第6話 薄汚れた三人組の追跡
「おい、サイラス。随分と渋い顔をしてるな。何かあったのか?」
相場調査と宿の手配から戻ってきたテオとゼインに、俺は慌てて事の顛末を説明した。
「……なるほど。ゼオ芋とアミタ茸を一緒に買っていったのか……」
テオが険しい表情で考え込む。
「街中で集団食中毒なんて起きれば、売った俺たちに疑いの目が向く。衛兵に目をつけられるのは御免だな」
「だろ!? 一緒に飲み食いする前に注意しに行かないとマズいんだよ! でも、どっちに行ったかわからなくて……」
「……薄汚れた三人組なら、さっき北門へ向かっていくのを見たぞ」
ゼインが記憶を探るように目を細めた。
「宿の近くの酒屋で店主に絡んでいたから、妙に印象に残っててな。小さな樽を抱えて歩いていったから間違いない」
ゼインの言葉に、俺はバッと顔を上げた。
「北門! まだ間に合うかもしれない、急ごう!」
俺たちは露店を手早く片付けると、足早に北門へと向かった。
大通りを抜け、大きな石造りの北門が見えてきたその時だった。
「あっ! あいつらだ!」
俺が指差した先、まさにあの薄汚れた三人組が、門の検問を抜けて街の外へと出ていくところだった。
「街から出たな。なら、街中で騒ぎになることはない。放っておいてもいいんじゃないか?」
テオが冷静に指摘する。確かにその通りなのだが、俺は少し考えて首を振った。
「いや、街の外とはいえ、知っていて食中毒になるのを放置するのはどうも後味が悪い。一応、食べ合わせのことだけは注意しておこうぜ」
「お人好しだな。まあいい、急いで追うか」
俺たちは門の検問の列に並んだ。夕暮れ時で少し人はいたが、スムーズに手続きを済ませて門を通過した。
しかし、オレンジ色の夕日に染まる街道に出た時には、すでに三人組の姿は見えなくなっていた。
「見失ったな。だが、まだ遠くには行っていないはずだ。とりあえず街道沿いをまっすぐ走るぞ」
ゼインの合図で、俺たちは息を切らしながら街道を駆け抜ける。
しばらく走ると、やがて前方の薄暗がりに見覚えのある三人の影を捉えた。
「いたぞ! あいつらだ!」
もうひと踏ん張りして追いつき、声をかけようとした、その時だった。
三人組はふと立ち止まり、周囲を警戒すると、不自然に街道を外れて人気のない山の斜面へと入っていったのだ。
「街道を外れたな。あんな山の中に何があるっていうんだ?」
テオが不審そうに眼鏡を押し上げる。
「こんな時間に山に入るなんて、妙だな。……ちょっと、どこに行くのか見てみないか? 」
俺は小声で二人に囁いた。
騒ぎを止めに来たはずが、俺の中で少しばかりの野次馬根性が芽生えていた。
「物好きだな。まあ、少し様子を見てみるか。バレないようについていくぞ」
ゼインも面白そうに笑い、俺たちは尾行を始めた。
日が暮れた不慣れな夜の山道を、俺たちは足音を殺して慎重に登っていく。
最初こそ、前を歩く三人組の足音や、かすかに聞こえる話し声を頼りについていくことができた。だが、山道は次第に険しさを増し、足元にはむき出しの木の根や滑りやすい落ち葉が積もっている。
俺たち――特に体力のない俺やテオ――は、慣れない山道にどうしても歩みが遅くなってしまう。
「おい、もう少し急げるか? 距離が開いてきたぞ」
先頭を歩くゼインが小声で急かしてくるが、月明かりも届かない鬱蒼とした森の中だ。少し目を離した隙に、先を行く三人組の姿は木々の影に紛れ、徐々に闇に溶け込んでいく。
「待ってくれ……足場が悪すぎる……」
焦りながらも足元に気を取られているうちに、頼りにしていた足音も話し声も、夜の森の静寂に完全に吸い込まれてしまった。
「くそっ、完全に見失ったな。どっちに行ったんだ?」
「足跡も追えない暗さだ。これ以上、見ず知らずの山を闇雲に進むのは危険かもしれないぞ」
テオが立ち止まり、周囲を警戒する。
「いや、もう少しだけ奴らが消えた方向を探ってみよう」
俺たちは諦めきれず、男たちが向かったと思われる斜面の奥へと、手探りでさらに進んでいった。
しかし、ただでさえ歩きにくい斜面をあてもなく彷徨ううちに、かなりの時間が経過してしまった。
「……はぁ、はぁ。ダメだ、完全に撒かれた。これ以上は俺たちが迷子になるだけだ。諦めて街に戻ろう」
俺が深い深いため息をつき、来た道を引き返そうと振り返った、その時だった。
「……おい、待て。あそこを見ろ」
ゼインが指差した先――木々の隙間のずっと奥の方で、ゆらゆらと揺れる小さなオレンジ色の光が漏れているのが見えた。
「松明の光……? あんな岩陰に?」
「行ってみよう。足元に気をつけろよ」
光を頼りに息を潜めて近づいていくと、大きな岩の裂け目のような洞窟の入り口から、微かな笑い声が漏れ聞こえてきた。
そっと岩の陰から中を覗き込むと、そこには十数人の男たちが焚き火を囲んでいた。
洞窟の奥には、複数の異なる商会の紋章が刻まれた木箱が乱雑に積まれている。まともな旅人や傭兵の荷物ではないことは一目瞭然だった。
「……おいおい、ただの傭兵崩れじゃなかったのかよ。どう見ても盗賊のアジトだぞ」
俺は思わぬ発見に、冷や汗を流しながら顔を引きつらせた。ただの野次馬根性でついてきた先が、まさか本物の悪党のねぐらだったとは。見つかれば、俺たちだってただじゃ済まないだろう。
ゆらめく焚き火の光に照らされた男たちの凶悪な面構えは、俺が一番望んでいる『安全で平穏な生活』とは完全に対極にあるものだった。




