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涙とカノジョ 4

「貴方ね、何を考えているの!?」

「サラ」

「私というものがありながら、目の前で不貞を働くなんて信じられない! 恥ずかしいと思わないの!」

「そうじゃない、俺は」

「言い訳しないで! その貰い物も紙袋も全部捨てなさい! 今すぐ!」


俺のために皆が用意してくれたチョコレートとプレゼント。

それから、俺が昨日頑張って作った配る用のカップチョコ。

―――捨てろだなんて、あんまりだ。


「断る」

「なんですって?」


唖然とするサラに繰り返す。


「君の頼みでも聞けない」

「な、なっ!」

「これはただのチョコやプレゼントじゃない、今日が何の日で、これにどういう想いが籠っているか、分からないのか?」

「ふざけないで!」


サラは叫ぶと、俺を睨みつけてから去っていく。

後を追うか迷って―――結局見送った。

一人で教室に戻る。


「おい、ケン」


五月女が心配した様子で声を掛けてくる。


「大丈夫か?」

「まあ」

「さっきすごい剣幕だったな、全部聞こえたぞ」

「そうか、騒がしくしてゴメン」


「別にいいんじゃない?」と向こうで清野が言う。


「ヒス女にはいい薬でしょ? ざまあみろってね」

「ちょっと、リン!」


顔を顰める虹川に、清野は悪びれずペロッと舌を出す。

今更少し後ろめたいが、すぐ追いかけなかった地点で後の祭りだ。

もう取り繕いようもない。


「まあ、なんだ、俺は嬉しかったよ、お前の手作りでもさ」


五月女が気遣ってくれる。


「ありがとな」

「おう」

「ところでさ、このチョコの上に乗ってるのってなんだ?」

「クルミ」

「へえ、美味そうなのがまた癪だな」


実際美味いぞ、有難く食え。

他のクラスメイト達も俺が配ったチョコを概ね喜んでくれているようだ。

でも、天ヶ瀬にはまだ渡せていない。

サラは受け取ってくれなかった。

複雑な心境のまま、予鈴が鳴って担任が来て、席に着く。

サラ、戻って来ないな。

そして朝のHRが始まる―――


残りのチョコは放課後に配ろう。

もう後には退けない、覚悟はできた。

気を取り直して授業を受けて、今日はなんと言うか、普通の日だ。

頭痛も殆ど起こらないし、むしろ調子がいい。

―――思えば、妙なことになり始めたのはサラが現れてからのような気がする。

関連があるとは考えたくないが、どうしてだろう。


午前の授業が終わって、昼休みになった。

まだ戻らないサラをあちこち探して回ったが、結局見つけられなかった。

送信したメッセージに既読さえつかない。

そのうち予鈴が鳴って、仕方なく教室に戻る。

サラは戻らない。

―――もしかして、早退したんだろうか。

保健室や職員室に確認しに行こうかとモヤモヤしているうちに午後の授業も終わり、遂に放課後になってしまった。


結局、朝から一度も教室に戻って来なかった。

メッセージにもまだ既読がつかない。

やっぱり早退したのかな。

大分怒らせたし、これはもう修復は不可能かもしれない。

だが、やむなしだ。

腹を括って、切り替えていくぞ!


さて。

まずはこのカップチョコを配りきってしまおう。

今日中に渡さないと昨日の努力が水の泡になる。

バレンタインに贈ることに意味があるからな、他の日に贈ったらただのプレゼントだ。


職員室へ向かう途中、タイミングよく朝稲と杉本を見つけた。

よーし!


「おおい、二人共~ッ!」


呼びつつ駆け寄り、驚いている二人にそれぞれチョコを渡す。


「えっ、これ何? チョコ?」

「オーララ! もしかして健太郎の手作り?」

「ああ、今朝渡せなかったからさ、ハッピーバレンタイン!」

「ちょっと! まさかこれでお返し終わりなんて言わないでしょうね?」

「当たり前だろ!」


朝稲は「あっそう」と納得した様子で髪を弄る。

颯爽と去る俺の背後から「メルシーボークー!」と杉本が礼を言ってくれた。

続けて「よく分かんないけどアリガト!」と朝稲にも喜んでもらえたようだ。


そのまま向かった保健室のドアを開ける。


「失礼しまぁす!」


おお、今回は養護教諭がいた!

「あらまあ」なんて目を丸くする姿へ、紙袋から取り出した包みを渡す。


「先生、どうぞ」

「あらあら、バレンタインね? 有難う、大磯君、今日は血色がいいわね」

「はい!」

「昨日、病院には行った?」

「い、行ってません」

「仕方のない子ねえ、もしかして昨日帰ってからこれを作ったの?」

「そうです、すみません」

「まったくもう、困った子だわ」


溜息を吐くが、養護教諭は俺を叱らずニッコリ笑ってくれる。


「いいわ、先生チョコ好きだし、大磯君が元気になったなら何も言いません、だけど無理はダメよ?」

「はい!」

「それから、どっちにしても病院には行きなさい、ちゃんと検査してもらうこと、いいわね?」

「は、はい」

「大きな病気が隠れている可能性だってあるのよ、先生と約束できる?」

「できます」

「よろしい」


俺を本当に心配してくれているんだな。

やっぱり、病院には行こう。

約束したんだから守らないと、恩を仇で返す様なものだ。


「いつも有難うございます!」

「はいはい、お大事にね」


頭を深く下げて礼をしてから、保健室を出てホッと胸を撫で下ろす。

よし、次は職員室。

普段は生徒からの贈答品を受け取ってくれない先生方も、バレンタインは別だからな。


職員室に向かう道すがら、見かけた友達にも片っ端からチョコを配っていく。

そして辿り着いた職員室。

ゲリラ作戦第二弾だ、机の上に勝手にチョコを置いていくぞ。

仕事中の先生方から何か言われそうになるたび「返礼不要です!」と断って、強引に全員の机に投下しきった。

ついでに校長と教頭にも渡すことができた。

だが理事長は―――いなかったな。

実業家は学園運営にばかり構っていられないんだろうが、天ヶ瀬の親父さんだ、会ってみたかった思いはある。

どんな人だろう、息子があれだけ美人だから、きっと相当なイケメンだろな。


最後に残した一個、これは、天ヶ瀬の分。

今朝は結局渡せなかったからな、家にはオペラも用意してある。

両方受け取ってもらえるだろうか、今更だが少し不安だ。

今朝の態度を見る限り大丈夫だと思うが。

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