苛立ちとカノジョ 3/前
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―――ああ。
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これ、また夢だ。
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二人で過ごした大切な記憶。
俺のために挑戦してくれたおにぎり、美味かったな。
和え物を作ってくれた時は、得意そうな顔が可愛かった。
クリスマスプレゼント、最高だった。
俺のために咲いた深紅の薔薇。
指輪を渡した時、泣かれて焦ったけれど、喜んでくれて嬉しかった。
正月、初詣。
晴れ着姿はお姫様みたいだった。
外は寒くて、ずっと手を繋いでいたっけ。
だけどまさか自家用機で連れて行かれるとは思わなかったよな、あいつにはいつも驚かされる。
誕生日も二人で祝った。
俺の家に呼んで、ケーキと料理を用意して。
わざわざ自宅のパーティーを断ってくれたなんて聞かされたら、盛大に祝わなくちゃだろ?
二人きりで過ごせて嬉しかった。
贈った花は部屋に飾ってくれたらしい、ちょっと照れ臭かったが、喜んでくれて何よりだ。
そういえば、前に贈ったハンカチも使ってくれているよな。
もっともっとたくさんプレゼントして、あいつの喜ぶ顔がもっと見たい。
贈り物は、物じゃない、そこに込められた想いこそを贈るんだ。
俺はそのつもりで選んで贈っている。
だから―――想いが籠っていなければ、それはただの物だ。
物なんていらない。
俺は心が欲しい。
だから抗う。
取り戻す。
絶対に。
俺にとってかけがえのない、大切で、失ったら生きていけないかもしれない存在。
その、たった一人のために選んだ。
約束をした。
なのに俺は、まだ思い出せない。
あいつを悲しませている。
期限が過ぎたら終わりだ、全てを失う、そんなのは絶対に嫌だ!
もう少しだけ待っていてくれ。
証を見せろと言うのなら見せてやる。
想いを測ると言うのなら思い知らせてやる。
俺の本気を、覚悟を、どれだけ強く深くあいつを想っているか、何もかもに知らしめてやる。
本当にごめんな?
悲しませたくないのに、泣かせたくないのに、至らなくてごめん。
必ず証明してみせるから、だから、あと少しだけ。
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理央。
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どうか、泣かないでくれ。
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目を開けたまま呆然とする。
不意に何かがこめかみを伝い落ちた。
―――涙?
「あれ?」
目を擦って、むっくり体を起こす。
自宅の、俺のベッドの上だ。
いつの間にか帰って、いつの間に寝たんだ。
それにまた着替えず寝てしまった、替えの制服も皺だらけで目も当てられない。
一昨日しわにした制服も結局そのままなんだよな。
はあ、多少はマシな方を着ていくとするか。
―――登校しなければ。
休むわけにはいかない。
あいつに会うんだ、それだけは絶対に欠かすわけに行かない。
しかし、また夢を見たような気がする。
そのせいかやたら体が怠い。
胸にもぽっかり穴が空いているようだ、大切な何かが抜け落ちているような、そんな気がしてならない。
ふと壁に掛かったカレンダーを見た。
今日は二月十三日。
バレンタインの前日だ。
部屋を出て、階下へ降りて洗面所に行き顔を洗う。
そういえば風呂にすら入っていない。
飯を食った覚えもないし、だからといって腹は減っていない。
でも少しふらつくから、無理やりでも食わないとな。
このうえ体力まで落ちたら目も当てられないぞ。
冷蔵庫から取り出した常備菜や冷凍食品、冷凍した米やらを雑に用意して適当に食い散らかす。
相変わらず味がしないから、箸も全然進まない。
明日のバレンタイン、一緒にチョコを作りたかったな。
きっと楽しかったに違いない。
本当に残念―――そうだ、俺だけでも作って渡そうか?
でもサラのことだ、この期に及んでしつこいなんて逆に怒らせるかもしれない。
ふむ、だったらいっそ山ほど作ってばら撒くか。
それなら受け取ってくれるかもしれない。
あと―――どさくさに紛れて天ヶ瀬にも渡せる、よな?
天ヶ瀬のことを考えると、不思議と気持ちが落ち着く。
やっぱり俺達付き合ってたんだろうか。
真偽はいまだ不明のままだ。
嘘なら訳が分からないし、本当だったとして俺にその記憶はない、改めて謎だ。
でも本人に直接尋ねる勇気はどうしても湧かない。
『違う』って言われた時のダメージを想定してビビってるんだろう。
確かに怖すぎるよな、あと多分立ち直れない気がする。
俺は天ヶ瀬が好きなのかな。
男なのに?
サラがいるのに?
天ヶ瀬は、俺をどう思っているんだろう。
俺は男を恋愛的な意味で好きにならない。
だから薫の想いを受け取ってやれなかった。
なのに天ケ瀬は別なんて調子のいい話だろう。
いや、違う。
天ヶ瀬は、あいつは―――
食いかけの飯を片っ端から無理やり腹に詰め込んで、使った食器を洗って片付ける。
玄関に放りっぱなしになっていたリュックを背負って家を出た。
雑な身支度に皺だらけの制服、今日の俺は最悪にイケてない。
風呂にも入ってないから、多分臭うだろう。
はぁ、女の子に嫌われそうだな。
だけどあいつはどうだろう?
前に『浮気者は八つ裂きにすると決めている』なんて言ってたから、むしろ他の子が寄ってこない状態の方がいいんだろうか?
―――そんなわけないか。
あいつには、天ヶ瀬には嫌がられないといいんだが。
ぼんやり歩きながら眺める通学路を、俺と同じように通学中の女子たちはどこかソワソワして見える。
耳を澄ませば聞こえてくるのはバレンタインの話題だ。
今日の放課後買いに行くとか、手作りするだとか、微笑ましくて羨ましい。
俺のバレンタインは昨日終わっちまったからな。
貰ったあの包み、今朝中を見たらチョコレートですらなかった、羊羹の詰め合わせだった。
サラは帰国子女だからよく分からず買って間違えたんだろう。
だが、そんな気すら遣ってもらえなかったことに心底ガッカリした。
薫に鈍感のお墨付きを貰っている俺でも分かる、あれは義理ですらない、単なる付き合いの贈答品だ。
ああ、虚しい。
やっぱり勝手に手作りしてばら撒くか、そうでもしないとやってられない。
こうなったらやけっぱちバレンタインだ、俺にだってイベントを楽しむ権利くらいあるはず、いや、楽しませてもらう!




