第3話 ゼオニカの街への到着
想像以上に進んでいるので3話目も投稿
翌朝、俺たちは村長に見送られながらゼオコリス村を出発した。
道中はゼインが常に目を光らせて警戒してくれていたおかげか、盗賊の類に遭遇することもなく、昼下がりには無事に目的地のゼオニカの街へと到着した。
ゼオニカは石造りの丈夫な防壁に囲まれ、大きな港も備えた活気のある交易の街だ。
街へ入るための大きな門の前には、荷馬車を引いた商人や旅人たちの長い列ができていた。俺たちも最後尾に並び、順番を待つ。
「やっぱり人が多いな。これだけ人がいれば、うちの品物も飛ぶように売れて儲けやすそうだ。気合いを入れて商売しないと」
俺が御者台でそんなことを考えていると、不意に後方の列がザワザワと騒がしくなり、人々が道の両端へと避けて道を空け始めた。
「なんだ? 随分と慌ただしいな。」
ゼインが目を細めて後方を見る。開かれた道を通って、列の横を進んでいくのは、馬に跨った十数人の武装した一団だった。揃いの鎧を着込んでおり、一目で正規兵だとわかる。
一団の後ろには、太い縄で数珠繋ぎに縛られ、力なく歩かされている薄汚れた男たち――捕縛された盗賊たちの姿があった。
その先頭に立つ人物を見て、俺は思わず目を奪われた。
白馬に跨っていたのは、凛とした顔立ちの若い女性だった。
輝くような金の髪は動きやすいように短く切り揃えられ、身に纏った軽鎧も機能性を重視しているのがわかる。だが、その美しい容姿に反して、彼女の鎧やマントの裾には少し泥がはねたような汚れがついていた。
「あれは……この辺りを治める有力貴族、ペトロス家の令嬢、コレイン様だろうな」
荷台から顔を出したテオが、小声で教えてくれた。
「貴族の令嬢? 貴族様が盗賊を捕まえているのか?」
「彼女は強力な【土の加護】の使い手らしくてね。最近はこの辺りを荒らしている盗賊団を討伐するために、自ら治安維持部隊を率いて走り回っているそうだよ。」
なるほど。俺は感心して、街の中へと入っていく彼女の後ろ姿を見つめた。
すれ違いざま、彼女がふと小さくため息をつき、どこか沈んだ表情で視線を落とすのが見えた。
凛とした佇まいの彼女が一瞬だけ見せた、少し落ち込んでいるような、元気のない様子が妙に印象に残る。
コレイン様の部隊が通り過ぎると、再び列が動き出した。
簡単な検問と通行税の支払いを済ませ、俺たちはようやくゼオニカの街へと足を踏み入れた。
「よし、まずは今日の宿の確保と馬車を停める場所、それから行商をするための良い露店スペース探しだな」
「ああ。昨日拾ったネックレスについては、今日の分の商売が一段落してから、夕方にでも衛兵の詰め所に届けるとするか」
テオの提案に俺は頷いた。
大通りを歩きながら、今後の予定を相談していたその時だった。
「わっ!」
横の狭い路地から、小柄な人影が勢いよく飛び出してきて、俺の肩にドンッとぶつかった。
ボロボロのフードを深く被った、小さな子供……いや、少女だ。
「あっ、ごめんなさい!」
少女は顔を伏せたまま短く謝ると、転がるような身のこなしで群衆の中へ駆け出していった。
「おいおい、危ないな。怪我はないか、サイラス」
「ああ、大丈夫だ。ちょっとぶつかっただけ……」
ゼインの言葉に答えながら、俺はふと違和感を覚えて自分の胸元に手を入れた。
上着の内ポケットに入れていたはずの、今日の宿代などを入れた小さな革の財布が……ない。
「……やられた」
俺はポカンと口を開け、少女が消えた方向を指差した。
「財布、すられた」
「なんだと!?」
ゼインの目の色がサッと変わった。
「あのガキ……ただのぶつかりじゃなかったのか。待てコラァ!!」
ゼインが【剣の加護】による人間離れした身体能力で地を蹴り、群衆をすり抜けて少女を追いかけ始める。
「サイラス、馬車と商品は俺が見てる! お金は絶対に取り返してくれ!」
「ああ、任せろ!」
テオを大通りに残し、俺もゼインの背中を追って狭い路地へと飛び込んだ。
ゼオニカの街での商売は、初っ端から前途多難なドタバタ劇で幕を開けるのだった。




