第7話 最悪の食べ合わせ
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「……おいおい、どう見ても略奪品の山だぞ。見つかれば、俺たちだってただじゃ済まないかもしれないぞ……」
俺が冷や汗を拭う横で、ゼインが音もなく剣の柄に手をかけた。
「どうする、サイラス。数は十五……いや、奥もう何人かいるな。もし相手に厄介な『加護持ち』が混ざっていれば、俺一人じゃ分が悪いぞ」
「当たり前だ! 戦うわけないだろ、さっさとズラかるぞ!」
俺は即座に踵を返そうとした。俺は不要な争いで怪我はしたくないのだ。
だが、俺たちがそっとその場を離れようとした、まさにその時だった。
洞窟の中から、聞き覚えのある陽気な声が響いてきた。
「いやぁ、食った食った! あの行商人の兄ちゃんには感謝しねえとなぁ!」
「あの酒、えぐみは凄かったが、水で薄めりゃ普通に飲める味だったな。アミタ茸ってのもいいツマミになったし、悪くなかったぜ!」
ピタッと、俺の足が止まった。
そっと岩陰から再び中を窺うと、広場の中央で焚き火を囲む盗賊たちの傍らに、見慣れた『小さな木樽』とアミタ茸の包み紙が転がっていた。
遠目から見ても、すでに中身が空っぽなのは明らかだった。
「うそだろ、もう空っぽじゃないか……」
俺の口から、魂の抜けたような声が漏れた。
もし奴らが一斉に腹でも下そうものなら逆恨みされるかもしれない。
(まずい……盗賊に目を付けられてしまう……!)
俺がこれから待ち受けるであろうトラブルに絶望しかけていた、その瞬間――異変は唐突に始まった。
「……ん? なんだ……急に、体が……」
大笑いして腹を叩いていた男の一人が、突然ろれつが回らなくなり、バタンと丸太のように地面に突っ伏した。
「おい、どうした? 酔いが回ったか……って、あれ? 立てねえ……ぐぁっ!?」
倒れた男に駆け寄ろうとした別の男も、足をもつれさせて崩れ落ちる。
それはまるで、ドミノ倒しのようだった。焚き火を囲んでいた男たちが、次々と意味の分からない呻き声を漏らしながら、バタバタと床に転がり始めたのだ。
「あ……が……っ」
「……ぅ……」
「……は?」
俺はあまりの出来事に言葉を失った。
えっ? なにこれ。食中毒で腹を下す程度の話じゃなかったの?
俺の隣で、岩の隙間から様子を見ていたテオが『鑑定』の力を発動させ、震える声で呟いた。
「……なんてこった。全員『強烈な麻痺状態』だ。ゼオ芋を酒にしたことで、アミタ茸との食べ合わせがさらに悪化したのかもしれないな」
テオが戦慄したように息を吐き出すと、ゼインも底知れぬ恐ろしさを見るような目で俺を見た。
「……つまり、またお前の【幸運の加護】が暴走して、偶然売りつけた物が手配中の盗賊団を自滅させたってことか。相変わらず、とんでもない『幸運』だな」
テオがやれやれと眼鏡を押し上げると、ゼインも呆れたように同意した。
「手を下さずに盗賊団を壊滅させちまうなんて、お前の加護は本当に恐ろしいぜ」
呆れ返る二人の言葉に、俺は反論できずに肩を落とした。
違う、ただの不幸な事故だ! 俺はただ、ゼオ芋の酒とアミタ茸を無理矢理買うあいつらを止められなかっただけなのに!
「おい、どうするんだよこれ……!」
俺が顔を引きつらせて呟くと、ゼインは獲物を見つけた猛禽類のように楽しげにニヤリと笑った。
「どうするも何もないだろ。動けないなら好都合だ。お前の加護がわざわざお膳立てしてくれたんだ、全員縛り上げさせてもらうぜ。」
ゼインは意気揚々と洞窟に足を踏み入れた。
そして、木箱の周りに散乱していたロープで、転がっている盗賊たちを次々と縛り上げ始めた。
盗賊たちは完全に麻痺しており、抵抗するどころか瞬きすらままならない。ただ、その眼球だけがギョロギョロと動き、洞窟に入ってきた俺の姿を恐怖と恨みの入り混じった目で見つめていた。
俺はこれ以上彼らを刺激して逆恨みを買わないためにも、極力目を合わせないよう、必死に無表情を貫くことにした。
――だが、サイラスは知る由もなかった。
彼のその態度は、事情を知らない盗賊たちの目には、全く別の恐ろしいものとして映っていたのである。
(なんて恐ろしい行商人だ……顔色一つ変えずに、俺たちが毒で倒れるのをじっと観察していたっていうのか……!)
(あいつ、俺たちをハメるために最初からあの毒を……っ!)
彼らの血走った瞳には、深い絶望が浮かんでいた。
幼馴染には「加護の暴走」だと分かっていても、盗賊たちからすれば、サイラスは毒で自分たちを全滅させた『冷酷な策士』でしかない。
彼の沈黙が、その恐ろしい勘違いをより決定的なものにしていた。
「よし、一丁上がりだ。全員綺麗に縛り上げたぞ」
ものの数分で作業を終えたゼインが、満足げに手をパンパンと払う。
「さて、この人数を俺たちだけで運ぶのは無理だ。街に戻って衛兵を呼んでこないとな」
「ああ。だが、その前に少し『落とし物』の確認といくか」
テオが眼鏡を光らせながら言った。
「そうだな。盗賊のねぐらだ、裏に流す前の金目の物があるはずだ」
幼馴染二人が、まるで宝探しでもするように洞窟の奥の荷物の山へと向かっていく。
俺はこれ以上厄介なものが見つかりませんようにと祈りながら、重い足取りで二人を追いかけた。




