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迷宮とカノジョ 4

『きみ は ばかだ』


背中に書き込まれた。

そうだな、確かにその通りだ。


『つらかった』

「うん」

『でも しんじて いた』


そっと背中を撫でられる。

気遣って慰めてくれたのか、やっぱり優しいな。


『きみは ぼくを えらんで くれた』

「俺がお前に選ばれたんだ」

『かって なのは ぼくだ きみに つたえていない ことが ある』


え?

でもそれは言えないことだろう、無理に知りたいとは思わない。

理央のタイミングで、教えられることなら、いつか話してくれたらいい。


『ぼく こそ つみぶかい』


理央?


『きみを ほしいと ねがって しまった だからきみは くるしんだ』

「それってどういう」

『ここを でたら はなす』


何かあるのか?

よく分からないが、理央が言うならそれで構わない。


「分かった」


それじゃ、尚更早くここから出ないとな。

大切な話はお互いに目を見てしたい、そうしないと本当のことは何も伝わらない。


「行こう、理央」


背中をするっと撫でられる。

胸に何か押し付けられて、また文字が書き込まれた。


『きらいに ならないで』


―――それは絶対にあり得ない。


「俺こそ嫌わないでくれ、理央に嫌われたら死んじまう」


間があって、背中をポンポンと叩かれた。

俺の胸に押し付けたまま擦りつけてくるこれは、もしかして顔だろうか?


『だいすき』


背中に書かれた文字を噛みしめる。

よし、もう十分だ。

ギュッと抱きしめて目を瞑った。

俺の恋人は天ヶ瀬 理央。

世界でたった一人の、特別で、可愛くて、大切な女の子だ。


腕の中の質感が消えて、また手を取られる。

軽く引っ張られて歩き出した。

相変わらず俺の靴がサクサクと砂を踏む音だけ聞こえるが、さっきまでより気分は大分マシだ。

有難う、理央。

それにしても、この迷宮は一体どれだけの規模なんだろう。


「そういえばさ」


ふと思い出して話しかける。


「ループする前に屋上で貰ったチョコ、もう作ってあるんだよな?」


理央は手を怪我していた。

さっきもチラッと確認したが、絆創膏と包帯まみれだった。


「怪我、大丈夫か?」


繋いでいる手をギュッと握り返される。


「そうか」


中身を結局まだ見ていない、改めて楽しみだ。

理央が俺のために一生懸命作ってくれたチョコ。

その想いを早く味わいたい。


「俺が作ったオペラも家の冷蔵庫にあるよ、帰ったら一緒に食べよう」


手を強く握り返される。

理央も楽しみにしてくれているのか、そうだといいな。


「あ、でも、カップチョコも山ほどあるんだ、俺達バレンタイン中に帰れるのか? あの量は流石に二人じゃ食いきれないぞ」


バレンタイン後にチョコを配っても意味がない。

というか、今更気が付いたが、前回貰ったチョコを今回は受け取れないってことか。

若干申し訳ない、特に朝稲。

でもまあ、限定二十個だったらしいあのチョコは一人で存分に味わってくれ。


「なあ理央、カップチョコも一緒に食べてくれよ、無理はしなくていいから」


コチョコチョと手をくすぐられる。

ふふ。


「そうだ、天ヶ瀬邸の皆さんに配るってのもアリだな、たくさんあるし、特に天馬さんにはいつもお世話になっているから」


理央の専属運転手、俺達が付き合い始めてからは俺のことも何かと気に掛けてくれる。

天馬さんとも試練のせいで四日ほどご無沙汰だし、是非食べて欲しいよな。


「どうだ?」


理央は手を握り返してこない。

ダメってことか?


「えーっと、本当にたくさんあるんだ、二人じゃ食べきれない」


反応がない。

うーん。


「配るのはダメか?」


軽く握り返してくる。


「もしかして、誰かにあげるのがダメ?」


今度はさっきより強くギュッと握ってくる。

―――なるほど、そういうことか。


「つまり、ヤキモチ?」


いてて! 手! 手の甲を抓られた!

おお、理央。


「そうかそうか、仕方ないなあ」


って痛い! う、腕を絞るな絞るな! 痛いから!

からかってゴメン!


「痛いッ、ごめんって!」


ふう、やめてくれた。

しかし今、どんな顔をしているか非常に気になる。

見られないのが心底惜しい、くそ。


「でも理央、お前だって今年も山ほどチョコ貰ったんじゃないか?」


また手を引っ張られて歩き出す。

去年は凄かった、今年は校庭にチョコ集積用の二tトラックは停まっていなかったが、やっぱりそれくらい貰ったんじゃないのか?


「きっと男からのも混ざってるだろ、それなのに俺が配るのはダメなのかよ、友チョコだぞ?」


痛い痛い、そんなに強く握るな。

これはもしや抗議か?


「いや、俺も貰ったけどさ」


って指を逆向きに曲げようとしないでくれ!


「あ、あれも友チョコだよ! ずっと友チョコしかもらったことないよ、でも理央のは本命も混ざってるだろ!」


い~た~い~ッ!

どうしてさっきから痛めつけてくるんだ、これ結構本気で怒ってないか?


「サラだって贈答用の羊羹だったし、しかもバレンタインの前日だぞ? 完全に無関係じゃないか!」


つい口を滑らせて、そして虚しくなった。

理央の本命チョコも結局食べられなかったし、うう。

俺のオペラも理央のチョコも、今日中に食えなかったら恨んで呪うぞチクショウ。


「まあでも、お前がいながら他の子のチョコを受け取ったのは悪かった、ごめんなさい」


この話題はもう終わりにしよう。

切り上げようとすると、手の甲を軽く引っかかれる。

なんだ、まだ意義アリってことか?


「なんだよ」


反応はない。

拗ねているんだろうか。


「なあ、理央」


手を軽くキュッと握り返してくる。


「りーおちゃん」


さっきより少し強く握り返された。

うーん?

まあ、いいか。


「ところでさ」


改めて話しかける。


「疲れてないか?」


繋いだ手を握り返してくる理央に「そうか」と頷く。

不便だけどもっと話したい。

理央。

お前が傍にいるって、何度でも確かめさせてくれ。


「好きだよ、理央」


手を軽く揺らされた。

なんだか少しくすぐったくてちょっと笑う。


ここを出たらもっと話そう、たくさんキスもしよう。

理央の目が見たい、髪に触れたい、声を聞きたい。


ああ、理央。

―――こんなに傍にいるのに、お前に会いたくてたまらないよ。

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