表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/83

空虚とカノジョ 2

「いやだわ、誰もいないじゃない」


サラが腕組みして憤慨する。

仕方ない、無断だがベッドを借りよう。

上掛けの中に潜り込んだところで、HRの開始を告げるチャイムが鳴った。


「サラ、付き合わせて悪い」

「そうね、いい迷惑だわ」

「ごめん」


あとは俺一人でいい。

君は教室に帰ってくれと、サラに言おうとした。


「ねえ、ケン」


先にサラが話しかけてくる。


「貴方もそろそろ、愛想が尽き始めているんじゃないかしら」

「え?」

「何故なの?」


質問の意図が分からない。

俺はサラを見上げているが、サラは視線を逸らしたまま、どこか後ろめたそうにしている。


「貴方はいつも謝ってばかり」

「それは」

「どうして怒らないの?」

「えっ」

「怒る機能が備わっていない、なんてことはないわよね? 理由が分からないわ」


怒る?

そんなタイミングあったか?

不満ならそれなりに感じているが、腹を立てたことは一度もない。


「理由がないから」

「嘘よ、貴方にも自尊心くらいあるでしょう? それとも相手の顔色を窺って自分を誤魔化すタイプなの? だったら軽蔑するわ」

「そうじゃない、本当に思い当たらないんだ、何か怒るようなことってあったか?」

「呆れた! よりにもよって私に理由を尋ねるなんて、とんだお人好しよ、信じられない」

「ええと、ごめん」

「ほらまた! そうやって謝る!」


よく、分からないが。

サラは何かを気にしているのか?


「なあ、サラ」

「なによ」

「俺はサラが好きだよ」


驚いたようにサラが見つめ返してくる。

事実だ―――少なくとも嫌ってはいない。

可愛いと思うし、性格は多少きつめだけど、いつも一生懸命気を張って何かに抗っている。

それが何なのか分からないし、俺の勘違いかもしれない。

でも、サラは悪い子じゃない。

そう信じたいと思っている。


「君は気が強いみたいだから、慣れない環境で、まだ上手くやれないだけだ」

「なによ、それ」

「でも大丈夫、俺がいる、怒ったりなんてしないさ、だってサラは俺に好きだって言ってくれただろ」


俺は、俺を好きでいてくれる人を大切にしたい。

だからちょっとやそっとじゃ見限ったり、まして嫌いになったりしない。


「だから心配いらないよ」

「貴方、バカでしょ」

「そうかな?」


まあいいさ、バカでも。

好きな子を守れるなら、何だっていい。


「本当にバカよ、巻き込まれただけのお人好し、何も知らないくせに」


そう言ってサラは俺が寝ているベッドから離れると、目隠しのカーテンに手を伸ばしてサッと引く。


「体調が戻るまで休んでいなさい、私はもう行くわ」


カーテンの向こうから聞こえた。

遠ざかっていく足音に「有難う」と声を掛ける。


「―――どういたしまして」


ドアを開けて、閉める音。

目を瞑って息を吐く。

このまま少し眠ろう。

休めば幾らか体調も気分もマシになるはずだ。


けど、悠長にしてはいられない。


このところずっと妙な焦燥感が胸にある。

それは日ごとに強くなっているように感じる。

思い出せ、思い出せ、早く。

―――何を?

俺は何を忘れている?

どうして急かされているような気がする、期限があるのか?


そうだ、期限だ。

間に合わなければ全てを失う。


「ッツ!」


また頭痛。

こいつのせいで考え続けられない、何かを思い出しかけても掻き消されてしまう。

何なんだ、一体。

俺に何が起きている、この頭痛も、焦燥感も、何かを忘れている感覚も、全部訳が分からない。


ふと、天ヶ瀬の姿が脳裏に浮かぶ。


どうしてこんなに気になるんだろう。

あいつのこと、俺はどう思っているんだろう。

好きなのか?

前に付き合っていたって聞いた、あれは本当なのか。

分からない。

でも傍にいると不思議と居心地が良くて安心する、おかしいよな、どうしてそう感じるんだ。

―――今もまだ、未練があるんだろうか。

俺は、好きなのか。


天ヶ瀬 理央を、俺は―――好き?


「ぐぅッ!」


ドクリと鼓動が爆ぜて、脳が揺さぶられる。

痛い。


「あがッ、あッ!」


痛い。

痛い、痛い、痛い―――痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!

痛いッッッ!!

ぐううううううううううううッ!

わ、れるッ!

あッ、あたッ、あたま、がッ、くそッ!

もうやめろ、頼むからやめてくれ、許してくれッ!

気がッ、狂いそうだッ!

誰か助けて、助けてくれッ―――


忘れている。

―――忘れているんだ。

これは警鐘だ、早くしろと知らせているんだ、早く、早く、早く思い出せと、何度も何度も。

あと四日しかない。

時間が無い。

このまま、見失ったままでいたら―――全部無くす。

二度とあいつを取り戻せなくなってしまう!


嫌だッ、ちくしょう!

俺は、おれ、は―――


・・


・・・

また、夢だ。


・・・・・・

・・・・・・・・・・・


綺麗だ。

俺の髪に手が触れる。

傍に誰かいる。

誰だろう? よく見えない。


ああ、でも。

優しい手だな。

撫でられて気持ちいい、頭痛も少しマシになるみたいだ。


手に触れて、呼ぶ。

名前を。

誰かは少し驚いたような顔をして、俺の手をそっと握り返してくれる。

柔らかくてほんの少し冷たい。

だけどやっぱり優しい手だ。

―――唇に何か触れた。

柔らかくて、甘い。

吐息が肌を掠めて、色素の薄い瞳と見詰め合う。


「だい、じょう、ぶ」


喉からかすれた声を出す。

そんな顔するなよ、俺なら平気だから。


「うん」


でも、悲しませてごめん。

それは俺が悪い、早く思い出さないから、本当にすまない。


「君を信じている」


また唇に何か触れる。

気持ちいい、胸に温かなものが込み上げてくる。


「だが、苦しませてすまない」

「おまえのせいじゃ、ないだろ」

「いや、僕のせいだ」

「ちがう、それに、やくそくした、から」


目を瞑る。

大丈夫。

辛いことなんて何もないさ、お前のためなら乗り越えてみせる。


「ごめん、健太郎、本当にごめん、こちら側に巻き込んでしまった、全ては僕のエゴだ」


泣くなよ。

―――お前に泣かれると、どうしたらいいか分からなくなるんだ。

ごめん。

でも、必ず取り戻すから、あと少しだけ待っていて欲しい。


俺は絶対に約束を破らない。

どうか信じてくれ。

お願いだ―――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ