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行商人サイラスの狂運 ~平穏に暮らしたいだけなのに、【幸運の加護】でなぜか成り上がっていく~  作者: ブラン
第一部 運がいい行商人

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第23話 ジャルミナへの到着

 街道警備隊の野営地での事情確認は、思ったよりあっさり終わった。


「採石場跡を確認した。お前達の話通り、盗賊団は二ついたようだ」


戻ってきた隊員が、報告書を手にそう言った。


「人数も合わせれば四十人前後。争った痕跡もある。……それに、何か大きな獣が暴れた跡もな」


「イノシシですね」


俺がそう答えると、隊員は何とも言えない顔になった。


「イノシシ、か。普通は笑い話で済ませたいところだが、現場を見ると笑えん」


それには俺も同感だった。

盗賊同士の争いにイノシシまで加わったのだから、今思い返しても無茶苦茶な状況だ。


「捕まえた盗賊達はこちらで引き取る。ここまで運んできた分も含めて、正式に報告しておこう」


「お願いします」


盗賊達を警備隊に引き渡し、俺達はようやく身軽になった。


 俺達より数の多い盗賊を見張りながら、余分な荷車まで運ぶ。

トビーやハンスの力を借りて何とかしていたが、あのままジャルミナまで続けるのは厳しかった。

ここで預けられたのは本当に助かった。


***


 二日後、俺達はようやくジャルミナへ到着した。

山の麓に広がる、灰色の石造りの街。

門の前には、商人や職人達の荷馬車が列を作っていた。

鉱石や炭を積んだ荷車も多く、近づくにつれて鉄と炭の匂いが濃くなる。

俺達も列に加わり、いつも通り通行手続きを待つ。

 

 やがて順番が来ると、門番が荷馬車を確認しながら、ふと俺の顔を見た。


「……あんたがサイラスか?」


「え? はい、そうですが」


「街道警備隊から連絡が来ている。七人で二十人以上の盗賊を捕まえた隊商だな?」


「ああ……まあ、成り行きで」


 俺は曖昧に頷いた。

 

「成り行きで二十人以上か。すごいな」


「……ありがとうございます」


 門番はそれ以上深く聞かず、俺達の通行を許可してくれた。

俺達は通行税を支払い、ジャルミナの門をくぐる。

本当なら、まず宿を探し、荷馬車を預け、露店の場所を確認したいところだ。

だが、その前に済ませておくべき用事がある。

採石場跡の盗賊達に関する報奨金だ。


「先に詰め所へ行こう。こういう手続きは、後回しにすると面倒になる」


テオの言葉に、俺は頷いた。


「そうだな。先に済ませてから、宿と荷馬車置き場を探そう」


俺達は衛兵の詰め所へ向かうことにした。


***


 ジャルミナの衛兵詰め所は、門から少し入った場所にあった。

俺達が中へ入ると、すでに街道警備隊から話は通っていたらしい。

受付の兵士が俺の名前を確認し、奥の机へ案内してくれた。


「採石場跡の件については、街道警備隊から報告が届いている」


机の向こうに座った役人は、帳簿を確認しながら淡々と言った。


「捕縛者は二十三名。通常報奨に加え、頭目二名には懸賞金がかかっている。合わせて金貨二十五枚と銀貨六枚だ」


「そんなにですか?」


思わず声が出た。


「本来なら街道警備隊が討伐に出る規模の盗賊団だ。むしろ妥当な額だろう」


役人はそう言って、封蝋の押された革袋を机の上に置いた。

ずしり、と重い音がする。


「ありがとうございます」


俺は革袋と盗賊討伐証明書を受け取った。

盗賊騒動で得た金だと思うと落ち着かないが、商売の資金として見れば、とんでもなくありがたい額だった。


***


 報奨金の手続きを終えた俺達は、宿と荷馬車置き場を確保し、露店を出す準備を整えた。

今回売るのは、ポローニアやゼオニカで仕入れておいた海産物や香辛料、リネン、日用品だ。

鉱山と鍛冶の街であるジャルミナでは、鉄製品には困らない。

だが、海産物やリネンのような外から入る品はそれなりに需要があり、香辛料も珍しがられた。

商売は順調だった。

 

 露店に来る客達の間でも、街道の盗賊団が討伐されたらしい、という話はちらほら聞こえてきた。


「これで少しは荷が通りやすくなるな」


「最近はあの辺りも物騒だったからな」


そんな会話が耳に入るたび、俺は少しだけ肩をすくめた。

今のところ、俺達をその話と結びつける者は少ないらしい

俺は余計なことを言わず、黙って商売を続けることにした。


 数日かけて商品はほとんど売り切れ、売上も予定より良かった。

報奨金と合わせれば、資金にはかなり余裕がある。


「これなら、荷馬車を増やすことも考えていいかもしれないね」


帳簿を確認していたテオが、ふとそんなことを言った。


「荷馬車を?」


「今の三台だけだと、積める量に限りがある。資金を考えると、もう少し仕入れておきたいところだけど、荷台が足りない」


「でも、そんなに多く仕入れて売り切れるか?」


「ゼオニカにはマルコ達がいる。僕達がいなくても拠点で売ってくれるだろう? なら、持ち帰れる量を増やした方が得だと思う」


「ああ……確かに」


ゼオニカには、マルコ達がいる。

持ち帰った商品を売る場所があるなら、荷台を増やす意味は十分にあった。


「ただ、荷馬車を増やすなら人手もいるよ」


テオが帳簿から顔を上げる。


「御者に、荷運び。荷が増えれば護衛も増やした方がいい」


「なら、明日にでも募集を出してみるか」


俺は軽い気持ちでそう決めた。


――報奨金と行商の売上で、資金には余裕がある。

荷馬車を増やし、それに合わせて人手も少し増やす。

その時の俺にとっては、ごく普通の商売上の判断だった。

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