛をッ! 思い知れええええええッ!!
「くらえッッッ!!」
インパクトの瞬間、確かな手ごたえと同時にバキンッと砕ける音が響く!
巨人が吼える!
だがまだ足りない、まだ割れていない! だったらぁッ!!
「ぬおおおおおおおおおッッッ!」
殴る! 殴る! 殴る!
まだ割れない、どうなってるんだちくしょうッ、硬すぎだろ!
殴る! 殴る!
―――少しずつ足が沈み始めた。
砂に体が呑まれていくッ、それにこの物凄い絶叫、鼓膜が破れそうだ!
「ふざッ、けるッ、なぁッ!」
バキン! ガキン! と殴り続けるうちに少しずつヒビが深くなっていく。
あと少し、あと少しだ!
膝の辺りまで埋もれてしまった、もう逃げだせない、この石をブッ壊すか、俺が砂に吞まれるかだ!
核まで少しずつ砂に覆われだした。
この野郎ッ、いい加減にしろ!
不意に爆発音がして、頭上からザッと砂が降ってくる。
何が起きたか分からないが確認する余裕もない、殴れ、殴れ、殴れ!
また爆発音がして砂を被る!
「うおおおおおおおおおおッ!」
俺はここから出る。
理央と一緒に。
絶対、絶対に諦めない!
「壊れろぉッ!」
腹に溜めた渾身の力の全てを拳に乗せて叩き込む!
喰らえッ!
「これで終わりだあああああッッッ!」
一瞬、ナックルダスターがキラッと光った気がした。
殴った直後に石全体へピキピキとヒビが入り、そして―――ガッシャアアアァァンッッッ!! と盛大な音を立てて砕け散る!
や、やった! 砕いた!
「うぐッ!」
同時にものすごい音量の咆哮が響き渡るッ!
咄嗟に耳を塞ぐと、体が一気に砂に沈み始めた!
「な、なぁッ!?」
う、埋もれるッ、ヤバい!
核が壊れた巨人が砂に戻り始めたのか、このままだと生き埋めになる!
「ヤバいヤバいヤバい!」
夢中で砂を掻く!
お、おたすけぇッ! せっかく勝てたのに死にたくない!
―――って、あれ?
急に体が浮いた。
砂の上を泳げるぞ、平泳ぎの要領で手足を動かすだけでスイスイと進んでいく。
そのまま押し流されるように巨人だった塊から移動する。
頃合いを見て立ち上がると、立てた。
ふう、やれやれ。
全身の砂を叩き落して振り返る。
もう巨人はいない、赤い石の破片すら見当たらない。
ここへ落ちてから眺め続けた何もない風景に戻っている。
だけど俺は散々だ、服も靴もボロボロで、頭を振ると砂が落ちる。
脱いだ靴を逆さにするとザーッと砂が出た、最悪。
無事なのは母さんから借りたナックルダスターだけか。
以前拝借した黄龍の手甲に続いて、また母さんの武具に命を救われたな。
今度帰ってきたら酒のつまみをたくさん作ってマッサージもしよう、母さん、有難う。
「理央ーッ!」
どこに行った、戻ってこい。
また面倒なことになる前に、さっさとここから出るぞ。
お前と一緒じゃないと帰れない。
まさか怪我なんてしてないよな? 動けなくなっていたりしないよな?
不安だ、どこだ、理央。
不意に手を柔らかく握られる。
「理央!」
間があって、背中に字が書き込まれた。
理央の指先の感触だ。
『だいじょうぶ』
「怪我してないか?」
『ない』
「そうか、よかった」
ホッとして手を握り返す。
なんだか温かい。
ああ、お前がいるって分かるよ、理央。
『でも きみは きずだらけ』
「こんなのたいしたことないさ」
俺は怪我しても治りが早いからな。
この程度なら鋤骨のヒビも含めて二週間ってところだ。
「あのさ」
少しためらい、思い切って言う。
「助けてくれて有難う」
手をギュッと握り返される。
やっぱり、お前も一緒に戦ってくれたんだな。
「行こう、理央、ここから出よう」
『うん』
「帰ってチョコ食うぞ、腹ペコだしいい加減疲れた」
『そうだね』
繋いだ手を軽く揺らされて、くんっと引っ張られる。
促されて歩き出す。
二人で、もう間近にある光の出口へ。
「なあ、理央」
今はまだ姿は見えない、声も聞こえない。
それでも、前を歩く理央の姿を思い描いて話しかける。
「また俺を救ってくれたんだな」
胸が苦しいくらいいっぱいだ。
俺にとってお前は本当に運命だった、何度も何度も殺されて、その度に差し伸ばされた手は―――この手だったんだな。
「ずっと有難う」
やっと会えた。
お前のおかげで俺はここに居る。
救ってくれて有難う。
好きになってくれて有難う。
「これまでのことも、改めて言わせてくれ」
手を、そっと握り返される。
つい笑ってしまった、嬉しくて泣きそうだ。
「理央」
早く姿が見たい。
声を聞きたい。
たくさん話して、何度でも伝えたい。
「好きだよ、俺の魔女」
もう目の前に出口がある。
不意に手が離れて、胸に何かが飛び込んできた。
両腕でしっかり受け止める。
「帰ろう」
視界が眩しくなり始めると、腕の中に、俺を見上げる姿が浮かび上がってきた。
理央。
理央だ、俺の理央。
「健太郎ッ」
なんだよ、泣いてるのか?
でも笑ってるな、俺の視界もうっすら濁る。
可愛い笑顔だ、ふふ、やっと見れた。
理央。
―――愛してる。




