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行商人サイラスの狂運 ~平穏に暮らしたいだけなのに、【幸運の加護】でなぜか成り上がっていく~  作者: ブラン
第一部 運がいい行商人

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第27話 領主館での相談

 翌朝、俺はテオとマルコを連れて領主館へ向かった。

目的は二つ。

採石場跡で捕まえた盗賊の件を報告すること。

そして、商会を作ることについて、ペトロス家に相談することだ。

俺達は今、ペトロス家の専属傭兵という立場でもある。

商会として登録するなら、先に話を通しておくべきだろう。

領主館に着くと、以前会ったアルフレッド様が出迎えてくれた。


「よく来てくれた、サイラス。父がお待ちだ」


「本日はお時間をいただき、ありがとうございます」


「採石場跡の件と、商会の相談だったな。こちらへ」


アルフレッド様に案内され、俺達は領主館の奥へ進んだ。


ただの行商人なら、領主本人に会うことなどまずない。

まさか、商会の相談以外にも何かあるのではないだろうな。

そんな不安を覚えたところで、通された部屋にはゼオニカ領主が待っていた。


 グレアム・ペトロス伯爵。

コレイン様とアルフレッド様の父であり、このゼオニカを治めるペトロス家の当主だ。

落ち着いた雰囲気の人物で、威圧するより、話を整理して判断するタイプに見える。


「サイラスと申します」


「グレアム・ペトロスだ。よく来てくれた。座りなさい」


 俺達が席に着くと、グレアム伯爵は静かに口を開いた。


「ジャルミナ方面で盗賊の拠点が潰れたという話は、こちらにも届いている」


「もう届いているのですか」


「ああ、商人達の噂でな。盗賊絡みの話は広まるのが早い。ただ、君の口からも聞いておきたい」


「はい」


俺は採石場跡で起きたことを説明した。

ジャルミナへ向かう途中、古い採石場跡に迷い込んだこと。

そこに盗賊達がいて、互いに争っていたこと。

さらにイノシシが突っ込み、現場が混乱したこと。

俺達はその中で、逃げ遅れた盗賊を捕まえたこと。


「つまり、偶然が重なっただけです。俺達が盗賊団を壊滅させたわけではありません」


「偶然が重なっただけ、か」


グレアム伯爵は少し考えるように目を細めた。


「だが、捕縛者は二十人以上。しかも、二つの盗賊団の頭目格まで捕らえている。街道の脅威が一つ減ったことは間違いない」


「それは、盗賊同士が争った結果です。俺達が仕掛けたわけではありません」


「分かっている」


 伯爵は穏やかに頷いた。


「それでも、君達が現場から無事に戻り、捕まえられる者を捕まえたことに変わりはない」


「無事に戻るだけで精一杯だったと言いますか……」


思わずそう言うと、アルフレッド様が小さく笑った。


「だが、原因がどうであれ、街道の危険が一つ減ったことに変わりはない。ペトロス家として礼を言う」


「……ありがとうございます」


俺は頭を下げるしかなかった。


 採石場跡の報告が一段落したところで、俺はもう一つの用件を切り出した。


「それと、もう一つご相談があります。今後、隊商を商会として登録しようかと考えています」


「商会か」


グレアム伯爵は特に驚いた様子を見せなかった。


「荷馬車は五台に増えました。新しく雇った者もいます。拠点に残している者達も、販売や帳簿の補助を任せられる程度には育ってきました」


俺はそこまで説明してから、マルコに視線を向けた。

マルコが一礼し、説明を継ぐ。


「今後は、サイラス様が不在の間にも、拠点での販売や近場の仕入れを進めることになります。商会名義で取引できる形にした場合、現在の関税特例をどう扱うべきかもご相談できればと」


「なるほど。商会化に伴う、特例の扱いの確認だな」


「はい」


グレアム伯爵は納得したように頷いた。


「商会化そのものは問題ない。拠点があり、雇用者がいて、複数の荷馬車を動かしている。今の規模なら、形を整えるのは自然だろう」


「ありがとうございます」


「ただし、現在の五割免除を、そのまま商会全体へ広げることはできん。あれはサイラス個人の隊商に対する褒賞だ」


「……やはり、そうなりますか」


「ああ。その代わり、君達の商会名義で扱う荷については、ゼオニカでの関税を二割免除しよう。サイラス本人が同行していなくても適用する」


「俺が同行していなくても、ですか」


五割免除ではなくなる。

だが、俺がいない取引にも使えるなら、話はかなり違ってくる。


「ただし、対象は商会が仕入れ、販売責任を持つ荷に限る。他商人の荷を名義だけ借りて通すことは認めん。帳簿と取引記録も残してもらう」


「それは当然だと思います」


マルコが頷いた。


「それと、専属傭兵契約についてだが」


グレアム伯爵はそこで、少しだけ声を改めた。


「採石場跡の件も含め、君達はすでに十分な実績を示している。そのため、街道で盗賊や不審な動きを見つけた場合は、これまで通り報告してもらう。加えて、ペトロス家から盗賊討伐、護衛、偵察、緊急輸送などの依頼があった場合、君達に優先的に声をかけることになる」


護衛や緊急輸送は分かる。

だが、盗賊討伐や偵察まで含まれるとなると、商会全体を危険な仕事に巻き込むことになる。

専属傭兵とはいえ、簡単には頷けない。


「確認してもよろしいでしょうか」


「何だ」


「護衛や輸送については分かります。ですが、盗賊討伐や偵察まで含まれるとなると、俺達の商会そのものがペトロス家の兵として扱われるようにも聞こえます」


「違う」


グレアム伯爵はすぐに首を振った。


「君達を兵士として動かすつもりはない。討伐や偵察についても、必要があれば依頼として出すという意味だ。依頼ごとに報酬と条件は示す」


「優先的に声をかける、というのは、実質的に断れないという意味でしょうか」


「立場上、簡単には断れんだろう。だが、人員や荷の状況を無視して命じるつもりはない。依頼ごとに、できるかどうかも含めて条件を詰める」


グレアム伯爵はごまかさずに答えた。

楽な条件ではない。

伯爵家からの依頼となれば、形は依頼でも簡単には断れないだろう。

俺がテオを見ると、彼は少し考えてから口を開いた。


「危険は増えるな。今後は、ペトロス家の依頼で動くことも出てくる」


「だよな」


テオは頷き、続けた。


「だが、俺は受けていいと思う。関税二割免除は大きい。お前が同行していない取引にも適用されるなら、十分に利はある」


マルコも意見を重ねる。


「私も受けるべきだと思います。関税だけでなく、ペトロス家に認められた商会という信用も、今後の取引では大きな後ろ盾になります」


俺はグレアム伯爵に向き直った。


「……分かりました。その条件でお願いします。ただ、依頼を受ける時は、人員や荷の状況を確認させてください」


「もちろんだ」


グレアム伯爵は頷いた。


「君達を使い潰すつもりはない。長く街道を動いてもらう方が、ペトロス家にとっても価値がある」


その言葉を聞いて、俺はようやく頷いた。

こうして、ペトロス家との話はまとまった。


商会設立後は、関税特例が商会名義の荷にも適用される。

その代わり、ペトロス家からの依頼も今まで以上に重くなる。

小さな行商のつもりで始めた商売は、気づけば商会という形を取ろうとしていた。

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