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行商人サイラスの狂運 ~平穏に暮らしたいだけなのに、【幸運の加護】でなぜか成り上がっていく~  作者: ブラン
第一部 運がいい行商人

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第26話 大きくなった隊商

6/9 サブタイトル修正しました。

『~【幸運の加護】で敵が自滅し、なぜか最強の策士と呼ばれる~』

→『~平穏に暮らしたいだけなのに、【幸運の加護】でなぜか成り上がっていく~』

 ジャルミナを出発してからの帰路は、驚くほど順調だった。

こちらは荷馬車五台に十二人。

そこへ鍛冶師組合の荷馬車二台と六人が加わっている。

合計七台の荷馬車が街道を進む様子は、もう小さな行商人の集まりというより、立派な隊商に見えた。


 オルドは道中の隊列や見張りの段取りに慣れており、新しく雇った者達も思ったよりよく動いてくれた。

俺が細かく口を出す場面は、ほとんどなかった。


「こうして同行させていただいたおかげで、ここまで順調に来られました」


休憩中、鍛冶師組合のロイスが荷馬車の列を眺めながらそう言った。


「そう言ってもらえると助かります。こちらも、七台で進むのは初めてなので」


「ですが、これだけの人数と荷馬車が並んでいれば、盗賊もそう簡単には近づけません。こちらとしては、声をかけて正解でした」


「……そう見えますか」


「ええ。外から見れば、十分に大きな隊商です」


ロイスの言葉に、俺は改めて後ろを振り返った。

一定の間隔を空けて進む荷馬車の列。

最初は一台で行商していたことを思うと、どうにも自分達の隊商とは思えなかった。


 ゼオニカへ近づくにつれ、街道には春支度の気配が増えてきた。

種袋を積んだ荷馬車や、修理に出すのだろう鍬や鎌をまとめた農民の姿が目につく。

春先の需要を考えれば、荷馬車を追加してまで農具や金具を仕入れたのは、悪くない判断だったのかもしれない。


 大きな問題も起きないまま、俺達はゼオニカの城壁が見えるところまで戻ってきた。



 ゼオニカの門では、荷馬車の数を見て少し驚かれたものの、手続き自体はあっさり終わった。

俺達の荷と鍛冶師組合の荷を確認され、問題なしとして街へ通される。

思ったより普通に通れたことに、俺は少し肩の力を抜いた。


 街に入ったところで、ロイス達の輸送隊とは別れることになった。

鍛冶師組合の荷は、ゼオニカ側の取引先の倉庫へ運ぶらしい。


「サイラス殿。今後、ジャルミナの農具や工具、金具が必要になりましたら、組合へ声をかけてください。私が窓口になります」


「それは助かります」


何事もなく同行を終えられた上に、鍛冶師組合との縁も残った。

ロイス達を見送った後、俺達は拠点へ向かった。


***


 久しぶりに戻ってきた拠点の門をくぐると、留守番組のみんなが一斉にこちらを振り向いた。


「団長、お帰りなさい!」


「皆さん、無事だったんですね!」


「荷馬車、増えてませんか!?」


 次々と声が上がる。

その中から、マルコが落ち着いた様子で歩いてきた。


「お帰りなさい、サイラスさん。荷下ろしの場所は空けています。仕分け用の札も用意してありますので、荷ごとに分けましょう」


「あ、ああ。頼む」


 俺が返事をするより早く、留守番組が動き出した。

 荷台の封を確認し、品物を種類ごとに分け、帳簿と照らし合わせながら数を数えていく。


 ジャルミナへ発つ前なら、こちらが細かく指示を出していたはずだ。

 だが今は、マルコの指示を受けながら、自分達で段取りを進めている。


「……マルコ」


「はい」


「あいつら、前より随分できるようになってないか?」


「毎日やっていましたから。今は原価と売値から利益を出すくらいならできますし、売上と在庫の照合もできるようになっています」


「そこまでできるのか」


「まだ一人前とは言いませんが、店番だけなら十分任せられます」


 俺は素直に感心した。

 正直、ここまで伸びているとは思っていなかった。


 その時、留守番組の一人が少しそわそわした様子でこちらを見た。


「あの、団長。本当に四十人もいた盗賊を倒したんですか?」


「倒してない」


 俺は即答した。


「盗賊同士が勝手に揉めて、そこにイノシシが突っ込んで、俺達は逃げ遅れた連中を捕まえただけだ」


「でも、二十人以上捕まえたんですよね?」


「それはそうだが」


「やっぱりすごいです!」


「だから違うと言ってるだろ……」


 俺が頭を抱えると、近くで聞いていたゼインが楽しそうに笑った。


「よかったな、サイラス。ゼオニカでも噂が広がってるみたいだぞ」


「全然よくない」


 普通の行商人として戻ってきたつもりだった。

 だが、留守番組の目は以前よりも明らかにきらきらしている。

 どうやら俺達は、また少し頼れる存在として見られてしまったらしい。


荷下ろしが一段落したところで、俺はマルコから留守中の状況を聞いた。


「預かっていた商品ですが、かなり早い段階で売り切れました」


「そんなに早くか?」


「はい。その後は、計算や帳簿、接客、在庫管理を学ばせていました。今の彼らなら、店番だけでなく簡単な商売の流れも理解できます」


 それは頼もしい話だった。

 だが、仕分けた荷を確認している留守番組を見ていると、別の問題も見えてくる。


「ここまでできるなら、勉強だけさせているのはもったいないな」


「私もそう思います。ですが、彼らだけで別の街へ仕入れに出すのは難しいでしょう。荷馬車を動かすにも、護衛や御者、荷運びが必要です」


そこで、俺は新しく雇った五人の方へ目を向けた。

オルドは荷馬車の位置を確認しながら、新しく雇った者達に片付けの指示を出している。


「オルドさん達を、常に俺達本隊に同行させる必要はないかもしれないな」


テオが頷いた。


「役割を分けるなら、サイラス達は行商と交渉。留守番組は拠点販売と帳簿、将来的には近場への仕入れ。オルドさん達は、その護衛や御者、荷運びだ」


「……それ、もうただの隊商じゃないな」


「少なくとも、今まで通りには扱えないと思う」


テオの言葉に、マルコも静かに頷いた。

荷馬車は増えた。

人手も増えた。

留守番組も、ただ店番を任せるだけでは惜しいくらいに育っている。

このまま、今まで通りの行商隊として動かすには無理がある。


商会を作る。


その言葉が、少しずつ現実味を帯びてきた。

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