空虚とカノジョ 3/前
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―――ん、んん?
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あれ?
目が覚めて、ベッドからモゾモゾと起き上がる。
寝ていたのか?
妙にリアルな、それこそ実際にあったような夢を見た気がするんだが、あれは夢だったのか?
なんとなく唇に触れてみる。
キス、されたよな?
誰か傍にいて、謝られて泣かれたんだ。
そんな必要ないのに、でもそれは俺が悪い。
どうしてそう思うのか分からないけれど、俺が原因で悲しませた。
「はぁ」
溜息を吐いて辺りを見渡す。
ベッド脇に置かれた簡易椅子の上に、俺のリュックがある。
手を伸ばして引き寄せ、中から取り出した携帯端末で時刻を確認すると、二時間目の授業が始まっている頃だ。
結構寝てたんだな、また授業をサボったのか。
頭痛は殆ど収まっている。
まだぼんやりするのは寝起きだからだろう、取り敢えず体調は戻った、横になって休んでいる必要はもうない。
ベッドを降りて上履を履く。
目隠しのカーテンを引くと、机に向って何かしていた養護教諭が振り返った。
「大磯君」
「あ、先生、すみません、また勝手に」
「それはいいから、今日はもう帰りなさい」
「え?」
な、なんでだ?
授業を受けられる程度には復活したのに。
「貴方、ここのところ毎日体調を崩して休んでいるでしょう」
「えっと」
「ダメよ、一度病院でしっかり診てもらいなさい、何かの病気かもしれないから」
そんなことはないと思うが、養護教諭は有無を言わせず俺を諭す。
「取り敢えず総合内科でいいから、親御さんにもちゃんと言って、必ず診てもらいなさい、いいわね?」
「あの」
「担任の先生にも伝えてあるわ、だからこのまま帰りなさい」
「でも」
「お家の方を呼ぶ? 一人で帰るのが辛いようなら、誰か迎えに」
「い、いえ!」
ダメだ、取り付く島もない。
ここは素直に従う以外なさそうだ。
「あの、自分で呼びます、帰って病院行ってきます」
「よろしい、体力があるからって無理をしてはダメよ、取り返しのつかないことになってからじゃ遅いの、分かるわね?」
「はい」
「それじゃ、気を付けて」
「有難うございます」
養護教諭に「お大事に」と見送られ、リュックを担いで保健室を出る。
授業中の校内は静かだ。
大人しく昇降口へ向かって、上履からスニーカーに履き替える。
このまま、言われた通りまっすぐ家に帰るか?
病院はいい、養護教諭には悪いが適当に誤魔化しておこう。
最初は俺も病気を疑ったが、どうもそうじゃなさそうだからな。
この頭痛も体調不良も何かの警鐘だ。
理由は不明だが確信がある、俺は何かを忘れていて、それを思い出さないからこんな目に遭っている。
一体なんだ? 何を忘れている?
考えようとすると頭が痛くなる、痛みのせいでなにもできなくなる。
―――妙だな。
この痛みは警鐘じゃなく、もしかして妨害なのか?
まあ、いい。
それより今は帰る方が先だ。
ああ、そうだ。
明日はバレンタイン、チョコを作ろうと思っていたんだ。
このままだと消化不良になりそうだからな、年に一度のイベント、楽しまないと勿体ない。
サラから貰った羊羹の詰め合わせだけじゃ虚し過ぎる。
一緒に手作りはできなかったが、俺は一人でも手作りするぞ。
そして皆に配って歩く、どさくさで天ヶ瀬にも渡すつもりだ、こうなったらやけくそバレンタインだ。
よし、材料を買って帰ろう。
久々に気力が漲ってきた、この数日、俺らしからぬ有様だったから、そろそろ意趣返しといこうじゃないか!
買い物をするなら駅の方が店も商品も充実しているが、昼間にあの辺りをうろついていると補導されかねない。
その点、商店街の方はまだ見回りが緩い。
顔見知りの店も幾つかあるから、いざとなったら匿ってもらえるだろう。
学園から真っ直ぐ歩いて商店街に辿り着く。
さて、と。
―――そういえば、前に薫からバレンタインの時期にだけ製菓材料を扱ってる店があるって聞いたな。
とんでもなく品揃えがいいらしい。
店の名前は―――ええと、確かこの辺りだったは、ず。
え?
店名が書かれた看板と店を三度見する。
ここ、酒屋なんだが?
「ヘイ、オニイサン!」
恐る恐る店内へ踏み込んだ直後に声を掛けられる。
ビクッとなって振り返ると、店の奥から昔ばあちゃんに聞いたヒッピーだかハッピーだかの格好をした謎の人物が現れた。
「見たところコウコウセーって感じだが、学校はどうした? ついでにウチは酒屋だぜ? パードゥン?」
ここの店員か?
なんで室内なのにサングラスをかけているんだ、目は見えているようだし、お洒落か?




