第2話 ゼオ芋の酒
1章の流れはある程度完成しているので出来るだけ毎日投稿できるように頑張ります。
少し文章が冗長になっている部分が多かったので修正しました。5/21
街道を少し外れ、森の小道を抜けた先に、目当ての村はあった。
ゼオコリス村。木造の質素な家が十数軒ほど身を寄せ合うように建っている小さな村だ。
広場で少しばかりの商売を済ませた俺達は、ランプの燃料を分けてもらうため村長の家を訪ねた。
恰幅の良い中年の村長は、行商人である俺を歓迎し、すぐに両手で抱えるほどの小さな木樽を持ってきてくれた。
「ほれ、これが燃料じゃ。一樽で銀貨二枚じゃな」
樽を受け取った瞬間、ツンとした強烈なアルコールの匂いが鼻を突いた。
「うわ、すごい匂いだな。何の油ですか?」
「油じゃない、それは酒じゃよ。うちの特産のゼオ芋を発酵させて蒸留したもんじゃ」
「えっ、酒なんですか? これが?」
驚く俺に、村長はバツの悪そうな顔をして頭を掻いた。
「いかにも。あの芋は痩せた土地でもよく育つ、この村の貴重な食料なんじゃがな。わしの持つ【発酵の加護】を使って美味い酒を造り、村の新しい特産品にしようと気張ってみたんじゃ」
「【発酵の加護】! それって酒を造る職人が持っているっていうすごい加護じゃないですか」
思わず声を上げた俺に、村長はさらに肩を落とした。
「それが……わしのはどうもコントロールが利かなくてな。どうにも過剰に発酵してしまうんじゃよ。結果、ひどくえぐみのある味になった上にアルコールが強すぎる酒になってしまってな。よく燃えるんで今じゃこうして、もっぱら燃料代わりとして売っとるわけじゃ」
なるほど。加護をコントロールできない不便さは、俺も身に染みてわかっている。なんだか他人事とは思えず、俺は村長に少しばかりの親近感を抱いた。
「おい、サイラス」
テオが背後から小声で話しかけてきた。
「俺の『鑑定』で見たが……酒としての価値はあまりなさそうだ。だが、『燃料』としての価値は十分にあるな。銀貨二枚なら、燃料代として適正な価格だと思う」
テオの耳打ちを受け、俺は納得して村長に向き直った。
「村長さん、事情はわかりました。燃料として、ありがたく買い取らせてもらいます」
俺が銀貨二枚を支払うと、村長はホッと顔を綻ばせ、嬉しそうに頷いた。
「思いがけない臨時収入になって助かったわい。そうだ、あんたたち。これも買っていかんか?」
村長が奥から持ってきたのは、乾燥させた立派なキノコが詰まった小袋だった。
「先日、別の旅商人から珍しいと思って買い取った『アミタ茸』じゃ。スープにするとうまいんじゃが……うちの特産の『ゼオ芋』と一緒に食うと、どうも相性が悪いらしくて少し腹を下してしまうんじゃよ。命に関わるようなもんじゃないが、この村じゃゼオ芋ばかり食うから、扱いに困っとってな。安くしておくから、どうじゃ?」
「なるほど。それで売りたいと」
俺がテオに視線を向けると、彼がキノコの入った袋に触れて小さく頷いた。
「悪くない品だ。アミタイト地方の特産品だな。ゼオニカなら珍しい食材として高く売れるかもしれない。」
テオの『鑑定』結果を受け、俺は納得して村長に向き直った。
「わかりました。それなら、こちらもありがたく買い取らせてもらいますよ」
「おお、助かるわい!」
商談が成立し、俺はキノコの代金を支払った。
「ところで村長さん。今日はもう遅いし、この村の空き地で一晩野営させてもらえませんか?」
「もちろん構わんよ。あそこの広場なら火を使っても大丈夫じゃ」
快諾してくれた村長は、ふと少し声を潜めて俺たちに顔を寄せた。
「明日はゼオニカへ向かうそうじゃな。最近、この辺りの山に凶悪な盗賊団が住み着いて、行商人を狙っとるらしい。くれぐれも気をつけることじゃ」
「……貴重な情報、ありがとうございます。警戒して進むことにしますよ」
俺は村長に深く頭を下げた。
その夜。俺たちは焚き火を囲みながら、盗賊を避けるために遠回りしてでも安全なルートを進むことを確認した。
「お前のその『悪運』が、盗賊を引き寄せないといいがな」
ゼインがニヤニヤとからかってくる。
「縁起でもないこと言うなよ……。頼むから、明日は何事もなくゼオニカに着いてくれよ」
俺はため息をつきながら、夜空の星を見上げた。




