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行商人サイラスの狂運 ~平穏に暮らしたいだけなのに、【幸運の加護】でなぜか成り上がっていく~  作者: ブラン
第一部 運がいい行商人

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第20話 地図にない分岐

 マルコ達にゼオニカでの販売を任せた俺達は、数日間の休養を取った後に職人の街『ジャルミナ』へ向けて出発した。

メンバーはポローニアへ向かった時と同じ七人だ。

馬車三台で安全に荷物をできるだけ多く積めるようにと考えるとこのメンバーが最も都合がいい。

今回の目的は、ジャルミナで農具や金属製品を仕入れることだ。

ゼオニカに戻るころには春が近づいており、農具がよく売れるだろう。


 ジャルミナに向かう道中、地図に記された村で野営をしながらここまで順調に進んできた。

今日も本来なら昼過ぎには次の村が見えているはずなのだが、日が傾きかけた今となっても村らしきものは見当たらない。


「……ちょっと待ってくれ。一旦止まろう。」


俺は嫌な予感がよぎり、荷馬車を止めた。

地図を広げ、周囲の景色と見比べる。

ジャルミナは山に囲まれた場所に存在する。右手の遠くに小高い山が連なっており、そのあたりにジャルミナはあると思われる。しかし、ジャルミナがあると思われる方角とは反対側に逸れているように見える。


「……なぁ、テオ。まだ村につかないのはさすがにおかしくないか?」


俺の声にテオが地図をのぞき込む

テオは周囲の山並みと地図を何度か見比べた後、眉間に深いしわを寄せて呟いた。


「……まずいな。」


「え?」


「これは、ジャルミナに向かう道じゃない。」


俺は嫌な汗をかいた。

原因はすぐに判明した。どうやら、カルデリア帝国軍が隣国の『ロヴァルド砦』を攻略するために、最近新たな軍道を整備したらしい。その影響で古い地図にはない分岐が増えており、本来曲がるべき分岐より一つ手前の道に入ってしまっていたようだ。


「戻るか?」


ゼインがあっさりと言う。


朝からずっとこの道を進んでしまっている。今から引き返しても今日中に予定の村につくことは不可能だろう。


「戻るにしても、今日は野営する場所を探す必要があるな。」


テオが冷静に言う。

俺はもう一度、地図と周囲の山並みを見比べた。

本来のジャルミナへの道は、右手に見える山並みのふもとへ向かって伸びている。今いる場所から真っ直ぐ山側へ抜けられれば、本来の道へ戻れるかもしれない。

問題は、馬車で通れる道があるかどうかだ。


 そう思って周囲を見回すと、荷馬車がぎりぎり通れそうな古い山道が見えた。

地図を見る限り、この道は本来の街道がある方角へ続いている。

うまく抜けられれば、来た道を戻るよりはるかに早く、正しい道へ復帰できるはずだ。

もちろん、山の中に入るのは危険だ。

だが、今から戻っても今日中に予定の村に辿り着くことは不可能だろう。結局どこかで野営地を探すことになるのなら、少しでも正しい道に近づいておきたかった。


俺は深く息を吐き、腹をくくる。


「……よし。この道を通って、正しい道に戻ることにしよう」


自分で言っておきながら、ものすごく嫌な予感がした。


***


山道を進んでしばらくすると、先行して索敵していたラルフがスッと手を挙げて馬車を止めた。


「団長、たくさんの人の気配がします。少なく見ても三十人以上……四十人近いかもしれません」


「四十人……?」


思わず声が裏返りそうになった。

だが、それだけの人数なら野盗というより、大きな隊商の可能性もある。道を間違えた今、地元の道に詳しい隊商がいれば助かるかもしれない。


「……いきなり近づくのは危ないな。まずは馬車を隠して、遠目に確認しよう」


俺がそう言うと、テオも頷いた。


 俺達は山道から少し外れた木立の奥へ馬と荷馬車を隠し、最低限の人数で様子を見に行くことにした。

偵察に向かうのは、俺、ゼイン、ラルフ、ミアの四人。

本音を言えば俺も留守番していたいが、一応はこの隊商の責任者だ。ここで「怖いから待ってます」とは言えない。


俺はなるべく足音を殺しながら、ラルフとゼインの後ろに続いた。

人の気配に近づくにつれて、木々の奥から男達の話し声が聞こえてくる。


(……隊商にしては、ずいぶん騒がしいな。)


俺は嫌な予感を覚えながら、茂みの陰に身を潜めた。


 四人で山道沿いの茂みに身を隠しながら進んでいくと、やがて木々の先に、山肌を削り取ったような開けた場所が見えた。

古い採石場跡だろうか。奥には切り立った岩壁があり、手前側には石材を運び出すための広い坂道のようなものが残っている。

その採石場跡に、複数の焚き火が揺れていた。

火の周りには柄の悪い男達が集まり、近くには数頭の馬と荷車、粗末な天幕が並んでいる。

武器を手にした男達の足元には、どこかの商人から奪ったと思われる木箱や麻袋が無造作に転がっていた。


(これはどう見ても盗賊じゃないか……?)


俺がそう思った直後、ゼインが冷たく吐き捨てた。


「あれは盗賊だな」


「少なくとも、隊商には見えませんね」


ラルフの言葉で、嫌な予感は確信に変わった。


(四十人規模の盗賊……?)


ただの盗賊団にしては、数が多すぎる。

よく見ると、男達は焚き火を囲んで大きく二つの塊に分かれていた。採石場の奥に陣取る連中と、広い坂道の近くに固まる連中。

仲間……というには、どうにも空気が悪い。

俺は、様子を見るためとはいえ近づきすぎたことを悔やんだ。


――すぐに引き返そう。

そう思った矢先、採石場の奥で、男達の笑い声が途切れた。

代わりに、何かを巡って言い争うような怒鳴り声が響いた。

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