表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/82

苛立ちとカノジョ 3/後

「よーっす、健太郎!」


不意に背中を思いきり叩かれた!

いってえッ! このっ、清野は本当に手加減ってものを知らないな!?


「健太郎君おはよう、大丈夫?」

「アハハ」

「もう、リンったら」


虹川も一緒か、清野に叩かれた辺りを手でさすってくれる。

今朝も優しい。

だが俺を暴行した清野はヘヘッと笑って舌をペロッと出した、こいつ。


「ボヤボヤ歩いてるからだよ~だ、でも流石に朝はあのウルサイのはいないな、よしよし!」

「ウルサイの?」

「自称彼女のあの嫌味女!」


サラは自称じゃなく俺の彼女のはずだが。

多分。


「健太郎さぁ、マジであいつだけはやめた方がいいって、もう別れなよ」

「リンってば」

「だって! あいつと付き合うくらいなら天ケ瀬の方がよっぽどマシだよ、男だし、チャンスありそうだし」

「こらリン!」


二人のやり取りを聞きつつ、俺は本当に天ヶ瀬と付き合っていたのか訊こうと思う。

途端に何故か頭痛が起こる。

くそ、毎度毎度、邪魔ばかりしやがって。


「でもさ、そう言うミキだってちょっとは思ってたくせに」

「わ、私は」

「健太郎っていつも想定外過ぎるよ、天ヶ瀬の次がアレ? 正直意味不明、ワケ分かんない」

「人のことに口出しするの、よくないよ」

「私のことでもあるから口出してんの! どっちにしろ趣味悪過ぎ! ほらミキも言ってやりなよ、やめとけって!」

「それは健太郎君が決めることだから」


俯く虹川と、対照的に清野は「とにかくあの女はナシ!」と声高に叫ぶ。


「健太郎、悪いこと言わないからさ、元鞘に収まった方がいいよ? それか、別の子にするとか」

「リン!」

「だってミキ、見なよ、ほら、このヨレヨレのくたびれ具合、しかもちょっと臭うし、いつもしゃらくさい健太郎がこの有様だよ?」

「しゃらくさいって」

「見てらんないって、ぜーんぶあの女が絡んできてからだろ?」


そうか、やっぱり臭うか。

しかししゃらくさいって何だ、そんな目で俺を見ていたのか。

はぁ、居たたまれない。

俺まで彼女を悪く言ったりしないが、それでもここ数日は確かにおかしいと感じている。

その起点を辿ると、どうしてもサラに辿り着いてしまう。

だからって彼女に責任転嫁しても意味がない、結局は俺自身の問題だ。

しっかりしろ。

―――思い出せ。


「あっ、そういえば、明日はバレンタインだね!」


虹川が急に違う話題を振ってきた。

この空気に耐えられなくなったんだろう、同感だな。


「そうだな」


乗って返すと、虹川はホッと息を吐く。

そしてニコッと笑った。


「ねえ、あの、私、今年も健太郎君に作ろうかな?」

「え、マジ?」

「えっ、いいの?」


驚く虹川に俺も驚く。

ああ、そうか、彼女がいるから遠慮するつもりだったのか?


「嬉しいよ」

「―――うん!」


明るく答える虹川に、俺も嬉しくなる。

去年貰った手作りチョコ、凄く美味かったんだよな。

薫や愛原に負けずとも劣らない腕前で堪能させてもらった。


「じゃあ私も!」


清野が腕を上げる。


「と言っても手作りはパス、ガラじゃないからね、代わりにおススメを用意するよ」

「ああ、サンキュ」


おススメって何だろうな、もしかするとチョコじゃないかもしれない。

それでも思いが籠っていれば、何だって有り難く受け取らせてもらおう。


「実は俺もさ、手作りして皆に配ろうと思ってるんだ」


話のついでに便乗する。

虹川も清野も、俺のチョコも友チョコだ。

それなら八つ裂きにはされないだろう、浮気じゃないからな。


「は?」

「えっ」


思いがけない二人の反応に、俺も「え?」と返す。

なんでちょっとしらけてるんだ?


「健太郎が作るの?」

「あ、ああ」

「手作りして配るって、どうして?」

「サラからは昨日貰ったから」

「はぁーっ!? 昨日って、普通の日だろ!」


清野の剣幕に通りすがりの奴らがギョッとして振り返る。

それはまあ、確かにそうなんだが。


「なんでさ!」

「いや、手作りは不衛生だとかで」

「そうじゃなくて! なんで! 昨日寄越したのかって訊いてんだよ!」

「買い物したから、その、ついでというか」

「ついで!」


また大声で叫んで、清野は大袈裟に額に手をやる。

虹川が「リン、やめなよ」と宥めにかかる。


「あーあ! ほらね、最悪!」

「リン」

「健太郎、あいつやっぱりやめた方がいいよ! 何なら私にしときなよ、ね?」

「ちょ、ちょっとリン!」

「あーもうムカつく、イライラしたから走る! じゃ、お先!」

「リン!?」


唐突に走り出した清野と、俺とを交互に見て、虹川も「ごめんね?」と謝ると清野を追って駆け出した。

取り残された俺はポツンと立ち尽くす。

なんだったんだ。

でも―――多分、俺の代わりに腹を立ててくれたんだろう。

俺も憤慨するべきだった、昨日の地点でサラに不満を伝えておけばよかった。

だけど今更だ。

それに、その気力が湧かない。

彼女なのに、付き合っているのに、こんな状態で恋人なんて呼べるんだろうか。


明日は二月十四日。

こんなに楽しみの無いバレンタインは初めてだ、薫もいない、欲しい子からも貰えない。

欲しい子―――俺は誰のチョコが欲しいんだろう。


頭の奥がズキリと痛む。

もう痛いのは嫌だ、そろそろ許してくれ。

だけど、この痛みから逃げるわけにはいかない。

―――忘れているんだ。

それを取り戻さない限り、この憂鬱な気分も、痛みも、きっとなくならない。


早く取り戻せ。

早く、早く、早く―――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ