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落下とカノジョ 1

LOOP:7

Round/Wrath



ハッと目を開いた。

既にお馴染みの展開だ、上掛けを跳ね除けベッドから降りる。


理央。

―――会いに行かないと、今すぐ!


連絡すればいい、通話でもメッセージでも無事を確認できる。

そうじゃない。

会いたい。

やっと思い出せたんだ、俺は理央を取り戻した。

それなのに死んだ。

サラに殺された。

理由は分からない、ただ一つ言えるのは、サラは俺か理央、もしくは俺達両方を憎んでいる。


だから、理央に会わないと。

あいつがあの後どうなったか、無事だったか知りたい、直接会って確かめたい。

一秒だって待てない。

部屋を飛び出して、洗面所を目指し階段を駆け下りる!


どうしてサラが俺を殺したかは分からない。

記憶が戻ったから?

だが、それじゃ話が違うだろう。

あれは試練だった、俺が理央に相応しいかどうか確かめるための。

そしてサラは、その試練を課した『協会』とかいう組織の、いわばエージェントだと名乗った。


―――あの日、二人で過ごしていた俺と理央の前に現れたサラは、俺に告げた。

理央のパートナーとして相応しいか試すと。

話はそれだけ。

だから俺はその理由や、『協会』とやらが何なのかまだ知らない。


謎の力で封じ込められた俺の理央への想い。

それを七日の間に思い出せば試練はクリア。

理央に相応しいと認められる。


けれど、期限内に思い出せなければ、そのまま記憶を消去されて、理央との関係も完全に終わる。


俺は次の日には思い出せる自信があった。

あの時、狼狽えてペナルティを課せられそうな理央を見ていられなかったのもあるが、俺達を試すなんて傲慢さにも腹が立ったんだ。

人の心を何だと思っていやがる。

個人の想いは誰かや何かに許可が要るものじゃないだろ。

確かに理央は天下の天ヶ瀬財閥令嬢、いずれは家を継ぐことが決まっている跡取りだ。

そんなとんでもない女の子とずっと一緒にいるためには、俺は必死に努力して、努力して、男を磨かなくちゃならない。

覚悟はしている、どんな試練も受けて立ってやると思っている。

でも、それとこれとは別だ。

俺が理央を好きでいること、理央が俺を好きでいることに、一体何の許可がいる。


あの時、サラは俺に「随分と誑かされたものね」と言った。

それは違う。

俺は俺の意志で理央と一緒にいることを選んだ、その代償を払うことを選んだ。

そして理央も、こんな俺を選んでくれた。

だから俺達の関係は平等だ、互いに想い合う健全なものだ。

理央は、最終的には俺を信じて、一緒に試練に立ち向かうことを決心してくれた。

そして俺は思い出した。

この結果が全てだ。


だが、俺は―――

洗面所で顔を洗い、鏡に映る自分を見て落胆する。

四日。

理央を思い出すのに四日もかかってしまった。

心底お笑い草だ、期限内とはいえ遅過ぎる。

それに、その四日の間、理央以外の女の子を彼女と思い込んで付き合っていたなんて、いっそ死にたい。


サラはどうして俺を殺したんだろう。

試練は乗り越えてみせた、俺は理央への想いを取り戻した、それなのに。

「許さない」って言ってたよな。

俺だけ幸せになるなんて許さないって、あれはどういう意味だ?

あの子は試練の監視役で、結末を見届けて裁定を下すだけが目的じゃなかったのか。

恨まれているとしたらそれは―――何が理由だ。


とにかくまたループできた。

いつもどこかで俺を見守ってくれている魔女に改めて感謝だ、有難う。

早速仕切り直しといこう。


髭を剃って髪を整える、無駄かもしれないが。

そして部屋に戻り、動きやすくて丈夫な服に着替えた。

登校している場合じゃない。

家の鍵と小物をポケットに入れ、携帯端末は置いていく。

邪魔になるからな。

理央に、会いに行くんだ。

今はそれしか考えられない、すぐ会いに行く!


キッチンへ行って燃料を胃袋に詰め込み、玄関へ向かう。

靴も動きやすくて丈夫なのを選んで履いた。

家を出て玄関の鍵を閉めると、空を仰ぐ。

―――行くぞ。

待ってろよ、理央!


弾みをつけて壁を蹴り、屋根に登る。

そこから天ヶ瀬邸までの最短ルートを確認する。

理央はまだ家にいるだろう。

あいつのことだ、俺の無事を確認するためにまずは電話を寄越す。

繋がらなければ直接家に来るだろうが、そこは女の子、身支度に時間が掛かるはず。

となると、家を出るまで恐らく二十分程度。


いけるな。

早速行動開始だ! 助走をつけてジャンプ!

隣家の屋根に飛び移る。


昔、俺は母さんによって半ば強制的に修業をさせられた。

母さんも学んだ師匠達、忍術と古武術、目的は技術の会得ってより精神鍛錬だったらしい。

どっちも俺のためだと言われた、死ぬほどキツかったし実際何度か死に掛けた。

でも今、そのことを猛烈に感謝している。

こうして理央に会いに行けるからな!

あと、ホント言うと一番怖かったのは他ならぬ母さんのしごきだったが、おかげで度胸も付いた。

何度も死んで精神的にますますタフになったし、これまでの経験が活かされているって感じる。


屋根から屋根へ飛び移り、塀の上を走り、知らない家の庭をこっそり走り抜け、天ヶ瀬邸への最短ルートを驀進する。

マンションの壁をよじ登り、電柱から電柱へ飛び移り、ビルの窓枠を伝ったりもした。

極力目立たないよう心掛けているが、まあ無理だ。

途中で何度か居合わせた人を驚かせてしまった、まことに申し訳ない。

映像や画像を撮られたような気もするが、どうにもならないだろう。

そんなことに構っている暇はない。

行くんだ、早く―――理央のところへ!


「見えたッ」


向かう先にようやく目的地が見え始める。

天ヶ瀬邸。

相変わらずとんでもない規模の豪邸だ。

セキュリティも一級品だろう、この先は慎重に行動しないと。

まあ、市街地に建っているからレーザーや重火器の類は備えていないと思いたいが、どうか対応できる範疇であってくれ。

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