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行商人サイラスの狂運 ~平穏に暮らしたいだけなのに、【幸運の加護】でなぜか成り上がっていく~  作者: ブラン
第一部 運がいい行商人

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第25話 鍛冶師組合

 鍛冶師組合から来た男は、ロイスと名乗った。

組合の取引担当で、今回ゼオニカへ送る荷の責任者でもあるらしい。


「ご相談というのは、ゼオニカまでの道中についてです。サイラス殿の隊商に、こちらの輸送隊を同行させていただけないかと」


「同行、ですか」


「今回はゼオニカへ送る荷が少し多いので、できれば他の隊商と歩調を合わせたいのです」


「荷というのは、鍛冶師組合の品ですよね?」


「はい。農具や工具が中心ですが、軍の規格から外れた武器も少し含まれています」


武器もあるのか。

荷を奪われれば、盗賊の戦力を増やすことにもなりかねない。


「ただ、サイラス殿の荷馬車に積ませてほしいという話ではありません。荷馬車二台、御者二人、護衛三人はこちらで用意します。荷の責任者は私が務めます」


頼まれているのは荷運びではない。

日程を合わせ、同じ道を進むことだった。


「もちろん、ただでとは申しません。同行の謝礼として、金貨二枚をお支払いします」


「金貨二枚……」


面倒は増えるが、悪い条件ではない。

俺が考えていると、ゼインが横から口を挟んだ。


「その規格外の武器ってやつ、見せてもらうことはできるのか?」


「ええ。ご希望でしたら、倉庫へご案内できます。気に入る品があれば、同行の謝礼とは別に、少し安くお譲りすることもできます」


同行を受けるかどうかを決める前に、荷の内容は見ておきたい。

それに、使えそうな武器が安く買えるなら、こちらにも利がある。


「分かりました。では、倉庫を見せてください」


***


 鍛冶師組合の倉庫には、農具や工具、馬具の金具、荷馬車の補修部品が箱ごと積まれていた。

奥の一角には、今回ゼオニカへ運ぶ予定の武器が並んでいる。


「こちらが、規格外品です」


長剣、槍、短剣、大槌、盾。

どれも長さや重さ、形が軍の規格から外れただけで、粗悪品には見えなかった。


「長さや重さが軍の規格から外れている。柄が少し太い。まとめて納めるには数が揃わない。そういった理由で、軍には納められなかった品です」


テオが何本か手に取り、静かに頷いた。


「品質は悪くない。使う者を選ぶだけだね」


その言葉を聞いて、ゼインの目が鋭くなった。

彼が選んだのは、少し長く重い長剣だった。


「少し癖はあるが、悪くない」


「扱えそうか?」


「ああ。何度か振って慣らせば、今の剣より使いやすくなると思う」


 ゼインが武器を選んだことをきっかけに、他の者達もそれぞれ使えそうな武器を探し始めた。

ラルフは自衛用に短剣を選び、ミアは矢じりや弦を補充する。

そんな中で、ハンスは倉庫の隅に置かれていた大槌の前で立ち止まった。


「これ、持ってみてもいいですか?」


「構いませんが、見た目より重いですよ。武器として扱うには、かなり力が要ります」


ハンスは両手で大槌を持ち上げ、重さを確かめるように軽く構えた。


「それを選ぶのか?」


「はい。加護なしで振れるようになれば、もっと力がつくと思うので」


武器を選んでいるはずなのに、ハンスだけは完全に鍛錬道具を探していた。

とはいえ、鍛錬に使えて、いざという時は武器にもなる。悪い買い物ではないだろう。


「分かった。それも買っておこう」


「まとめて買っていただけるなら、少し値を引かせていただきます」


「助かります」


出費は増えた。

だが、隊商が大きくなった以上、装備を整えておいて損はない。

俺はそう自分に言い聞かせることにした。


***


 倉庫を見た後、同行の話は正式にまとまった。

謝礼は金貨二枚。購入した武器は値引き。出発は二日後の朝。

あとは仕入れを済ませ、増えた人手と荷馬車をどう動かすか決めるだけだった。


  翌日、俺達は朝から仕入れと出発準備に追われた。

テオの鑑定を頼りに、農具や工具、馬具の金具、荷馬車の補修部品などを買い付ける。

その一方で、オルドは新しく雇った者達と鍛冶師組合の護衛三人を引き合わせ、隊列や見張りの段取りを整えていった。

夕方には、仕入れも積み込みも終わり、道中の段取りもほぼ固まっていた。


 俺達の荷馬車は五台。

そこへ鍛冶師組合の荷馬車二台が加わる。

人も、うちの十二人に組合側の六人。


「……多くないか?」


 思わず呟くと、ゼインが楽しそうに笑った。


「いいじゃないか。隊商らしくなってきた」


「俺は、ただ安全に帰りたいだけなんだけどな」


「そのための準備だろ?」


それはそうだ。

そうなのだが、何かが違う気がする。


荷馬車も増えた。

人手も増えた。

武器も整えた。

おまけに、鍛冶師組合の輸送隊まで加わることになった。


ゼオニカまで安全に帰るための準備としては、間違っていないはずだ。

ただ、これを見たゼオニカの連中がどう受け取るか。

それだけが、少し気がかりだった。

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