第22話 多すぎる捕虜
捕まえた盗賊達を前に、俺は頭を抱えていた。
歩けそうな者が十七人。
まともに歩けない重傷者が六人。
歩ける盗賊は縄でつないで歩かせればいい。
だが、重傷者だろうと、商品で埋まった荷馬車に盗賊を乗せるのは御免だ。
何か使えるものはないかと周囲を見回すと、採石場の隅に古い荷車がいくつか転がっていた。
……あれならいけるかもしれない。
「テオ、あの荷車は使えそうか?」
俺が指差すと、テオとラルフが荷車の状態を確認した。
ほとんどはイノシシに突っ込まれたのか、車輪が歪んだり荷台が割れたりしている。
だが、一台だけ、まだ形を保っているものがあった。
「使えなくはないな。ただ、引かせる馬がいない。馬だけは、さっきの騒ぎで逃げたか、盗賊が連れていったらしい」
うちの馬を一頭外すことも考えたが、そうすれば商品を積んだ荷馬車が一台動かせなくなる。
俺は少し考え、トビーの馬車へ目を向けた。
トビーが御者台にいる時は、荷馬車の揺れが少ない。
なら、後ろに荷車を一台つないでも、何とかなるかもしれない。
「トビーの馬車の後ろにつなぐのはどうだ?」
テオは渋い顔をした。
「つなぐことはできるだろうが、馬の負担が大きすぎるだろうな」
それはもっともだった。
商品を積んだ荷馬車の後ろに、さらに人を乗せた荷車をつなぐのだ。馬二頭だけで引かせるには、さすがに負担が大きい。
俺が考え込んでいると、ハンスが一歩前に出た。
「俺も一緒に引いてみます」
「ハンスが?」
「はい。俺も引けば、少しは馬の負担も減るはずです」
そう言って頷くハンスの体つきは、以前より少しだけ引き締まって見えた。
ポローニアから戻る道中も、こいつは加護に頼らず荷物を運ぶ訓練を続けていた。細身なのは変わらないが、肩や腕の線には、以前にはなかった力強さが出ている。
「……無理はするなよ。少しでも危ないと思ったらすぐ止める」
「はい」
俺は御者台のトビーを見る。
「トビーも、まずは試すだけでいい。無理かもしれないと思ったらすぐ止めてくれ」
「わかりました」
方針が決まると、俺達はすぐに準備に取りかかった。
採石場の荷車の引き棒を、トビーの馬車の後ろへ太い綱で固定する。
荷車は馬車に引かせ、足りない力はハンスが後ろから押して補うことにした。
歩ける盗賊は縄でまとめて歩かせ、重傷者は荷車へ乗せる。
ゼインとミアが盗賊達を見張り、テオが綱の結び目を確かめた。
「少しだけ動かします」
トビーが手綱を握る。
馬がゆっくりと歩き出し、後ろの荷車がギシリと軋んだ。
綱が張った瞬間、馬の足がわずかに鈍る。
同時に、ハンスが荷車の後ろから、両手で荷台を押した。
荷車が、ゆっくりと動いた。
「……動いたな」
ゼインが感心したように呟く。
トビーは馬を急がせず、慎重に歩かせている。
不思議なことに、馬車の後ろに無理やりつないだ荷車のはずなのに、まるで最初から一つの車体だったかのように、ゆっくりと同じ流れで進んでいる。
「トビー、後ろの荷車の動きも分かるのか?」
俺が聞くと、トビーは戸惑ったように手綱を見下ろした。
「うまく言えないんですけど……後ろの荷車も、馬車の一部みたいに感じます。別々に動かしてる感じじゃなくて、全部まとめて進ませてるような……」
「マジか」
思った以上にいけそうだった。
もちろん、馬だけでは力が足りない。
だが、ハンスが横で引くことで、その不足分を補っている。
トビーが馬車と荷車を一つの乗り物のように進ませ、ハンスが足りない力を補う。
不格好ではあるが、荷車は確かに進んでいた。
「二人とも、すごいな」
俺が素直にそう言うと、トビーは照れくさそうに手綱を握り直した。
ハンスも綱を握ったまま、少しだけ嬉しそうに笑った。
***
古い運搬道は、想像以上に荒れていた。
トビーが砕けた石や深い車輪跡を避けながら馬を進ませ、ハンスが後ろから荷車を支える。
邪魔な木箱や木材は、ラルフとテオが先にどかしてくれた。
不格好ではあるが、荷車は大きく暴れることなく進んだ。
盗賊達も、ミアの弓とゼインの剣を見ているせいか、大人しく歩いている。
やがて木々が途切れ、踏み固められた街道が見えた。
「……やっと正しい道に戻れた」
俺は心底ほっとした。
だが、街道へ出るころには、夜もかなり更けていた。
この時間から村を探して進むのは危険すぎる。
「今日はここで野営する。見張りは多めに立てるぞ」
俺達は街道脇に馬車を寄せ、盗賊達を少し離れた場所に座らせた。
重傷者を乗せた荷車も、動かないように木の近くへ固定する。
テオが焚き火を起こし、ラルフとミアが周囲を警戒する。
俺は縛った盗賊達を見ながら、ようやく少しだけ肩の力を抜いた。
その時だった。
「団長。街道の向こうから人の気配です」
ラルフが低く告げる。
見ると、街道の先にいくつかの松明の明かりが揺れていた。
どうやら、こちらの焚き火に気づいて近づいてきたらしい。
俺は思わず顔を引きつらせた。
今度は何だ。
盗賊の仲間だけは勘弁してほしい。
やがて近づいてきたのは、揃いの革鎧を着た十数人の兵士達だった。
先頭の男が松明を掲げ、俺達の馬車と、少し離れた場所に座らせている盗賊達を見て目を細める。
「止まれ。貴殿らは何者だ? こんな時間に何をしている」
当然の反応だった。
三台の荷馬車。その後ろにつながれた古い荷車。
縛られた盗賊達。
うん。
どう見ても怪しい。
俺は両手を上げ、できるだけ穏やかに答えた。
「行商人です。道を間違えて山道に入ったら、採石場跡に盗賊がいまして……。通り抜けるために、運搬道を塞いでいた連中を取り押さえました」
「採石場跡に盗賊だと?」
隊長らしき男の目が鋭くなる。
「……盗賊であることに間違いはないんだな?」
「それは間違いありません。採石場には盗品らしき荷物も残っています」
ラルフがすぐに補足した。
話を聞くと、彼らはジャルミナの街道警備隊だった。
最近この周辺で盗賊被害が増えているため巡回範囲を広げ、今夜は近くの村で野営していたらしい。
そこから街道脇の焚き火が見え、確認に来たそうだ。
隊長は縛られた盗賊達を見回し、すぐに判断を下した。
「二人は村へ戻って応援を呼べ。残りは盗賊を見張る」
それから、俺達へ視線を戻す。
「貴殿らもしばらく留まってくれ。詳しい話は後で聞く」
「分かりました」
警備隊が盗賊達の周囲を固めると、俺達はようやく少し離れた場所で休むことを許された。
完全に解放されたわけではない。
だが、このままジャルミナまで盗賊を連れていけば、寝る間も交代で見張り続けることになっていた。
何より、ハンスにあの荷車をこれ以上支えさせずに済みそうなのが助かる。
本人は平気そうな顔をしているが、ジャルミナまで続けられるようなやり方ではない。
しばらくして、村の方から追加の兵士と荷車がやってきた。
「この者達は、我々の野営地まで連れていく。貴殿らにも同行してもらう。採石場の状況や捕縛までの経緯を確認する必要がある」
「分かりました」
ようやく正しい道に戻れたと思ったら、今度は警備隊の野営地へ向かうことになった。
だが、盗賊を自分達だけで運び続けるよりは、よほどいい。
これで、ひとまず今夜は何とかなりそうだ。
――この時の俺達は、厄介事から解放されたことに安心しきっていた。
採石場跡で起きた騒動が、職人の街『ジャルミナ』でどのように語られることになるのかも知らずに。。




