↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
行商人サイラスの狂運 ~平穏に暮らしたいだけなのに、【幸運の加護】でなぜか成り上がっていく~  作者: ブラン
第三章 建設する家臣

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/47

第45話 見つからない倉庫

 数日後の朝、俺はテオと二人で、倉庫探しに出かける支度をしていた。


 探しているのは、荷を置くための場所だ。荷だけでも移せれば、今の拠点でもまだやっていける。

 街の中は先日も一通り当たってみたが、やはり広さの足りるところは見つからなかった。

 今日は、港の近くと街外れを当たってみるつもりだ。


 支度を終えて表へ出ようとしたところで、作業部屋の机に向かうマルコの姿が目に入った。

 帳簿と一枚の紙を見比べながら、少し困ったような顔をしている。


「どうした、マルコ」


「ああ、サイラスさん。大したことではないのですが」


 マルコは、手にしていた紙をこちらに向けた。

 役所から受け取った、関税の控えだ。


「写し間違いがありまして。二割の免除が付いていない便があるんです。今日はペトロス家への納品があるので、直してもらうのはまた今度にしようかと」


 マルコはそう言って、控えと帳簿の写しを揃えて机の端に置いた。


「なら、倉庫探しの帰りに寄っておく。書類だけ渡してくれ」


「よろしいのですか?」


「どうせ出かけるんだ。ついでだよ」


「では、お願いします。もし寄れなければ、今度私が行きますので」


 マルコから書類を受け取り、懐にしまう。


「行くぞ、テオ」


「ああ」


***


 まずは不動産ギルドに顔を出し、案内人をつけてもらった。


 倉庫を借りたいと伝えると、案内人は港の近くへ連れていってくれた。


 海沿いの通りには大きな倉庫がいくつも並び、荷車がひっきりなしに行き交っている。


「荷馬車五台分の荷が置けるくらいの広さが欲しい。できれば、荷の番をする者が寝泊まりできる部屋もあると助かる」


 俺が要望を伝えると、案内人の顔が少し曇った。


「港の近くの大きな倉庫は、どこも大きな商会が何年も先まで借りておりまして。空きが出ても、すぐに埋まってしまうんですよ」


 空いているのは、どれも求める広さには届かない、小さな倉庫ばかりだった。

 しかも、港の近くは家賃が高い。


「いくつか借りて荷を分けるにしても、家賃だけでかなりの額になるな」


 案内人から家賃を聞いたテオが、顔をしかめて言った。

 これでは、稼ぎの多くが家賃に消えてしまう。


「港がだめとなりますと……街外れはいかがでしょう。貸し倉庫とまではいきませんが、農家の納屋なら、貸してもいいという話がいくつかございます」


 案内人の勧めで、次は街外れへ足を延ばすことにした。


 門を出て少し歩くと、建物はまばらになり、畑や空き地が目立ち始める。

 案内された納屋は、どれも古く小さかった。

 荷馬車を一台入れるのがやっとで、屋根が傷んでいるものもある。

 考えてみれば、荷の行き来の少ない街外れに、わざわざ人に貸すための倉庫を建てる者はいない。


「でしたら、いっそ土地を買って、倉庫を建てるという手もございますよ。売りに出ている土地なら、いくつかございますので」


 案内人は、ここぞとばかりに言った。

 買うつもりはなかったが、見るだけならと案内してもらった土地は、確かに広かった。

 荷馬車を何台並べても、まだ余裕がありそうだ。

 門からもそう遠くない。


「ここなら、街との行き来も楽だな。倉庫だけじゃなく、寝泊まりできる建物まで建てれば、拠点ごとこっちに移してもいいかもしれない」


 テオも黙って頷き、土地を歩き回っては、近くに水場があるか、荷馬車の通れる道が続いているかを確かめている。

 悪くない。

 そう思い始めたところで、案内人が口を開いた。


「それで、お値段の方ですが。こちらは、金貨二百枚ほどになります」


 金貨二百枚。

 土地だけなら、なんとか手の届く額だ。

 だが、建物はこれから建てなければならない。


「場所はいい。だが、今の拠点くらいの倉庫を建てても、土地と合わせて三百二十枚だ。人も取引も増やしていくなら、そっちにも金がかかる」


 テオが、あたりを見渡しながら言った。


「……だよな」


 テオの言う通りだ。

 倉庫一つに、有り金をつぎ込むわけにはいかなかった。


 その後もいくつか土地を見て回ったが、結果は同じだった。

 借りられる倉庫はなく、土地を買えば、建てる費用が重くのしかかる。


 日が傾き始める頃には、足も頭もすっかりくたびれていた。


「……どうしたものかな」


「明日は、街の反対側の方も当たってみるか」


 テオはそう言ったが、その顔にも疲れがにじんでいた。


 懐に手をやると、マルコから預かった書類が指に触れた。

 そういえば、まだ用事が一つ残っている。


「役所に寄って帰るか」


***


 役所は、夕方になっても人の出入りが多かった。


 窓口で控えと帳簿の写しを見せると、担当の役人は何度か見比べたあと、慌てて奥の台帳を持ってきた。


「……確かに、こちらの写し間違いですね。申し訳ありません」


 役人は恐縮したように頭を下げ、その場で控えを書き直してくれた。

 手続きは、驚くほどあっさりと終わった。


「向こうの間違いだったからな。揉めなくてよかった」


 テオはそう言って、小さく息をついた。

 二人で、帰ろうと歩き出す。

 今日の収穫は、控えの訂正一つだけだ。

 倉庫のことは、また考え直すしかない。


 そう思いながら扉に手をかけようとした、そのときだった。


「――だから、それでは困ると言っているんだ!」


 役所の奥から、男の怒鳴り声が響いた。


「どうにかしてもらわないと、こっちは食っていけないんだ!」


「ですから、今の時点では、こちらでもどうにもできないのです!」


 職人らしい男たちの荒っぽい声と、それをなだめようとする役人の声が入り混じっている。


 俺とテオは、思わず顔を見合わせた。

 出口へ向かっていたはずの足が、いつの間にか止まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。