第8話 不穏な戦利品
洞窟のさらに奥へと進むと、そこは略奪された木箱や麻袋が乱雑に積み上げられた倉庫のようになっていた。埃っぽい空気の中に、かすかに嗅ぎ慣れた匂いが漂っている。
「……おい、サイラス。この麻袋、全部岩塩だ。奥には香辛料もあるぞ」
テオが物資を叩き、眼鏡の奥の目を輝かせた。
「マジか。でも馬車がないから持って帰れないな……もったいない」
俺が肩を落とすと、ゼインも残念そうに頷いた。
すると、テオが部屋の隅にある黒塗りの木机に目を留め、引き出しを開けた。チャリリと重みのある音がして、小さな革袋を取り出す。
「中身は金貨だ。五十枚近くはあるな」
「おお! それなら持って帰れるぞ」
「いや、丸ごと消えれば後で衛兵に怪しまれる。数え間違いで済む程度に、少しだけいただいておこう」
俺はテオから受け取った数枚の金貨を、胸のポケットの奥深くへとしまい込んだ。
これだけあれば、明日ミアたちを人足として雇う日当や、数日分の食費としてはお釣りがくる。
そんな中、テオが引き出しの奥に残されていた、革の筒に目を留めた。
「なんだ、それは?」
俺が首を傾げると、テオが慎重に筒から中身を取り出した。
現れたのは、丸められた一枚の羊皮紙だった。
テオがそれを広げると、そこには細かな文字が記されていた。
「……何かの指示書のようだな」
テオが声を潜め、書かれた文章を読み上げた。
『ゼオニカ周辺の街道と村から略奪しろ。報酬は例の場所に用意する』
つまりこれは、ただの野盗の仕業ではなく、誰かが裏でこの盗賊たちを雇って意図的にゼオニカ周辺を荒らさせていたという、決定的な証拠だった。
不穏な内容に息を呑む中、テオがふと手元の羊皮紙を注視し、試しに『鑑定』を発動させた。
その瞬間、テオの表情がサッと引き締まる。
「……サイラス、この羊皮紙自体、とんでもなく価値が高い。ただの羊や山羊じゃない、おそらく北方に生息する希少な雪鹿の皮で作られた品だ」
「雪鹿の皮? それって、そんなに凄いものなのか?」
「ああ。雪鹿は極寒の北国にしか生息していないから、この国じゃ手に入らない輸入品なんだ。紙一枚で金貨一枚は下らない。こんな高級品をただの命令書として使い捨てるなんて、指示を出した黒幕は――」
「大貴族か、それとも帝都の大商人あたりだな」
ゼインが険しい表情で腕を組む。
俺は心臓が冷たくなるのを感じた。
大貴族、あるいは大商人。そんな雲の上の存在が、なぜこんな盗賊団に指示を出しているんだ?
「……なぁ、差出人の名前は? 誰が書いたか分かるか?」
俺がすがるような思いで尋ねると、テオは羊皮紙の右下の部分を指差した。
「いや、書かれていない。署名や封蝋があったと思われる右下の部分が、ナイフのようなもので綺麗に切り取られている。誰が指示したかまでは、これでは特定できないな」
「足がつかないよう、あらかじめ証拠を隠滅したってわけか。周到なやつだ」
ゼインが忌々しげに吐き捨てる。
俺は面倒な予感に、思わず顔をしかめた。
「……こんな面倒なもの、俺たちが持っていても得はなさそうだな」
俺がため息をついて丸投げする意思を示すと、テオも同意するように頷いた。
「ああ。下手に隠し持っていると逆に怪しまれる。……さっさと街に戻って、衛兵にすべて押し付けてしまおう」
テオが冷ややかに判断を下した。
「この人数を俺たちだけで連行するのは無理だ。ゼイン、お前が一番足が速い。街の衛兵の詰め所まで走って、状況を報告してきてくれ。俺とテオはここで盗賊の見張りをする」
「わかった。すぐに衛兵を連れて戻る。お前ら、もし盗賊の麻痺が解けそうになったら、躊躇わずにこれで殴れよ」
ゼインは転がっていた棍棒を俺たちに手渡すと、風のような速さで洞窟を飛び出していった。
静まり返る洞窟の奥。
俺とテオは、完全に指一本動かせず、眼球だけをギョロギョロと動かしてこちらを睨みつけてくる盗賊たちと、息の詰まるような沈黙の中で取り残された。
(頼むから早く戻ってきてくれ、ゼイン……! 奴らの恨みがましい視線が痛すぎて、気まずくて仕方ないんだ……!)
俺は必死に彼らから目を逸らしながら、祈るように暗い洞窟の入り口を見つめ続けるのだった。
金貨1枚はだいたい銀貨10枚程度の価値で考えています。




