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打開とカノジョ 3

「り、理央!」


慌てて繋いでいる手からあたりをつけて理央の腕を掴むと、そのまま引っ張って抱え込む!

体を屈めて様子を窺うと、あちこちからガシャン! ガシャン! とガラスの割れる音が幾つも聞こえだした。

地震のせいで迷宮が崩れているのか?

何が起きている、揺れが酷くて動くのもままならない!


不意に近くの砂が隆起した。

どんどん膨らみながら大きくなって、何かの形を取っていく。

あれは、人?

数十メートルはありそうな、女の人だ。

立派な胸のふくらみ、しなやかな体つき。

全体的にどことなく見覚えがある。

怖い。

最後に浮かび上がった顔を目にした瞬間、全身に鳥肌が立った。

―――母さん。

と、とんでもないデカさの、砂で出来た母さん!?


「わっ、うわぁあああぁぁぁあッ!」


咄嗟に叫んでいた!

怖い!

ただでさえ怖い母さんが、あんなにデカいなんて!

なんでだよ! ここはドラゴンとか鬼とか、そういうのが現れるんじゃないのか!?

まあ母さんはドラゴンで鬼でそいつらよりずっと強くて怖いけど!!


腕の中で見えない理央が俺をギュウギュウ押している。

ああ、おしまいだ、理央。

あんな母さん相手に勝てるわけがない。


逃げよう。


はっと見ると出口の光は俺達のすぐ近く、走って辿りつけそうな距離だ。

砂でできた巨大な母さんはまだ動き出す気配がない。

このまま理央を抱えて―――って、あれ、理央?

いつの間にかいなくなってる!

ど、どこに行った!


「理央ッ!」


俺が呼ぶと同時に母さんが吼える!

大気がビリビリ震えて、またガシャン、ガシャンとガラスの割れる音がした。

ッツ! 洒落にならないぞこれ!

理央はどこだ、くそっ、見えないんじゃ探せない!

応えてくれ理央、理央!


もしかすると、理央には何か考えがあって俺の傍を離れたのかもしれない。

そうだ、この状況で目的もなく動き回るような奴じゃない、理央はいつでも俺よりずっと賢くて冷静だ。

―――信じよう。

だったら俺は俺で行動しよう。

理央のために、あいつを出口の光から少しでも遠ざけるか!


「理央! 俺が母さッ、巨人を引き付ける! だからお前は出口に向かえ!」


傍で待機してくれ、何なら先に逃げたって構わない。

だが、やれるだろうか。

砂の母さんはちょっとしたビルくらいの高さがある、改めて見上げると怖すぎてちびりそう。

踏まれでもしたら確実に死ぬぞ?


でもやるしかない!

もう出来る出来ないの問題じゃないぞ、覚悟を決めろ、健太郎!


「うおおおおおおおおおおおッ!」


巨人めがけて足元の砂を蹴立て、走る!

やってやるッ、俺は理央とこの迷宮を脱出するんだ!

それを阻むなら、たとえデカい母さんであっても絶対に負けん!


「覚悟ぉッ!」


頭上から隕石みたいにデカい拳が落ちてくる!

ぬおおおおおおッ!? あ、あれ、当たったら死ぬぞ!

ギリギリで避ける!

怖い! 死ぬ!

地面に拳がめり込むと同時に大量の砂が巻き上がる!

ぐあッ、目ッ、目がッ!

うううッ、口にも入った、ペッペッ! うあッ、ジャリジャリする!


理央は無事だろうか。

不安でイラつく、頼むから自衛してくれ、どうか巻き込まれずにいてくれ!


巨人の足元を走り回りつつ様子を窺う。

こいつ、デカいだけあって動きは鈍いな、それに二足歩行の縛りというか、バランスが悪い。

動作のために身構える必要があって、それが連続した動きを阻害している。

もし四つん這いで走り回るスタイルの母さんだったら瞬殺されてたかもな。

想像するだけで怖い、玉がキュッと縮む、よかった、母さんがデカくなっただけで本当によかった。


「理央ぉッ! 俺に構うんじゃないぞ! お前は自分のことだけ考えろ!」


守ってやれず歯がゆい。

さっさと脱出したいんだが、誘導がどうにも上手くいかない。

出口の光は巨人の足元だ。

理央はどこにいる。

試しに巨人の足をぶん殴ってみたが、砂を掻いただけだった。

その抉れた部分もすぐ砂で修復されて元に戻る。


「―――え?」


あれ、俺、なんだか光ってないか?

急に全身がキラキラと、なんだこれ、もしやパワーアップした?

不意に視界に影が落ちてはっと見上げると、母さんの拳が間近に迫っている!

うおおおッ! って、あれッ? 俺、足早くないか!?

なんかすごく早くッ! ぬおおおッ!?

ジャンプが高い!

バカみたいに速く走れるし高く飛べる! ど、どうなってる!?

マジでパワーアップしたのか! 凄ぇッ!


母さんのビッグな胸が突然爆発した!

ああッ、母さん!

ってあれは母さんじゃなく砂の巨人だ、でも突然なんだ、何が起きた?


爆発はまだ続く。

ボンッ、ボンッと、立て続けに数か所。

その都度空いた穴が砂で埋まっていく、ダメージは一切入ってなさそうだ。


俺は巨人の足元を走り、気を引きながら攻撃を避けまくる!

これだけ異常な状態なのに体に負荷が殆どないとか、マジでどうなってるんだ。

ゲームのキャラにでもなったような気分がする!


今度は巨人の額が爆発した! 母さぁーんッ!

―――あれ?

なにか赤いものがある、石?

キラキラ光って綺麗だが、この距離からでも分かるくらいデカい。


いや待て、こういうのに覚えがある。


砂でできた巨人、意味深な赤い石。

っは! ゴーレム!

そうだゴーレムだ、ファンタジー系のゲームでおなじみなあいつ! 魔法で作られた番人のロボット!

と、いうことは、つまり。

―――あの石、核か?


あり得ない考えだが、この状況が既にあり得ない。

だからきっと合ってる、あれはゴーレムで、あの赤い石が核に違いない。

それなら核を壊せばゴーレムは止まる。

だがせっかく露出した赤い石は見る間に砂の奥へ埋もれていく。

しかしまたすぐ爆発が起きて石が現れた。

同じ状況が何度も繰り返される。

まるで俺に場所を教えているように、ここを壊せと告げる誰かの意思を感じる。


それは誰なのか。

迷宮に落とされたのは俺と理央だけだ、多分、他の奴の介入は恐らくないだろう。

それなら自ずと答えは知れる。

―――以前、魔法を使って俺と対決した磐梯は、理央のいとこだ。

裁定者として俺達の元を訪れたサラ、俺を試した『協会』とやら、それらの事情を知っているらしい理央の様子。

理央は『青天の次期盟主』『天ヶ瀬の魔女』なんて呼ばれもしていた。


いや、今は余計なことを考えるな。

それより協力してあの石を砕く! 巨人を何とかしない限り脱出は難しそうだからな。

母さんそっくりな姿を攻撃するのは気が引けるが、あれは単に似せているだけの砂の塊だ。

それに、本物の母さんの方がずっと美人だ。

なにせ過去に九十九人からの求婚を断ったそうだ、本当かどうか知らないが、あり得そうだと頷けるだけの説得力がある容姿だと息子の俺でも思う。


改めて腹が立ってきた。

よくも俺の母さんの姿を真似たな? その身の程、これから思い知らせてやる!

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