表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
行商人サイラスの狂運 ~平穏に暮らしたいだけなのに、【幸運の加護】でなぜか成り上がっていく~  作者: ブラン
第一部 運がいい行商人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/42

第33話 雨音の中で

 短剣が、ゼインの背中へ迫る。


その瞬間、矢が雨を裂いた。

ゼインを刺そうとしていた男の肩に、矢が突き立つ。


「ぐあっ!」


男の腕が跳ね、短剣の軌道が大きく外れた。

刃はゼインの背中を外れ、空を切る。


ゼインは身をひねり、目の前の盗賊へ振り抜いた剣を引き戻した。


逃げようとした男の腕を、刃が斜めに斬る。

短剣が手から離れ、泥の中へ落ちた。


さらにゼインの蹴りが、男の膝を崩す。


短剣の男はぬかるみに倒れ込み、肩に刺さった矢を押さえて呻いた。

もう、まともに戦える状態ではない。

男が立ち上がれないのを一瞥し、ゼインは次の盗賊へ向き直った。


 今の一瞬で、空気が変わった。

後ろから押し込もうとしていた盗賊たちの足が止まる。

切り札だったのだろう。

ゼインの背後を取った男が失敗したことで、盗賊たちの勢いが一気に鈍った。


「何やってやがる!」


頭目が叫ぶ。

だが、その声にも最初ほどの余裕はない。

ゼインが短剣の男を蹴るようにして横へ押しやり、再び後方の盗賊たちへ向き直った。


「次は誰だ」


誰もすぐには踏み込まない。

その隙を逃さず、ミアの矢が盗賊の足を射抜いた。

男が泥の中へ倒れ込む。


「引くな! 数はこっちが上だ!」


頭目が怒鳴る。


だが、盗賊たちは動かなかった。

倒れた仲間が泥の中で呻き、足を射られた者たちもまともに動けない。

ゼインの前に踏み込める者もいなかった。


「くそっ……!」


頭目が歯を食いしばった。


頭目の顔から、さっきまでの余裕が消えていた。

後ろを押さえているゼインは崩せない。

荷馬車の守りも破れない。

そう判断したのだろう。


「引け!」


頭目が吐き捨てるように叫んだ。


 盗賊たちが一斉に崩れ、左右の木々の間へ逃げ始めた。


「追うな!」


俺はすぐに声を上げた。

森へ入れば、こちらが不利だ。

守るべきは荷馬車だった。

ゼインは足元の武器を蹴り離し、ハンスは起き上がりかけた盗賊を押さえ込む。


 結局、盗賊たちの半数近くは森へ逃げた。

残ったのは、動かなくなった者が二人。

それから、足や腕をやられて逃げられなくなった者が六人だった。


 雨音だけが、また森の中に戻ってくる。


「……全員、怪我は?」


 俺が聞くと、テオが周囲を見回した。


「大きな怪我はなさそうだ。見たところ、全員かすり傷で済んでいる」


「ゼインは?」


「問題ない」


ゼインは短く答えた。

だが、無事だったとはいえ、危なかった。

あと少しミアの矢が遅れていれば、ただでは済まなかっただろう。


「ミア、助かった」


ゼインが言うと、ミアは弓を下ろしながら息を吐いた。


「ラルフさんの声が聞こえたので」


ラルフは、まだ短剣の男を見ていた。

表情は硬い。


「……気配が、ありませんでした」


「さっきの男か?」


「はい。動き出すまで、そこにいると分からなかったんです」


ラルフの声には、悔しさが混じっていた。

無理もない。

さっきの一撃は、ラルフが気づくのが少しでも遅れていれば、ゼインに届いていた。


「だが、気づいてくれて助かった。あの声がなければ、間に合わなかった」


ラルフは小さく頷いたが、表情は晴れない。


 テオが短剣の男の前にしゃがみ込む。

肩を押さえて呻く男を見て、目を細めた。

しばらく男の様子を確かめてから、低く言う。


「加護持ちだ。おそらく、隠密の加護だな」


「隠密……気配を消す加護か?」


「たぶんな。ただ、自分の気配を消すだけじゃない。近くにいる者の気配まで薄くしていた可能性がある」


「だから、他の連中にも気づけなかったのか」


「雨や森のせいだけじゃない。加護で、気配をぼかされていたんだろう」


俺は倒れた男を見る。

男は歯を食いしばり、こちらから目を逸らした。


盗賊の中に、そんな加護を持つ者がいた。

それを切り札として、ゼインの背後へ忍び寄らせたのだろう。


もしミアの矢が間に合わなければ。

もしラルフが声を上げなければ。


考えるだけで、背筋が冷える。


「ラルフの加護が役に立たなかったわけじゃない」


俺は言った。


「気づいた瞬間に声を出した。それで間に合った」


「……はい」


「それに、気配で分からない相手がいると分かっただけでも大きい」


そう言いながらも、俺自身、楽観する気にはなれなかった。


 加護には、いろいろな種類がある。

似たような加護でも、効果が同じとは限らない。


ラルフの加護は便利だ。

だが、万能ではない。


気配を探る加護でも、探れない相手がいる。

俺たちは、それを今知った。


 倒木は、まだ道を塞いでいる。

森へ逃げた盗賊たちが、戻ってこないとも限らない。


「まずは武器を集める。動けない盗賊は縛ってくれ。倒木はその後だ」


「分かりました」


俺たちは手分けして、盗賊たちの武器を集め、逃げられない者を縛った。

その間も、ミアとゼインは森の方から目を離さない。


助かった。

だが、安心はできなかった。

ラルフの加護をすり抜ける相手がいる。

その事実だけが、雨音の中に重く残っていた。

6/19 細部修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ